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アスリートファーストは一体どこへ


 聖火リレーを一般の人が公道から撮影した動画をSNSなどに投稿した場合に、IOC・国際オリンピック委員会が個別に削除要請をする可能性がある、という見解を、2/29に組織委員会が示した(聖火リレー、SNSでの動画公開は禁止 - スポーツ - SANSPO.COM(サンスポ))。オリンピックとは一体誰の為、何の為に開催されるのか。この見解は「聖火リレーは公道で交通規制を行って実施される。日常的な活動を制約するという負担を市民にも求めるのにイベントを私物化するな」などの批判に晒され、しかも当のIOCからも妥当性に疑問を呈され、すぐに撤回されることになった(聖火リレー動画のSNS投稿「やっぱりOK」 組織委 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル)。

 最近は何かと、特に政治家らが、発言を撤回することが頻繁に起きる。どうも彼らは、撤回すればチャラになると勘違いしているようだが、どう考えても撤回する前の主張が当事者の本音だ。
 例えば最近も、法務大臣が「東日本大震災のとき、検察官が最初に逃げた」「身柄拘束をしている十数人を理由なく釈放して逃げた」と国会で発言し、その後「個人的見解」だったとして発言を撤回したり(「検察官逃げた」は事実か 森法相発言はどうして生まれたか - 毎日新聞)、内閣府副大臣が「改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づき緊急事態宣言が発令された場合、民放テレビ局の放送内容の変更を求めることができる」という趣旨の発言を国会でしたことについて撤回したりしているが(宮下内閣府副大臣が答弁撤回 緊急事態宣言下の民放めぐり:時事ドットコム)、撤回しても当事者やその周辺がそのような考えを持っているという事は何も変わらない
 逆に言えば、「撤回すれば問題ない」と受け止める人がいるなら、余りにも人が好過ぎる。


 オリンピックの話題に戻すと、2019年2月にこんな報道もあった。

東京新聞:IOCが「五輪」商標登録 東京大会での便乗商法防止:2020東京五輪:特集・連載(TOKYO Web)


オリンピックという文言やロゴ・マスコット等を勝手に使用するな、という話は当然理解できる。しかし記事にもあるように、五輪はオリンピックの俗称だし、がんばれ!ニッポン!も勝手に使用するな、組織委やスポンサーだけが優先的に使用できる、なんて話は理解に苦しむ。挙句の果て、東京・2020年の使用はセットでなく単体でも不正便乗に該当する恐れがある、なんて余りにもバカげている。東京も2020も誰のものでもない
 一応、
全国各地の商店街などが東京大会に向けた機運醸成のためPRに取り組むのは歓迎する姿勢で「盛り上げを意図した使い方であれば問題視しない」
ともしているが、一方で
特定の商品・ブランドの宣伝目的や商業利用の場合、注意喚起を行う可能性がある
ともしている。商店街がPRに用いるのは商業利用ではないのか?個人商店ならOKで中小企業以上ならアウト?余りにも基準が曖昧すぎるし、この時にも「一体誰の為の大会?」「組織委員会は大会を盛り下げたいの?」という感しかなかった。

 米大統領までもが延期について言及するなど(「東京オリンピックは1年延期すべき」トランプ大統領が発言。何と言った?【発言全文】 | ハフポスト)、新型ウイルス感染拡大によって、東京オリンピックの中止や延期が各所で話題になっているが、2/26の時点で既にこんな記事をハフポストが掲載していた。

東京オリンピック「延期や代替地開催は難しい」 IOCメンバーが新型コロナの影響に言及 | ハフポスト


 記事では、1978年からIOC委員を務めるディック パウンド氏が
開催時期を数ヶ月ずらした場合、アメリカのプロフットボールやヨーロッパのサッカーなど、放映スケジュールが詰まっている北米の放送局が納得しない。1年の延期も資金的に厳しいだろう。期間の開催までの期間の短さから開催地変更も難しい。
という見解を示したとしている。東京オリンピックに関しては酷暑の中での大会になることへの懸念がかなり前から、そして多方面から示され、都や組織委員会などが示す効果も定かでない非論理的な様々な対応案が頻繁に批判されてきた。どう考えても開催時期の変更が最も効果的な対策なのに(2019年8/6の投稿10/6の投稿)。
 また、2018年に開催された平昌冬季オリンピックでも、日中ではなく早朝や深夜に競技が行われるなど、北米の放送時間に合わせたという指摘がされていたが(平昌五輪のいびつな競技時間でトラブル続出 諸悪の根源は米TV局 (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット))、その理由を古参IOC委員がシレっと漏らしたのがこの記事の注目すべき点の1つだ。

