1990年代に10-20代を過ごした人で、小沢 健二さんを知らない人はいないだろう。知らない人はいないは言い過ぎだとしても、知らない人は間違いなく少数派の筈だ。小山田 圭吾さんとのユニット・フリッパーズギター、解散後のソロ活動、そして何よりスチャダラパーとの共作・今夜はブギーバックの大ヒット。因みに世界的な指揮者の小沢 征爾さんは彼の叔父に当たる。
その小沢 健二さんが昨日こんなツイートをした。自分のタイムラインにはそれを批判するツイートがいくつか流れてきた。
「わざと怒らせる」手法(番組は https://t.co/39Q6Jqsavh ) pic.twitter.com/UtoFKBVNxh— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) July 26, 2020
ツイートに添付されている、文章が書かれた画像の最後にあるように、NHK Eテレが7/23に放送した、バリバラ Black Lives Matter、そして日本は という回の視聴を薦めることが、この投稿の趣旨のようだ。
小沢さんの主張は、大雑把に言えば黒人差別に対して批判的な内容であり、全体的には大きな問題を孕んでいるとは思えない。では一体、小沢さんの主張の何が批判されているのか、と言えば、小沢さんが、
Black Lives Matter は「わざと怒らせる」ことを目的としたトローリングの一種である
としていることだ。トローリング/Trolling とは、本来は釣りの手法の一種であり、ルアーを生きた魚類の動き見せかけることを目的に、船を走らせながら行う釣りの手法である(トローリング - Wikipedia)。ここでのトローリングはそこから派生した用法で、ネット上でわざと癇に障るような暴言を吐いたり敬意を欠いた振舞いをして他の人を怒らせる行為のこと、一言で言えば「荒らし行為」のことだ。英語版のWikipediaでは魚釣りのトローリングと区別して Internet troll というページがあり、それに対する日本語版のページは荒らしが当てられている。
小沢さんの主張は、つるの 剛士さんが今野 英明というミュージシャンのツイートを引用して、「普通の声で、ほんまこれ。」と5/30にツイートしたのとは反対に、行儀よく主張することがどんな時にも最優先とは限らない、ということのようだ。
つるの、今野らのツイートに関しては、
これらの投稿で詳しく批判しているのでそちらを参照して欲しい。
つまり前述のように、小沢さんの主張はやはり全体的には大きな問題があるとは思えない。だが、Black Lives Matter はトローリングである、つまり言い換えれば「荒らし行為」である、というのは適切かと言えば、その表現はとても雑、反感を買うのも無理はないと感じる。
例えば泥棒には、石川五右衛門のような義賊と呼ばれる、正義の泥棒のような存在もある。しかし泥棒と言えば基本的には悪の存在だ。誰かを褒めたり称賛したりする場合に泥棒という言葉はまず用いられない。おそらく小沢さんは、トローリングが全て悪だとは限らない、義賊のように認めるべきトローリングもある、というつもりなのだろうが、トローリング/荒らし行為 に関して、多くの人がネガティブな印象しか持っていない為に、Black Lives Matter はトローリングである、という小沢さんの主張は批判を浴びたのだろう。
また、それ以外にも批判を招いた理由がありそうだ。
(ブラック ライブス マターの)直訳は「黒人の命は大事だ」。でもそう聞いたら当然「いや、誰の命だって大事だろ!」とツッコミたくなる。「オール・ライブス・マターだろ!」と。という部分などは、「当然「いや、誰の命だって大事だろ!」とツッコミたくなる」 とは限らないでしょ? と感じる人も多いだろうし、Black Lives Matter は「オール・ライブス・マターだろ!」というツッコミを引き出す為に掲げられたコピー、そんな目的のムーブメントではないでしょ?と感じた人も多かったのではないだろうか。そんな風に、彼が当たり前かのように主張していることが決してそうではなく、共感が得られなかったことも批判を受けた理由だと感じる。
端的に言えば、小沢さんの主張はものすごく雑に感じられた。
批判を受けた後に、小沢さんは、
「大きな言葉(BLM)の機能の一つ」から学ぶことについてツイしたら、引用ツイ。批判の方、以下の僕のツイを全てお読みになって文脈をお取り下さい。— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) July 26, 2020
6/25https://t.co/XjnOABiXh2
6/16https://t.co/XlPyzp2nlb
6/9https://t.co/6rxUZPR7yT
6/3https://t.co/cKPSArabxq
6/2https://t.co/ukdWE3mIAT
言葉というものは、変わります。僕は1996年に「やばいについて」というエッセイを雑誌に発表しました。その頃は現行の「かっこいい」という意味での「やばい」を使うと、変な顔をされました。まだ「不法なもの」という意味のみだったのです。…どうぞ!→ pic.twitter.com/JDldPabT9r— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) July 27, 2020
などとツイートしていることから考えても、トローリングが全て悪だとは限らない、義賊のように認めるべきトローリングもある、というつもりだったのだろうが、それはあくまでも、小沢さんの個人的なトローリングの定義・認識でしかない、というのが実情ではないだろうか。英語版のWikipedia・Internet troll にも、それに対する日本語版の荒らしにも、ポジティブな用法での例は見当たらないし、自分もポジティブな用法を目の当たりにした記憶はない。更に、これらの小沢さんのツイートもまた、批判されたツイート同様に何が言いたいのかが分かり難い。
最近は直接的なものが以前よりは増えている気もするが、日本語の歌詞なら、少し分かり難い表現の方が芸術的だと言われることがまだまだ多いような気もする。だが、批判されたツイートに関しては、Black Lives Matter はトローリングである、という話が共感を得られず、言いたいことが分かり難かった。つまり評価されなかった、それどころか Black Lives Matter をネガティブに捉えているとすら思われた、ということであり、表現として巧くなかった、ということだろう。
自分も、Black Lives Matter はトローリングである、という話には全然共感できなかった。