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好ましくない、というよりも寧ろ強い懸念を感じる既視感


 デジャブという表現がある。日本語に当て嵌めると既視感とされる事が多い。Wikipedia の「既視感」のページには、
 実際は一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じる現象
とあるが、場合によっては夢に見たことが現実になる事、つまり予知夢のような現象で起きるのは不吉な事が起きる前兆、として扱われる事もある。また日本語だと、既視という文字が当てられる為か、体験したことがあるかないかに関わらず、一度見た光景、若しくは以前に見た状況に酷似した様子を目の当たりした際などにも用いられる。
 昨日は2つの既視感のある事案が報道されていた。1つは「乳腺外科医に無罪判決 「女性の胸を舐めた」として準強制わいせつ罪に問われていた」(ハフポスト)という件で、もう一つは、「米朝前に日米首脳が電話会談 拉致解決へ協力で一致 5月26日訪日も確認」(産経新聞)という件だ。


 まず、「乳腺外科医に無罪判決 「女性の胸を舐めた」として準強制わいせつ罪に問われていた」(ハフポスト)についてだが、男性医師が執刀後に女性患者の胸を舐めたとして準強制わいせつで訴えられた刑事裁判に関する記事で、この件では、被害を訴えた女性は、当時麻酔の影響などで現実と幻覚の区別をつけることが難しい”せん妄”状態だった恐れが否定できないこと、DNAの検出を行った科捜研の捜査手法について、採取状況が写真撮影されていないことや抽出液が破棄されていること、実験ノートが鉛筆書きで修正があったことなどが指摘され、男性医師を無罪とする判決が示された。
 女性がせん妄状態、つまり
意識混濁し幻覚・錯覚を見てしまうような状態だったのであれば、被害を訴えた事自体は、医師を陥れる為の狂言とまでは断定できないだろうが、唾のDNA鑑定が、女性の証言を証明することを前提に、若しくは必要以上に重視して行われていた感は否めない。判決で指摘されたのは「唾液がどこから抽出されたのかは定かでない」、言い換えれば「女性の胸部から採取された唾液のDNA鑑定が行われたと断定できない」ということである。
 この件から分かるのは、DNA鑑定という一見それだけで科学に基いた合理性があると認識してしまいがちな捜査手法でも、検出されるものが肉眼での認識が難しいDNAという微細なものであるからこそ、どこか別の場所から抽出することもそれほど難しくなく、例えば取り調べ中に飛んだ唾からも抽出することも可能だということだ。また、例えば容疑者の髪の毛等を事前に入手しておいて、現場検証などの際にそれとなく紛れ込ませ、あたかも元からそこにあったかのように採取して証拠とするようなことも可能だろう。
 勿論この判決では捜査機関による証拠の捏造が認定された訳ではなく、その恐れが否めないというだけなのだが、逆に言えば、捜査機関は科学的な捜査という事だけに胡坐をかくことなく、出来る限り証拠の正当性を証明できるように注意を払わなければならないという事だし、メディアや市民も、指紋・DNA鑑定・科学的な証拠というだけでその妥当性を判断してはならないということ、そして捜査機関に対して過度に性善性を期待してはならないということだ。


 これの何が一体既視感なのかと言うと、数年前に熊本県警で、署内で採取した容疑者の指紋を、現場や証拠品から採取したと鑑識係長が偽るという件があったからだ。その件について熊本県警は当初「捏造ではない」という見解を示していたが(毎日新聞の記事)、最終的には県警警部補が虚偽有印公文書作成・行使で有罪判決を受けている(産経新聞の記事)。昨日報じられた男性医師の件に関して、今後男性医師が不当捜査で捜査機関を訴えるか否かは定かでないが、もし警察が訴えられれば、熊本県警のようにDNA鑑定の偽造が明らかになる恐れもある。指紋の偽造ですら恐ろしいのに、容疑者さえいれば簡単に採取出来てしまう唾、髪の毛、尿や汗などにも含まれるDNA鑑定で偽造が行われていたのなら、今後は科学的な捜査全体が信頼性を失いかねない深刻な事案だろう。国の発表すること全ての信憑性を下げた統計不正に匹敵するような大問題に発展する恐れもある。


