2010年代初頭に、色々な場所、他の人が選ばなそうな場所でうつ伏せになった写真を、SNS等へ投稿するのが流行った。これはPlanking/プランキングと呼ばれ、日本語版ウィキペディアでは「死体ごっこ」と訳してある。Plank/プランクとは「木の板」のことで、うつ伏せになるポーズが木の板っぽいことに由来しているようだ。因みに l が r に変わってPrankだと、いたずら・悪ふざけ等の意になる。公共空間でのプランキングはいたずら・悪ふざけっぽくもあるが、あくまでもPrankingではなくPlankingである。
今日のトップ画像は Planking での検索結果から選んだ。元のプランキング画像に despair とその訳・絶望/失望/落胆/憂鬱という単語を足してある。元々自分が探していたのは、「見るに堪えない/聞くに堪えない」を意味する dismal に関する画像だったが、検索結果に乏しくイメージに近い画像がなかったので、検索ワードを despair に変更したのだが、それでも検索結果は芳しくなかった。そこで絶望を連想するポーズを考えた。頭を抱えるポーズも連想したが、9/14の投稿で似たような画像を使ったことを思い出し、今日はうつ伏せに突っ伏すポーズにしようと考えた。その結果Plankingで検索し、絶望が感じられたのが今日のトップ画像に用いた写真である。出典はいつものように後述する。
何が「絶望的/見るに堪えない/聞くに堪えない」のかと言えば、山口 敬之氏の会見である。昨日の投稿では、伊藤 詩織さんが当時TBS記者だった山口氏から性的な暴行を受けたとして損害賠償を求めた裁判に関しては、
近日中に改めて書いてもよいとも思ったが、既に多くの記事が書かれ、SNS上でも多くの見解が示されているし、それらと大きく異なる視点や主張も持ち合わせていないので、昨日から今日にかけて自分が投稿したツイートを、時系列順に並べることにする。としたが、昨日も日本外国特派員協会で両者の会見があり、それを受けた報道も多かった。会見やそれらの記事を読むと、前日の話に反してやはり自分の受け止めを書いておきたくなってしまった。
まず、日本外国特派員協会での両者の会見と、前日の12/18に、判決を受けて行われた両者の会見のノーカット映像を紹介しておく。12/18に示された判決内容は「裁判所は伊藤詩織さんと山口敬之さんの主張をどう判断?ポイントを箇条書きにした BuzzFeed Japan」の要約が秀逸で、以下の映像を見る前に確認しておくと内容が分かり易い。
前述のBuzzFeed Japanによる判決で示された内容の要約記事にもあるように、東京地裁は、ホテルでの件があった後、山口氏が伊藤さんへのメールで、伊藤さんから自分が寝ていた窓側のベッドに入ってきたと説明したが、法廷での本人尋問では、伊藤さんに呼ばれたので窓側のベッドから、伊藤さんが寝ている入口側のベッドに移動したと供べており、話が矛盾することなどを理由に、性行為は合意の下で行われた、などの山口氏の主張に合理性を認めなかった。伊藤さんが記者会見や手記などを通して被害を訴えたことで、名誉を毀損され信用が失われた、そしてプライバシーも侵害されたとして、慰謝料1億3000万円や謝罪広告の掲載を求めた山口氏による反訴も棄却した。
山口氏はこの判決を不服とし、控訴すると表明しているが、彼の会見での主張を見れば・聞けば、裁判所の判断の合理性、そして山口氏の主張の合理性のなさがより際立つ。自分が強くそう感じたのは次の2点からだ。質疑応答の文字起こし部分は「「安倍さんや菅さんの力を借りたんですか?」外国人記者が会見で、山口さんに質問したこと。BuzzFeed Japan」からの引用である。
まず1つ目は、
Q、逮捕状が取り消しになったことについて、「上級国民扱い」という言葉もありますが、菅さんの力が及んだのではないんですか?菅さんたちに力を借りましたか?というやり取りに関してだ。山口氏は「捜査や逮捕状が出ていることを知らなかったのだから、誰かに助けを求めることはできない」と言っている。説明に反して実際は山口氏が、性行為が合意によるものではないと、若しくはその恐れがあると認識していた場合、伊藤さんが警察に届け出るかもしれないと推測しても決して不自然ではない。つまり捜査や逮捕状が出ていることを知らなかったとしても、捜査されるかもしれない、逮捕状が出るかもしれないと考え、予防的に誰かに助けを求めた可能性は否定できない。裁判所も指摘しているように、山口氏の主張には合理性に欠ける部分が多く、説明に反して実際は山口氏が性行為が合意によるものではない恐れを認識していた可能性も否定できない。というか12/18の判決は、性行為が合意によるものではなかったと認定している。
A、この件に関して、政治家、権力者、警察、誰に対しても助けを求めたことはありませんし、逮捕状が出ていることすら知らなかったので、それについて誰かに助けを求めることもできません。
Q、友人である安倍首相ともこのことについて話したりしなかったのですか?