 つまりオリンピックは、アスリートファーストでも市民ファーストでもなく、スポンサーファーストである、ということが、これまでも多くの人がそう感じていたが、更に明確になった。
 そんな大会に「復興五輪」などという美辞麗句を掲げて(“復興五輪”「役立つと思わない」6割余 被災者アンケート | NHKニュース / インターネットアーカイブ)、国が1兆6000億円以上の予算を投入している(国のオリンピック関連支出1兆円超す 公表予算額の4倍 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル)。しかも、この1兆6000億は2019年12月時点での数字であり、更に支出が増えることはほぼ間違いない。大会には都も1兆4000億を支出しており、都民であれば更に負担を強いられている、ということになる。東日本大震災、原発事故の復興も半ばな状況で、そんな多額の予算をオリンピックに割いている場合だろうか。
 また、新型ウイルス対策についても、政府と与党は今年度の予備費・2700億円で賄うとし(新型ウイルス対策 与党“予備費活用” 野党“予算案組み替え” | NHKニュース / インターネットアーカイブ)、立民などの野党が提出した、新型コロナウイルス対策に関連予算をつける2020年度予算案組み替え動議を否決した(2020年度予算案、衆院予算委で可決 :日本経済新聞)。日本政府の新型ウイルス対策の消極的な姿勢については、「【襲来!新型コロナウイルス】政府対策、安倍首相の「本気度」は? 「2700億円」助成金は見切り発車か(鷲尾香一) : J-CAST会社ウォッチ」のような指摘もある。ウイルス対策よりもオリンピック優先という感が強く滲んでいる。


 F1やMotoGPなどモータースポーツの世界選手権、そして欧州サッカーやNBAやNHLなどの北米プロスポーツ、そして日本でもBリーグやJリーグ、そしてプロ野球などで中止や開催・開幕延期が決定、若しくは検討されている。個人的には文科省が「部活動も控えろ」と言っていたのに、中止を今まで決定しなかったこと自体に違和感を感じていたが、3/11には春の選抜高校野球大会も中止が発表された。
 しかし、東京オリンピックに関しては、組織委員会、担当大臣、都知事、そして首相までもが「中止や延期は全く検討していない」という姿勢を頑なに示している

 他のスポーツ団体が、観客のみならず選手のことも考慮した上で開催の中止や延期を検討したり決定している中で、中止や延期も検討するが現時点では開催に向けて最大限の努力をする、なら理解もできるものの、中止や延期の選択肢はない、一切・全く検討しない、という人達の、一体どこがアスリートファーストなのだろうか。全く「自分達の都合ファースト」にしか思えない。
 因みに、前述の通りトランプ氏は明確に「延期したほうがいい」という見解を示したのに、前述のTBSの記事からも分かるように、政府は「日米双方が引き続き協力していくことで一致した」と強調している。官房長官は無観客のオリンピック開催について「想定していない」とも述べたそうで、ここに矛盾を感じない人は「どうかしている」としか言えない。


 「コロナ無視の森会長に五輪代表選手が「辞任要求」 「アスリートファースト」はどこへ?開催大前提で突っ走る組織委(1/3) | JBpress(Japan Business Press)」のような記事もないわけではないが、異論を唱えている選手の名前は明かされていないし、本来大会の主役である筈の選手たちからは殆ど見解が示されていない。海外の選手がどうかについては調べていないが、開催国である日本の選手たちは沈黙している、と断定しても問題のない状況だ。
 昨日は米女子サッカー代表が「男女で代表選手の報酬に大きな差があるのはおかしい」と訴えた、という話が報道された。
米女子サッカー代表や、人種差別へ毅然とした態度を示さない大統領に、NFLやMLB、NBAなどの黒人選手らが抗議の意を明確に示すなど、国外、特にアメリカの選手は何かと意思表示をする。しかし日本では、この数年協会の方針に対して違和感を示す事案は相応にあったものの、それ以外の意思表示をする選手というのは決して多くない。


 オリンピックについて、理不尽な開催時期や開催時間、そして大会が一部の人達に私物化されている状況、新型ウイルスの感染拡大が続く中「中止も延期も一切検討しない」という運営陣に対する異論を、それを目指す選手、ほぼ参加が確定的な選手らが団結し示すべきではないのか。少なくとも東京オリンピックではアスリートファーストを掲げているのだから、選手の主張を無視したり、圧力をかけるなんてことは起きないだろう。もしそんなことが起きるなら、そんな大会には何の価値もない。
 選手たちには声を上げる義務があるとも自分は思う。彼らは都や国の負担、つまり都民や国民の負担によって賄われる大会に参加する、もしくは参加しようとしているのだから。忖度などせずにおかしいことにおかしいと言わなければ、選手への支援も先細りするのではないだろうか。少なくとも自分は今の状況では五輪は当然のこと、目指している選手も、PRなどで関与するタレントらも、そして独占的に商標を使っているスポンサー企業にも、いい印象を持つことが全くできない。


 トップ画像は、Photo by Pawel Nolbert on Unsplash を加工して使用した。

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