今年のNHK大河ドラマ・いだてん 東京オリムピック噺。2020年東京オリンピック前年に「大会を盛り上げよう」という趣旨で、前回の東京オリンピックを題材にしたドラマをNHKが放送するのは、ある意味では自然なのだが、誘致に関する裏金疑惑、国立競技場建て替えやエンブレム盗作騒動、復興五輪・コンパクト五輪・アスリートファーストなど羊頭狗肉のスローガンが掲げられていたこと、首相が誘致活動の中でついた「福島原発事故はアンダーコントロール」という嘘、あまりにも商業主義的な傾向、この上なく杜撰な猛暑対策など、オリンピック自体の意義が疑わしい状況にあって、東京オリンピックを題材としたドラマをNHKが放送することは、昨今のNHK報道が政府広報化していることなども勘案すると、都合の悪いことから注目を逸らし、オリンピック開催を美化して宣伝する行為という印象が強く、言い換えれば、大河ドラマ「いだてん」はオリンピックを利用した国威発揚の一翼を担う存在と感じられた為、放送前、放送当初はあまりよい印象を抱けなかった。
よい印象を抱けなかったものの、近代日本を舞台としたドラマや映画を見るのは好きだし、ある程度予算を使えるNHK大河ドラマなのでセット等もよくできているように見え、結局のところ毎回欠かさず視聴を続けている。「いだてん」は大河ドラマ史上ワーストレベルの低視聴率なのだそうだが、現在の日本社会が抱える問題は、大正・昭和初期から大きく変わっていないことを指摘する要素が多く盛り込まれており、回を追う毎に当初の国威発揚ドラマ的な印象は変化し、「いだてん」は他の大河ドラマにはあまりない社会風刺性のある良作というイメージを、今では確信するに至っている。
例えば、関東大震災のシーンでは朝鮮人に関するデマを取り上げ、1930年代に入ると急速に言論の自由の抑圧が始まる空気感も描き、また、登場人物の1人が学徒出陣で出征するという設定があったり、中学高校の歴史の授業で端折られがちな部分、しかも日本人にとって後ろ暗い部分を積極的に描いており、現在日本の一部で急速に広がりつつある都合の悪い過去の歴史を根拠なく否定したり歪曲しようとしたりする、所謂歴史修正主義に対する牽制が、ドラマを通して行われているようにも感じる。
登場人物の1人が学徒出陣で出征するシーンは、10/6放送の第38回「長いお別れ」の中で描かれた。この回では1940年オリンピック開催を返上するシーンと、オリンピック招致を目指して作られた明治神宮外苑競技場で、1943年10/21に出陣学徒壮行会が皮肉にも行われるシーンが描かれている。
76年前の10/21に学徒出陣走行会が行われたことに因んで、BuzzFeed Japanは昨日、「「何のための戦争だったのか」76年前のきょう、学徒出陣を見送った少女が思うこと。」という記事を掲載した。実際に76年前の学徒出陣走行会のスタンドにいた、93歳の女性・三橋 とみ子さんに、当時の様子やその前後の社会の状況を聞く、という体裁の記事である。
ほんの数年前までは「そんなことは現実になるわけがない」と思っていたのだが、この記事を読んでまず頭に浮かんできたのは、
有権者が政府のいい加減な姿勢を見過ごしたり、無関心でいたりすれば、再びこんな状況が国を覆う恐れは充分にあり得る。
だった。今の政府では公文書の改竄や捏造・隠蔽が頻発し、そんな前代未聞なことが起きても責任を負うべき人達は一切責任をとらない。更に、昨今は都合の悪いことになりそうな文書に残さないという傾向まで見える。
安倍首相は、10/18に自衛隊の中東派遣を支持したそうだが(東京新聞:自衛隊、中東独自派遣へ 首相検討指示 有志連合参加せず:政治(TOKYO Web))、現政権は、これまで戦後どの政権も「集団的自衛権は憲法で認められていない」としてきた憲法解釈を閣議のみで覆し、集団的自衛権の行使は憲法で認められているという前提の法案を、2015年に平和安全法制と称して成立させた。その翌年・2016年に、南スーダンにPKO活動の一環で派遣された自衛隊が戦闘に巻き込まれた、という記述のある日報の隠蔽が発覚し、更に2018年には、2003-09年の間に行われた自衛隊のイラク派遣時の日報の隠蔽も発覚した。過去の海外派遣に関して検証し、今後の活動に活かす為に不可欠な資料が隠蔽されたり、廃棄されてしまうような状況では、動員される自衛隊が余りにも不憫である。
このようになし崩し的にことが進められるような状況に鑑みると、1-2年後すぐに、というわけではないにせよ、将来的には学徒出陣走行会のようなことが再び起きかねない。7/17の投稿、8/28の投稿などでも書いたように、政権に反論する声を上げる者を警察が不当に排除する事案も既に複数起きているし、9/27の投稿、10/18の投稿でも書いたように、後だしジャンケン的な手法で表現活動・芸術活動に対する不当な判断も既に複数示されている。そして、こんな状況にもかかわらず、相変わらず各種世論調査では政権支持率は横ばいか微増、支持理由は「他よりマシ」という結果が出る。だから「有権者が政府のいい加減な姿勢を見過ごしたり、無関心でいたりすれば、再び戦前戦中のような状況が国を覆う恐れは充分にあり得る」と感じられてしまうのである。