筋が通らない話でも強く言い張り続ければ、それで済んでしまう国 と題した投稿を6/12に書いたが、今日の投稿も、トップ画像からも分かるようにその類である。ファクトチェック・イニシアティブ理事で現在は Google News Lab Teaching Fellow も務める古田 大輔さんが次のツイートをしていたのが、今日再びその類の投稿を書くきっかけだった。
大統領が自分に都合のいい根拠不明の言説を拡散させ、メディアやプラットフォームが注意喚起しても、支持者は聞く耳を持たない。これが「フェイクニュース」で情報の信頼性そのものが壊れた状況。こうなる前に対策しないと。 pic.twitter.com/uixKKifIfe
— 古田大輔 (@masurakusuo) November 3, 2020
古田さんは米大統領の妄想染みた言説を元に話を展開しているので、ツイートで述べているのは主に米国の状況で、「(日本は)こうなる前に対策しないと」と言っているように見える。しかし日本はそのような状況ではアメリカの先を行っていると言わざるを得ない。
古田さんは「(米大統領の根拠不明の言説に関して、米国で)メディアやプラットフォームが注意喚起しても」と言っているが、日本では首相やその周辺、与党議員の一部や維新、そしてその積極支持者らがいい加減なことを言っても、メディアも両論併記的な記事を書くことが殆どだし、ツイッタージャパンやヤフージャパンが、不適切な投稿や嘘などに対する積極的な注意喚起を行っているとは口が裂けても言えない。またメディアが矛盾を積極的に指摘をしてこなかったこともあって、首相や政府・与党が矛盾に満ちた説明を強弁することを繰り返しても、有権者数の半数以上がその政権を支持してきたのも事実だ。
つまり日本は既にアメリカよりも酷い状況と言っても過言ではないだろう。だから「こうなる前に対策しないと」ではなく「こんな状況を早く脱さないと」という認識が妥当だ。
トップ画像のような合理性に乏しい話をただただ強弁し、指摘を受けても頑なに間違いを認めない人、詭弁で論理破綻していても動じない強弁を駄々をこねるのごとく繰り返し、人の話をまったく聞かない人のことを、数学者の野崎 昭弘さんは詭弁論理学という著書の中で小児型強弁者と呼んでいる。
筋の通らない考えだろうが大きな矛盾があろうが、どんなにおかしな考えでもそれを持つこと自体は思想信条の自由の範疇であり、絶対的に否定されるものではない。しかしそれをあたかも合理的なことかのように言い張ることは、言い換えれば嘘をついているとも言える。また考えを持つのは自由でも、そんな考えを強弁することが受け入れられる社会は異様だ。大人が小児型強弁を繰り返せば「その程度の人間」と評価されるのがまともな社会だろう。
フェイクを撒く側は根拠などなくてもいいし、適当にでっち上げてもいいので弾は無尽蔵にある。しかしフェイクを指摘する側はフェイクである根拠を揃えて提示する必要があるし、そもそも受動でしか対応が出来ないので、フェイクを撒く側はいい加減な話を多く撒くことで攻勢をいくらでも強められる。だから筋の通らない話や矛盾した話を無批判に拡散することは、フェイクを撒く側に加担するにも等しい。
学術会議の任命拒否問題に関する、菅や周辺のこれまでの説明を総合すれば、「推薦リストは見ておらず任命を拒否した者の中で知っていたのは加藤 陽子教授だけだが、学術会議会員には旧帝大出身者が多く女性や若手が少なく多様性に欠けているので、かなり悩んだが女性や私大出身者、比較的若い推薦者6名の任命を拒否した」という、最早支離滅裂という言葉すら勿体ないことを言っているのだが、そのような矛盾は指摘せずに殆どの報道は「首相は○○と述べました」とか「野党の追求を受けました」なんて他人事のような内容だ。つまり、SNS等の一般的な利用者だけでなく、大手メディアまでが筋の通らない話や矛盾した話を無批判に拡散することに加担してきた、というか今も加担しているのが日本の現状だ。
ハフポストは11/2に、昨年外国人差別で批判を浴びた元東大准教授(2019年11/28の投稿)が、「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」とツイッターへ投稿したことに対して、伊藤さんが事実無根であるとして名誉棄損で訴えた裁判が始まったことを報じた。
伊藤詩織さんを「偽名」とツイート、元東大特任准教授の大澤昇平さんの裁判始まる | ハフポスト
最近米国を中心にSNS運営などの対応はすこしづつ変化を見せ始めてはいるものの、相変わらず日本では、ツイッタージャパンやヤフーニュースのコメント欄を運営するヤフージャパンなどは、表現の自由を守るという話や自分達はプラットホームに過ぎないという姿勢を示し、積極的な対応をしているとは言えない。
幾つかの犯罪には幇助犯の規定があり、犯罪が行われること、行われることが強く懸念されるのを知っていながら場所を提供した場合、幇助犯になる場合がある。嫌がる者を出演者や参加者などが寄ってたかって罵ったり、暴力を振るうことが強く懸念されるイベントだと知りながら、ライブハウスやイベントスペース等が場所を提供したら、場所を提供した側は善意の第三者とは言い難い。
差別的な言動、偏見、他者の権利を著しく侵害する言説が多くSNS等へ投稿されているのは周知の事実であり、いくら規約でそれを禁じても解決しないことも既に分かり切ったことで、つまり積極的に対応しないSNS等の運営者には、不適切な言説を発する場所、方法の提供による幇助が成立する可能性があるのではないだろうか。
そんな風に考えればやはり、古田さんの言うような「こうなる前に対策しないと」ではなく「こんな状況を早く脱さないと」という認識が妥当だろう。
最後にこの「筋の通らない話でも言ったもん勝ち」な事案にも触れておく。毎日新聞は11/1に、
安倍前首相「憲法改正しない言い訳通用しない」 野党をけん制 - 毎日新聞
という記事を掲載した。安倍は地元山口で記者らに対して「安倍政権の間は憲法改正はしないと野党は言っていたが、今は菅政権だからその言い訳は通用しない」と述べ、憲法改正を巡り野党をけん制したそうだ。
なぜ記者は、毎日新聞は、
首相在任中の安倍は「募ったが募集してない」など一般的には通用しない言い訳のオンパレードだった
と指摘することが出来ないのか。通用しない言い訳の宝庫である者が何か言ってるのかと批判できないのか。
やはりどう考えても、「こうなる前に」ではない。もう既に日本は何年も前からそうなってしまっている。
トップ画像に沿えたイラストは、スケーターズブランド・Santa Cruz の定番中の定番デザイン「スクリーミングハンド」のパロディだ。オリジナルは手のひらに大きく開いた口が描かれているのだが、こちらは中指を立てた手の甲に口が添えられている。筋が通らない話を強弁する台詞のイメージに合致したので採用した。