A、私はまず犯罪をおこしていません。なので自分の捜査や逮捕状について誰かに助けを求めることはできません。報道が出たあとは、私が誰かにメールや電話をすることは誤解を招くと思ったので、連絡を絶ちました。なのでどの官僚にも、政治家にも助けを求めていません。
つまり、山口氏の、これらの質問への説明もまた合理性のある根拠に欠けている。あたかも「捜査や逮捕状が出ていることを知らなかった」 ことが「誰かに助けを求めることはできない」ことの合理的な根拠であるかのような見解を示しているが、決してそんなことはない。勿論、現状では山口氏が政治家や権力者・警察に対して助けを求めたという確たる証拠はないのだが、この件に関しては突然逮捕状が取り消されるなど不可解な点も多い(日本は、なぜ「性暴力被害者」に冷たいのか | 災害・事件・裁判 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)。山口氏が誰かに助けを求めた確たる証拠がない一方で、山口氏も大した根拠を示さずに「そんなことはない」と言いっているに過ぎない。
2つ目は、
Q、あなたは、伊藤さんが多くの嘘をついていると話しています。それなら伊藤さんはなぜ、この件について嘘を述べる必要があるのでしょうか?という話に関してだ。 記者の「なぜ伊藤さんが嘘をついていると思うのですか?」という質問に対して、山口氏はまず「彼女が嘘をつく理由を想像するのはとても難しい」と述べている。つまり「ただなんとなくそう思う」と言っているにも等しい。続けて彼は「彼女は嘘つきの常習犯だ」としている。「なぜ嘘吐きだと思うのか?」という質問に対して「彼女が嘘吐き」だからと言っているにも等しい。これによって前述の、「ただなんとなくそう思う」と言っているにも等しい、という話が更に信憑性を増す。根拠もなく人を「嘘つきの常習犯」と言うのは、名誉を棄損する行為にもなりかねない。更に「この裁判を通して彼女は多くのものを得ています」も、恐らく、彼女はジャーナリストとしての名誉や慰謝料目当てで裁判を行い、それを得ている、という意味だろうから、合理的根拠もなくそんなことを言うのも、名誉を棄損する行為に当たる恐れがある。
A、彼女が嘘をつく理由を想像するのはとても難しいですが、彼女は嘘つきの常習犯だということです。伊藤さんの人間性、信頼性を攻撃したいとは思いませんが、国内外の注目を集め、この裁判を通して彼女は多くのものを得ています。
また彼は、「伊藤詩織さんと元TBS記者の民事訴訟、「合意ない性行為」認め山口敬之さんに330万円の支払命令 東京地裁 | ハフポスト」によると、
山口さんは、法に触れるような行為は「行なっていない」として、伊藤さんの主張については「虚言癖」だと反論した。と、裁判中にも伊藤さんのことを「虚言癖」だと述べていたらしい。明確な根拠もなく、他者を「嘘つきの常習犯」「虚言癖」などと罵る者の主張に、合理性が認められなくてもそれは仕方のないことだ。
これらのやり取りや、それ以外の山口氏と記者のやり取りを見ても、彼が質問に適切に答えられていない事がよく分かる。自分は山口氏の応答を見て「絶望的/見るに堪えない/聞くに堪えない」と感じたのと同時に、ある種の既視感も感じた。彼は質問に適切に答えられないのではなく、適切に答えるつもりがないのではないかと強く感じる。既視感の理由は、山口氏と親密であるとされている、首相や官房長官らの答弁スタイルが、山口氏のそれととてもよく似ていたからだ。
12/12の投稿などで指摘したように、首相や官房長官らの、質問に適切に答えないではぐらかす、尤もらしく語っているようで、内容の薄い話を、餅を伸ばすかのように無駄に時間を引き伸ばして話す等のスタイルは、決して今に始まったことではないが、桜を見る会の問題が浮上してから更に拍車がかかっている。聞かれたことに答えず、大して中身のないことを、あたかも整合性があるかのように話すスタイルは、安倍/菅/山口、そして環境大臣の小泉氏にも共通するスタイルである。
この裁判については、「伊藤詩織さんの勝訴、海外メディアが続々と報じる「ブラックボックス打ち破る」 | ハフポスト」が報じているように、BBC・AFP・ロイター・ワシントンポストなど海外の主要メディアも報じており、日本だけでなく世界中から注目が集まっている。それらは日本の大手メディアとは違い、山口氏と安倍氏の距離の近さも報じている。そのように注目が集まる中で、山口氏が、首相や官房長官と同様の、聞かれたことに答えないスタイルで質問に応じることは、彼と安倍氏らの距離感の証明であり、日本の恥部を晒す行為にも等しいと自分は捉えている。
そもそも、たった1年前・2018年の春に、副首相が財務省事務次官がテレビ朝日の女性記者にセクハラ行為をした件に関して、 副首相が
- はめられて訴えられたのではないかと、いろいろなご意見は世の中にいっぱいある
- セクハラ罪という罪はない