 次は「米朝前に日米首脳が電話会談 拉致解決へ協力で一致 5月26日訪日も確認」(産経新聞)について。電話会談直後の首相の会見を速報したTBSニュースの動画記事「日米首脳電話会談終え、安倍首相は・・・」によると首相は、
 来週予定されている2回目の米朝首脳会談に向けて、対応方針について日米でじっくりと、そして緊密にすり合わせを行いました。核・ミサイル問題、そして拉致問題の解決に向けて、日米であらゆるレベルで一層緊密に連携していくことで一致したところでありますが、特に拉致問題についてはトランプ大統領と、より時間をかけてしっかりとお話をいたしました。
 昨日(私は)拉致被害者のご家族の皆様とお目にかかり、その切実な思いを伺ったわけでございますが、如何にご家族が再開を希望しているか、帰国を希望しているかという気持ちも含めトランプ大統領にお話しをしたところで、協力を要請したところでございますが、トランプ大統領も私の話に耳を傾けて下さり、私(安倍氏)が如何に拉致問題を重視しているかということが「よく理解出来た。だから私も拉致問題を重視する」と(トランプ氏に)明確に述べて頂いたところでありまして、前回同様協力を約束してくれたところでございます。(中略)
 この(米朝首脳)会談が核・ミサイル、そして重要な拉致問題の解決に結び付き、東アジアの平和と安定につながっていくことを強く期待しておりますし、その為に更に日米で緊密に協力をしていきたいと思っております。
と述べている。 これが既視感ではなくて一体何だと言うのだろうか。核・ミサイル問題、拉致問題の解決で一致なんて今に始まったことではない。もう相当前から、というかトランプ大統領の就任直後、つまり2年も前から既に一致しており、一応確認した、ということなのかもしれないが、そんな一致はあまりにも当然過ぎる。拉致問題解決を重視するという話も、昨年の米朝会談直前の日米首脳会談と殆ど同じことしか言っていない(2018年4/20の投稿)。昨年の米朝会談で拉致問題が重視されたかどうかについて、恐らく多くの日本人は「トランプ氏は米朝会談で拉致問題にも触れるには触れたのかもしれないが、重視したとは言えない」と感じているのではないだろうか(2018年6/13の投稿)。拉致問題解決に向けてトランプ氏が「前回同様協力を約束した」のは事実だろうが、前回の会談内容を勘案すれば、トランプ氏が約束を守り協力したかどうかは定かでない、むしろ協力するという約束を履行したとは言い難いという状況であって、そんな意味では「前回同様協力」とは言えないだろう。また進展が殆どなかったのは拉致問題だけでなく、核・ミサイル問題についても同様だ。今回トランプ氏は会談前から「非核化は急がない」と言っている。つまり今回の米朝会談でも、核・ミサイル問題にも拉致問題にも進展が起きるとは思えない。
 こんな他人任せの状況で「拉致問題を重視している」と言ってのける安倍氏の言葉に信頼感があるだろうか。しかも彼は、オリンピック招致の際に「(事故を起こした福島第一原発は、汚染水は)アンダーコントロール」と世界中に対して嘘をつき、必ず行うとしていた消費増税を延期したことを「新しい判断」と言い換え国民に対して嘘をつき、普天間基地の辺野古移設問題に関して「県民の気持ちに寄り添う」「あそこのサンゴは移して(移植して)いる」と沖縄県民に対して嘘をついてきた人間だ。
 「日米両首脳が昨年の米朝会談前と同じ様な振舞いなのは外交上当たり前」のような事を言う人もいるが、安倍氏が拉致問題を重視と言い始めたのは昨年の米朝会談以降ではない。拉致問題に関して、安倍氏が大したアクションも起こさずに就任以来かれこれ6年以上「拉致問題を重視している」と言い続けているのは紛れもない事実だ。もしかしたら水面下の交渉をしているのかもしれないが、全く成果が出ていない事は事実だ。政治家は学生とは異なり努力だけでは何の意味もなく、重要なのは結果である。

 捜査機関にしろ総理大臣にしろ、どちらも強い権限を持つ国家権力なのだが、それらに関して好ましいとは到底言えない既視感が見えてしまうということは、権力に胡坐をかいて反省をしていない、改善・進展は望めないということなのではないか?と思えてしまう。

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