日本の戦後史に関する番組や特集で、1980年代後半から90年頃までにかけての、所謂バブル期に触れる場面で頻繁に耳にする「ジャパンアズナンバー1と呼ばれた」というフレーズ。このフレーズは、米国の社会学者・エズラ ヴォ―ゲルさんの1979年の著作「Japan as Number One: Lessons for America」に由来する。
Japan as Number One とは「ナンバーワンの日本」という意味で、Japan is Number One をもじって、ナンバーワンであることを更に強調した表現だ。日本の高度経済成長に関する内容で、その要因は日本人の学習への意欲と読書習慣であるとし、日本人の1日の読書時間は米国人の2倍に当たることや、新聞の発行部数の多さなど、日本人の学習意欲の高さと読書習慣を評価している。また、優秀な通商産業省や大蔵省主導の経済への強烈な関与がまた日本の競争力を高めているともしている。日本に肯定的な内容からか、日本では70万部越えのベストセラーとなり、1984年には続編も出版されている(ジャパン・アズ・ナンバーワン - Wikipedia)。
この本の出版後のバブル期に日本の経済は絶頂を迎えるのだが、たった数年でその絶頂は脆くも崩れ去り、1990年代、特に前半にはまだ余韻も残っていたものの、それから2010年までの間は「失われた20年」と呼ばれるような長い停滞、というか緩やかな後退期を経験することになる(失われた20年 - Wikipedia)。
そんなことを加味して、高度経済成長期からバブル期の日本を指して、「且つてジャパンアズナンバー1と呼ばれた」のような表現が用いられる。
現政府はアベノミクスを標榜し、2019年初頭には「戦後最長の経済成長」を謳っていたが、それが実態に沿わない羊頭狗肉だったことは、
現政府はアベノミクスを標榜し、2019年初頭には「戦後最長の経済成長」を謳っていたが、それが実態に沿わない羊頭狗肉だったことは、
- 実態を伴わない景気回復を「戦後最長」と誇る政府とNHK(2019年1/30)
- 2010年代がバブル越え好景気だったら、25年以上前の設備は既に刷新されるのでは?(2020年7/15)
などで書いた。それらで指摘したように、そもそも指標の算出方法が2000年代以前と異なり、つまり政府にとって有利な数字が出やすい指標の算出法にも関わらず、誤差と言っても過言ではない程度の数字でしかなかった。そして「戦後最長」という期間についても、内閣府の研究会までもが「戦後最長とは言えない」と認定したにもかかわらず、経済再生担当大臣が「政府としての景気判断は総合的に行ってきており、間違っていなかったといまも確信している」と、過ちを認められないのが「且つてジャパンアズナンバー1と呼ばれた」国の現状である。
「且つてジャパンアズナンバー1と呼ばれた」国の悲しい現実は他にも、直近だけでも複数ある。
「且つてジャパンアズナンバー1と呼ばれた」国の悲しい現実は他にも、直近だけでも複数ある。
8/3にコロナ危機担当大臣が記者会見で、「家族で観光地に行き、感染防止策を講じて過ごす分には、何か問題があるわけではないが、家族で、おじいちゃん、おばあちゃんと会う、あるいは一緒に過ごすとなると事情が変わってくる。感染防止策を徹底してもらうとしても、皆で食事をすると飛まつが飛ぶことになるので、十分注意してもらわなければならない」と述べ、お盆などの帰省は感染防止策の徹底は難しいので、政府が促進する旅行/観光とは異なる。だから控えるべきだ、と言っているようにも取れる発言をしたかと思えば、翌日には官房長官が、「差し控えるべきだという考えはなく、『3密』を避ける、大声を出さない、マスク、手洗いなど、基本的な対策を心がけていただきたい。今週の分科会で先生方の意見を伺い、それに基づいて対応していきたい」と述べるという、矛盾した状況に陥っている。
そもそも感染が再拡大する中で旅行/観光の促進策を前倒ししてまで強行する政府なのだから、矛盾もくそもないというのが大前提なのだが、現政府はとうとう閣内ですら話の整合性を維持できなくなっている。
そもそも感染が再拡大する中で旅行/観光の促進策を前倒ししてまで強行する政府なのだから、矛盾もくそもないというのが大前提なのだが、現政府はとうとう閣内ですら話の整合性を維持できなくなっている。
また、大阪府知事もかなりいい加減な会見を行っている。
どう考えてもイソジン等のうがい薬が新型コロナウイルスに効くという確証は何もないのに、大阪府知事があからさまにデマにも等しい説を、公式会見まで開いて流布するという異様な事態に陥った。このブルームバーグの記事は英語版も配信されている。つまり、数年後に万博を開催する、西日本で最も大きな自治体の首長がおかしなこと、というかデマを流布している、ということが世界中に伝えられている、という状況だ。
4月にトランプが「コロナウイルスの治療薬として消毒剤の注射」に言及した際、米の主要メディアは即座にその見当違い、馬鹿馬鹿しさ、危険さを指摘した。しかし、日本テレビは、大阪府知事の会見を伝える番組で「”コロナ”治療 効果が期待できる薬 発表へ 大阪吉村知事&松井市長会見」というテロップを表示している。
4月にトランプが「コロナウイルスの治療薬として消毒剤の注射」に言及した際、米の主要メディアは即座にその見当違い、馬鹿馬鹿しさ、危険さを指摘した。しかし、日本テレビは、大阪府知事の会見を伝える番組で「”コロナ”治療 効果が期待できる薬 発表へ 大阪吉村知事&松井市長会見」というテロップを表示している。
毎日新聞のように、治療薬ではないのは愚か、予防どころか害にもなりかねない、と誠実に伝えるメディアもあるが、ほんの一部を除いてテレビでは、今のところそのような指摘は積極的にされていない。如何に日本のメディア、特にテレビ報道が死んでいるかがよく分かる。
これが「且つてジャパンアズナンバー1と呼ばれた」国の悲しい現実である。政治家以前に成人として最低限の分別を持ち合わせた者を有権者が選ぶ、ということは。本当に大事なことだ。本来は最低限の分別を持つものではなく、判断能力が高い政治家を選ぶべきなのだが、どうも日本人はパフォーマンスと知名度だけで政治家を選び過ぎる。
ジャパンアズナンバーワンで評価されたように、日本人の学習意欲は高いだろうか。読書習慣があるだろうか。もしそのどちらかだけでもあれば、こんな悲しい現実にはなっていないのではないだろうか。