「Horrible Bosses」という映画が2011年に公開され、日本では「モンスター上司」という邦題が与えられた。上司によるハラスメントに悩まされる3人の男性が奮闘する姿を描いたブラックユーモアに溢れるコメディ映画で、続編(モンスター上司2 - Wikipedia)も製作されている。
トップ画像に用いたビックリマンシール風のイラストには、それらの映画との直接的な関係性はない。このイラストは、三条 雅美さんによる@ITでの、2014年の連載企画・モンスター上司図鑑から拝借した。 説明するまでもなく、ハラスメントフルな上司の典型的な例を紹介する企画だ。
なぜこれが目に付いたのかと言うと、「北方領土問題「終止符打つため全力尽くす義務ある」 首相会見 - 毎日新聞」という記事と、「菅氏会見、桜絡みの質問中に官邸側が終了要請 一時紛糾:朝日新聞デジタル」という記事を読んで、そこから
口だけ達者
という言葉を連想し、それに見合う画像を探す過程で、モンスター上司図鑑の「口だけ番長」が出てきたからだ。三条さんによる口だけ番長の解説の冒頭に「口だけ番長」とは、言動に実態が伴わない上司です。とある。まさに前述の記事の首相や官房長官そのものだ。
まず、首相の北方領土問題についての発言について。「北方領土問題「終止符打つため全力尽くす義務ある」 首相会見 - 毎日新聞」によると、安倍氏は12/24の会見で、
私とプーチン大統領の間で、領土問題を次の世代に先送りすることなく、必ず自らの手で終止符を打つとの強い意志を共有している
難しい問題だが、この問題を前進させる、あるいは終止符を打つために全力を尽くす義務が私にあると述べたそうだ。
1つ目の発言について、安倍氏はプーチン大統領と既に20回以上も会談を重ね、2016年には3000億円ものロシアへの経済協力を投入したにもかかわらず(日ロ経済協力、官民で投融資3000億円 :日本経済新聞)、北方領土問題は前進するどころか後退している。最も政権に親和的な全国紙・産経新聞でさえも、「【ロシアを読む】今年も進展なかった日露領土交渉 プーチン氏の“意欲減退”鮮明に - 産経ニュース」という記事を掲載している。産経新聞は北方領土問題に進展がない理由を「プーチン氏の意欲低下」と言いたげで、首相の責任を矮小化しようとしてるきらいがあるが、なんにせよ進展がないことには変わりはない。進展がないどころか、ロシア側は2島返還さえも否定し、日本政府はそのいいなりで、ロシアに配慮して「北方領土と言わずに北方四島と呼ぶように」とまで言い始めている(政府、「北方領土と言わないで」 ロシアとのトラブル懸念 | 共同通信)。
自分は、北方領土の4島返還は非現実的だと以前から感じていたが、これまで安倍氏がそう考えているようには全く見えなかったし、2島返還すら危ぶまれるような状況を作ったのは間違いなく安倍氏である。それを踏まえて安倍氏の発言を聞くと、安倍氏は「私とプーチン大統領で、北方領土はロシア領である、ということを明らかにする強い意志を彼と共有している」と言っているようにしか見えない。ロシア領であることを確認することが、北方領土問題の前進だ、と言っているようにしか見えない。
また、2つ目の発言も単なる言葉遊びだろう。「全力を尽くす義務が私にある」と言っているが、全力を尽くす、というのは、つまり最大限の努力をする、という意味であり、彼が言っているのは「北方領土4島、若しくは2島の返還を実現する義務がある」ではない。言い換えれば、この発言で安倍氏が約束しているのは努力をすることだけだ。
「自民公約、10月の消費増税明記 「早期改憲」盛り込む - 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル」でも指摘されているように、自民党公約では北方四島について「わが国固有の領土である」とされているし、2019年の外交青書からはその文言が消えたが、2018年まで政府も「北方四島は日本に帰属する」としてきた。北方領土が日本の領土であるなら、首相が「ロシアの実効支配を是正して返還を実現する」と述べて然るべきだが、安倍氏は「努力する義務がある」とは言っているが、「返還を実現する義務がある」と言っていない。つまり自分が負っているのは努力する義務だけ、と宣言しているにも等しい。努力というのは「努力した」と本人が言い張ればいいだけだし、「全力で」も同様である。そんな曖昧な表現でしかない。
これは、2017年10/19の投稿でも触れた、所謂ベストエフォートというやつで、結果は保証しないが努力をするだけする、という話を、とても勇ましげに語っているに過ぎない。彼の十八番「言葉遊び」である。これを口だけ達者/口だけ番長と言わずに、何を口だけ達者/口だけ番長と言おうか。
次は「菅氏会見、桜絡みの質問中に官邸側が終了要請 一時紛糾:朝日新聞デジタル」についてだ。昨日の投稿でも触れたように、ジャパンライフが勧誘に用いたビラに掲載した桜を見る会の招待状に振られていた、60という番号が首相枠であることがほぼ確定的となったことで、12/25の官房長官記者会見では桜を見る会に関する質問が続いた。15分を過ぎたあたりで、複数の記者が手を挙げているにもかかわらず、司会役の上村 秀紀 官邸報道室長が「この後の日程があるため、次の質問を最後で」と 会見を終えるよう求めたが、 記者側が「まだ質問がある」として、挙手している記者の質問に答えるよう求た、という件についての記事だ。