日本の異様さを世界に知らしめているのは麻生氏や山口氏だけではない。伊藤さんは昨日の会見の中で、「伊藤詩織さん、中傷やセカンドレイプに「法的措置をとる」 | ハフポスト」という見解も示した。
具体的な人物名は上げられなかったが、記事には
SNSでは、伊藤さんらしき女性の横に「枕営業大失敗」などの文字が入ったイラストが拡散されたこともあったとある。 これは明らかにこのツイートのことだし、
「山ロ(ヤマロ)沙織〜オシリちゃんシリーズ(計5作品)」の風刺画はフィクションであり、実際の人物や団体とは関係がありません。故に今回の地裁判決により作品を削除する意向は、当方にはございません。 pic.twitter.com/Koj6GHvhoh— はすみ としこ (@hasumi29430098) December 19, 2019
この画像を用いたネット放送には、自民党の長尾 敬議員、杉田 水脈議員も出演し、明らかに同調していた。
自民党杉田水脈議員と長尾敬議員が、詩織さんを中傷するはすみのポンチ絵に、大笑いし手を叩いて喜んでいた様子、杉田水脈議員がBBCのインタビューになんと言っていたのか、BBCドキュメンタリーの一部動画を、SHINさんというアカウントがあげてくれています。pic.twitter.com/sqSP665Kdg— mipoko (@mipoko611) December 19, 2019
しかも杉田氏は、
国会議員の杉田水脈はBBCで一躍有名になったがこのツイートを消したと言う通報があったので魚拓晒します。#杉田水脈 pic.twitter.com/cSFgwgCKEb— junko (@junko1958) December 19, 2019
こんなツイートまでしていたようだ。
中傷やセカンドレイプに加担した議員は彼らだけとは言えない。明確な中傷やセカンドレイプに該当するかは定かでないが、伊藤詩織さんへの性暴力について、山口氏の刑事訴追について、検察審査会が「不起訴相当」とした際に、自民党・和田 政宗議員や維新・足立 康史議員らが山口氏と祝杯を挙げるという企画がYoutubeで配信されたそうだ(山口敬之の性暴力認定で擁護していた上念司や足立康史議員が速攻逃亡、なお伊藤詩織さんへの謝罪はなし | BUZZAP!(バザップ!))。つまり、山口氏や麻生氏だけでなく、自民党や維新の複数の議員が日本の異様さを世界に発信しているにも等しい。
また議員ではないが、山口氏の会見に同席していた小川 榮太郎氏は、12/18の山口氏の会見に取材で訪れた伊藤さんに対して、
カルテも動画(ホテルの防犯カメラ映像)も公開されておらず、(裁判所による)閲覧制限がかかっている。その状況で、世界中のメディアの前で、性被害を訴えるのはアンフェアだと思う。だから、きちっと全部情報を公開し、公開情報をもとにもう一度、世界のメディアと向き合われる方がいいなどと語りかけたそうだ。因みにカルテも動画も裁判所には提出されている。つまり裁判所はそれを証拠として判断をしている。一体それの何がアンフェアなのか。全く理解に苦しむ主張だ。
そのような話について丁寧に反論した後に伊藤さんは、 「この際ですから」と苦言を呈しつつ、
(小川さんが)第1回目に書かれた記事を拝読しました。そこで、一般に公開されていない下着の写真を、小川さんは見ています。山口氏を通して写真を見ていたそうなんですけれど、下着のブランド名と特徴が書かれていたんですよねと述べたそうだ(伊藤詩織さんが「この際ですから」と苦言。質問者に「私の下着を公開するな」BuzzFeed Japan )。小川氏は、伊藤さんが記者会見や手記などを通して被害を訴えたことで、自身の名誉を毀損され信用が失われた、そして”プライバシーも侵害された”と反訴した山口氏を擁護している人物だ。セカンドレイプを行っているだけでなく、やっていることも矛盾していると言わざるを得ない。
当時、私はすぐに全ての下着を洗濯してしまったので、(山口さんとのホテルでの件の際)どの下着を身につけていたか覚えていなくて、3つの黒い下着を警察に提出しています
それは(小川さんが)言及されていたものもあれば、他のものもありました。私はやはり女性として、下着を公開したくなかったです。それを公にされた。いろいろとお考えになって書かれてほしい
それが公共にとって意味のあることなのか。さらに、私はあなたから一切、取材を受けていないです。その中で、あなたがジャーナリストとして一方的に書かれるのはどうなのかと問いたいです
因みにこの小川 榮太郎とは、2018年9/21の投稿でも書いたように、杉田 水脈議員が同性愛者差別を行った際に、かなり馬鹿げた内容でそれを擁護した人物でもある。
このように、強姦に及んだ者や副首相、そして何人かの右派政治家や所謂右派論客による、日本の異様さが世界に示されることになる主張は、dismal/見るに堪えない/聞くに堪えない 以外の何ものでもないし、despair/絶望/失望/落胆/憂鬱を感じずにはいられないものでもある。
トップ画像は、Photo by Pim Chu on Unsplash を加工して使用した。