痴漢や猥褻行為、タクシー運転手や駅員への暴言・暴行などの行為に及んだ者がしばしば口にするセリフ「酔っていて覚えていない」。酒に酔うと気が大きくなってしまい、見境がなくなる人というのが相応に存在している。「お酒の勢いでつい…」なんて話もよく耳にするが、酒は人の本性を露わにする。「酒の勢いでつい」に続くのは「お酒の勢いでつい本性が出てしまった」だと思っている。
SNSもお酒と同様に人の本性を暴き出すものだ。テレビなどに出演している際は、丁寧な口調で喋っているコメンテーターのSNSを覗くと、攻撃的な言葉や他人を過剰に馬鹿にするような態度を平気で示している、なんてことが結構ある。勿論、他の人からの攻撃的な投稿に対して応戦している場合もあるが、それでも売り言葉に買い言葉では情けない。
そのような傾向はコメンテーターに限らず、他の有名人にも見られるし、有名人でない一般人でも、恐らく実社会では猫を被っているんだろうが、SNSでは他人に罵声を浴びせ、誹謗中傷を平気でやる人というのが結構いる。その種の人達の多くは、ネットは匿名で利用できるからそのような行為に及んでも身元が割れない、とたかをくくっている場合が多く、有名人らのように実名と顔を晒して暴言を吐いている者よりも更に性質が悪い。
昨日は「元AKB川崎希さんを侮辱容疑 子育てサイトに書き込み:朝日新聞デジタル」という件が報じられた。川崎さんに対する暴言をネットに書き込んだ者の1人は「匿名でばれないと思った。二度としない」と言っているそうだ。39歳主婦がこんな有様では、日本で子どものいじめが解消する日はまだまだ遠い。
「緊急時」も人の本性を暴き出す。今日本では、というか世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大している。中国・武漢で最初に流行が確認されたこと、中国が感染者数/死亡者数とも最も多いことなどを理由に、各国で東アジア系への差別が広がっている、というニュースは日本でも結構報じられている。
「コロナちゃん」「黄色人種警報」 新型肺炎があぶり出した欧州の差別意識【世界から】 | 47NEWS
しかし、その種の報道はそれで終わってしまっていて、日本国内で中国人に対する差別が起きていることにも触れている記事は決して多くない。このコロナ騒動が始まった初期段階から、「中国人お断り」という掲示物を掲げる飲食店がSNS上で複数話題になってきたが、国外での東アジア系・日本人に対する差別的な行為には注目するのに、国内事情には報道機関もあまり注目したがらない様子を見ていると、「日本人、都合よすぎ」と思ってしまう。
数日前に横浜中華街のある店に、「中国人はゴミだ!細菌だ!悪魔だ!迷惑だ!早く日本から出ていけ!!」という文面の手紙が届いたと、その店の主がツイッターに投稿し話題になっていた。googleでざっと検索した限りでは、この件を取り上げていた所謂大手メディアは、毎日新聞ぐらいしか見当たらなかった。
横浜中華街の老舗にヘイト封書 「中国人はゴミだ!」 店主「お客さんのため頑張る」 - 毎日新聞
他国と比べてどうだ、ということではないが、日本の差別に対する意識の低さが見て取れる。この件に限らず、例えば今年1月に川崎市の川崎市にある多文化交流施設・川崎市ふれあい館に、「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」と書かれた年賀状が届いたという、この件と似たような事案があったが(1/28の投稿)、それに対する大手メディアの反応は鈍かったし、首相や政府も積極的に否定する態度を示していない。勿論、コロナ騒動の中で日本でも中国人に対する差別が起きていることに対しても、日本の首相や政府は全く否定的な態度を示さない。
更に、数日前から「日本の中国大使館が出した文章に『日本新型コロナウイルス肺炎』の言葉がある」「(新型肺炎に)日本をつけて広めようとしている」という情報がSNS上で広がっていた。しかし、この件をデマだと報じているのは、自分の知る限りBuzzfeed Japanぐらいだ。
新型コロナ、中国が「日本肺炎」と広めようとしている→誤り。ネット番組で誤訳が拡散か
今週はどのテレビ局・どの番組も「トイレットペーパーが不足するというデマが広がって買い占めが起きている」と毎日のように伝えているが、このデマに触れ否定する番組を、自分は全く見たことがない。こんな様相だと、日本人は自分達の加害性には疎いが、被害者意識だけは人一倍、と言われても仕方がないのではないだろうか。自分にはフェアネスが全く足りていないとしか思えない。
更に、3/3の投稿でも書いたように、WHOが「名前がいわれのない差別や偏見に利用されることを防ぐことが重要だ」として、COVID-19という名称を設けたことを全く無視し、自民・山田 宏議員が、国会での質問の中で「日本と韓国の対応の所為で感染が蔓延していると言われかねないので、どこに原因があったかを明確にする為、私は新型コロナでなく武漢肺炎と呼ぶ」という旨の発言をして、武漢肺炎と連呼した。
この件をメディアがどう報じたのか?と、Googleニュースで「山田 宏」「山田 武漢」で検索したところ、ヒットしたのは「舛添要一氏 山田議員の“武漢肺炎”発言に苦言「票を取れると思っている」(東スポWeb) - Yahoo!ニュース」だけだ。各メディアのサイトでは検索していないので、実際は他にも報じてるメディアはあるかもしれない。しかし記事化され、その記事が多くの人に読まれていれば検索結果に反映される筈だが、そうなっていない。
コロナ騒動の中で日本でも中国人に対する差別が起きていることに対しても、日本の首相や政府は全く否定的な態度を示さないどころか、その首相が代表を務め、政府を主に構成している与党の政治家が、率先して中国人差別を、しかも国会でやっている、というのが日本の現状だ。
日本は、日本人は、という主語は大きすぎて、それを主語に一般化して語ることの妥当性は疑問視されても当然だが、これらの傾向を見ていると、日本人に、自分達の加害性には疎いのに、被害者意識は人一倍の傾向があることは間違いないのではないか。
日本人に限らず、人間は誰でも、程度の差はあれど自分に都合に良い側面を重視しがちだし、都合の悪いことは軽視しがちだ。それは誰にでもある傾向だが、余りにも度が過ぎれば信頼性を失うことになる。
この投稿で取り上げた記事の見出しに「新型肺炎があぶり出した欧州の差別意識」 とあるが、日本の差別意識があぶり出されていることからも、決して目を背けてはいけない。