次のムービーはテレ東NEWSが公開した12/25午前(25日の会見は午前のみ)の官房長官記者会見の一部始終と、当該部分を抜粋したものである。抜粋部分だけを見ても分かるように、毎日新聞とテレビ東京の記者が、官房長官/官邸の取材対応の消極的さ加減を指摘している。
「菅官房長官、桜を見る会「説明足りないとも思う」「国民から理解されていない」 - 毎日新聞」が伝えたように、12/9の会見で菅氏は、「桜を見る会の問題に関する政府説明は不十分/納得できない」が多数派、という世論調査結果を受けて、
(さまざまな問題で)納得されていない方がたくさんいる。説明の仕方が足りないとも思うという見解を示した。質問を打ち切ろうとしたのは官房長官自身ではなく、司会役の上村 秀紀 官邸報道室長だが、彼は菅氏の部下に当たる立場だ。「丁寧に説明させていただきたい」と言っているのに、応答が杜撰なだけでなく、都合の悪い質問を遮ろうとする。「丁寧に説明させていただきたい」という話は口だけ、つまり首相だけでなく菅氏も、口だけ達者/口だけ番長と言わざるを得ない。
今後とも懇切丁寧に説明をさせていただきたい
昨日は「出生数、初めて90万人割る 19年、見通しより早く:朝日新聞デジタル」という報道もあった。現政権は2012年の成立当初から少子化対策担当大臣を置いてきた(第2次安倍内閣 - Wikipedia)。少子化対策担当大臣が最初に設置されたのは2007年、つまり第1次安倍政権時のことである(内閣府特命担当大臣(少子化対策担当) - Wikipedia)。つまり第2次政権だけで考えても、安倍氏は、既に7年も少子高齢化に歯止めをかけるという目標を掲げている。しかし、現政権下の2016年に出生数が100万人を割り(出生数とは 戦後は年260万人台、16年から100万人割れ :日本経済新聞)、それからたったの3年で今度は90万人を割ることになったという話である。
因みに「出生数減は「令和婚」のせい? 厚労省見解に疑問の声 専門家は「格差」指摘 - 毎日新聞」によると、
厚生労働省の担当者は「令和婚により5月の婚姻件数が増えた結果、出産がそれ以降に先延ばしされたためではないか」としているそうだ。確かに7月には「5月婚姻数、昨年の2倍=「令和婚」で届け出増か-厚労省:時事ドットコム」という報道もあった。しかしそれだけが理由で、たった3年で10万人以上も出生数が減るだろうか。もし本当にそうなら元号など無くすべきだろう。
それは別としても、少子化に歯止めが掛からないどころか、状況が悪化していることは誰の目にも明らかだ。こんなことからも、首相や政府の口だけ達者/口だけ番長さ加減をうかがうことができる。
更に言えば、12/22の投稿で触れたように、デフレ脱却/2年で2%の物価上昇を掲げて成立した政権にもかかわらず、7年が経過した今もその目標は達成できていないし、政権成立当初から女性活躍を謳っているにもかかわらず、それから7年が経過した2019年、日本のジェンダーギャップ指数は121位と過去最低の順位となった(男女平等はまた後退 ジェンダーギャップ指数2019で日本は過去最低を更新し121位、G7最低 | ハフポスト)。外交関連でも、拉致問題解決の決意表明だけは何度もしているが(拉致問題「総力挙げ努力」 菅官房長官:時事ドットコム)、この7年間で進展は一切ない。
こんなにも、7年もの時間と多額の予算を割いて前に進まないこと、進まないどころか寧ろ後退していることがある。つまり現政権の口だけ達者/口だけ番長事案は枚挙に暇がない。勿論現政権に関わらず、どの政権にも達成できない公約は必ずある。安倍自民党政権の前の民主党政権も、成立時に掲げた多くの公約を実現することができなかった。しかし、だから3年足らずで政権の座を追われたはずだし、安倍自民党政権のように、後退しているにもかかわらず、改善しているかのような強調をしていたかと言えば、確かに全くそんな側面がなかったとは言えないが、安倍政権程酷くはなかった。
こんな状況にもかかわらず、未だ4割もの有権者がこの政権を支持している。「安倍内閣不支持42% 支持38%を逆転 朝日新聞社世論調査」には、
安倍内閣の支持率は38%で、11月の前回調査の44%から下落した。不支持率は42%(前回36%)だった。
首相主催の「桜を見る会」について、安倍政権が招待者の名簿を廃棄し、復元できないとしたことに、「納得できない」は76%で、「納得できる」の13%を大きく上回った。とある。この期に及んででまだ「支持する」と言う38%は、カルト宗教に嵌るタイプで、桜を見る会の説明「納得できる」という13%は、既に嵌っているタイプだろう(11/16の投稿)。
トップ画像に載せたように、モンスター上司図鑑には「口だけ番長」以外にも、セクハラに当たるなどデリカシーのない発言をする「デリー」、部下の仕事の成果を横取りしたり、自分の手柄にしたりする「ヨコドリッチ」、仕事を丸投げする「マルナゲドン」がいる。
現政権には、「セクハラ罪という罪はない」「セクハラ問題で辞任した財務次官が女性記者にはめられた可能性もある」と発言したデリー相当の副首相がいるし、失業率が改善しているのは前政権期からの傾向なのに、あたかも自分達の成果のように騙る「ヨコドリッチ」な側面もある。また、英語の民間試験や大学入試共通テストの祭典業務、水道民営化、IR・カジノ事業など、親密な企業等に仕事を丸投げするという意味で、図鑑で紹介されたのとは少し毛色が異なるものの、「マルナゲドン」な側面も現政権にはある。
そんな風に考えると、やはり現政権の支持者・擁護者らはカルトに嵌る/嵌っているタイプと言わざるを得ない。