しばしば話題になるメディアにおける「容疑者」という呼称。直近で言えば、4/21の投稿、5/10の投稿、5/13の投稿でも取り上げた、池袋で乗用車を暴走させ、親子2人が死亡、8人が怪我をするという事故を起こした当事者を、メディアがなんと呼称したかで「容疑者」という呼称に再び注目が集まっていた。
ハフポストは当時「池袋の母娘の死亡事故、メディアが「容疑者」と報じない理由とは?」という記事を掲載している。その記事では「容疑者という呼称は、逮捕や指名手配された場合に使用される」と説明されており、同様の記述が Wikipedia:被疑者#「容疑者」の語について にもある。概ねこのような基準で、メディアが「容疑者」という表現を用いていることに間違いはなさそうだ。
昨日・10/23、ハフポストは「道端アンジェリカさんを書類送検。夫と共謀して35万円恐喝した容疑」という記事を掲載している。
スクリーンショットからも分かるように、これは朝日新聞「道端アンジェリカさんを書類送検 35万円を恐喝容疑」の転載記事だ。記事には
知人男性から35万円を脅し取ったとして、警視庁はモデルの道端アンジェリカさん(33)を恐喝容疑で書類送検した。共犯としてすでに夫を逮捕しており、道端さんの関与についても、本人から任意で事情を聴くなどして調べていた。
組織犯罪対策2課によると、道端さんは夫で韓国籍の飲食店経営キム・ジョンヒ容疑者(37)=東京都港区三田1丁目=と共謀し、8月7日午前10時ごろ、東京都渋谷区内の会社事務所で、知人で40代の同社役員男性を「うそをついたら鉛筆で目を刺す」「お前の家族をめちゃくちゃにしてやる」などと脅し、指定した口座に35万円を振り込ませた疑いがある。キム容疑者が実行役で、道端さんも同席していたという。という記述がある。同じ事件の共犯容疑であるにもかかわらず、夫はキム・ジョンヒ容疑者、妻は道端アンジェリカさんと表現されている。
「容疑者という呼称は、逮捕や指名手配された場合に使用される」という基準に当て嵌めれば、夫は逮捕されているので「容疑者」、妻は任意の聴衆の結果による書類送検なので「さん」という肩書・敬称・呼称を用いた、ということなのだろうが、逮捕されていようがいまいが嫌疑がかけられ、送検されていることには違いない。なのに一方は「容疑者」で、もう一方は「さん」というのは違和感がある。
この呼称は他のメディアでもほぼ同じだ。但し一応注釈しておくと、日刊スポーツなどスポーツ紙は軒並み「道端アンジェリカ」と呼び捨て、NHKは「道端アンジェリカ夫妻」と表現している。
TBSも他の大新聞や民放キー局同様に、夫はキム・ジョンヒ容疑者、妻は道端アンジェリカさんと表現している(道端アンジェリカさん書類送検、逮捕の夫に同席 TBS NEWS)。
しかしTBSは、「人材派遣会社 強盗事件、死亡した元従業員の男を書類送検 TBS NEWS」という報道の中で、
警視庁が、すでに死亡している元従業員の51歳の男が事件に関与したとして、容疑者死亡のまま強盗傷害の疑いで書類送検していたことが分かりました。という表現を用いている。既に死亡している男性は逮捕することも拘束することも出来ないのに、「容疑者死亡のまま」と男性を容疑者と呼称している。記事には、
男は事件直前に事務所に給料を受け取りに来ていて、今年8月、文京区のビルで警察官が職務質問をしたところ、屋上から飛び降りて死亡したともあり、 この死亡後に送検された元従業員の男性は、生前も逮捕もされていなければ、逮捕状が請求されていたということもないようだ。にもかかわらず「容疑者死亡のまま」と、男性を容疑者と呼称している。これでは「容疑者」という呼称の用い方に揺れがあり、場合によっては忖度や恣意的な配慮の結果、呼称が使い分けられている恐れがあるという疑念に繋がるのではないか。
この投稿ではTBSの報道を例に「容疑者という呼称は、逮捕や指名手配された場合に使用される」という定義への違和感、「容疑者=犯人」という印象を強く抱かせるような報道への違和感などについて書いたが、これは決してTBSに限った話ではない。このような報道姿勢が、社会にどんな影響を及ぼしているか、大新聞や民放キー局等、影響力の大きなメディアは特に、今一度よく検討するべきではないだろうか。
トップ画像は、4711018によるPixabayからの画像 を加工して使用した。