サンプラーという電子音楽機器がある。8-16個程度のパッド(ボタン)を備え、それぞれに任意の音を割り当てて、それぞれのパッドを押すと登録されている音が再生される装置だ。ドラムの音を各パッドに割り当てて、電子ドラムのように使うことも出来るし、サウンドエフェクト/効果音を割り当てて、パーティやイベントなどを盛り上げる際にも用いられたりする(サンプラー - Wikipedia)。
サンプラーという名称は、サンプリングした音を再生するところからきている。サンプリングとは、過去の曲や音源の一部を流用することを指す表現だが(サンプリング - Wikipedia)、勿論自分で新たに録音/演奏/コンピューターなどで合成した音を割り当てて使うことも出来る。当然人間の声も登録できる。
以前は専用のハードウェアが必要だったが、最近はPCを使ったソフトウエアサンプラー(とパッドタイプのフィジカルコントローラーを使うスタイル)の方が主流かもしれない。また、専用ハードウェアが必要だった頃からDJプレイにも用いられてきたが、PCDJが一般的になった2010年代以降は、多くのDJソフトウエアがサンプラー機能を備え、PCDJ用コントローラも一部の廉価な機種を除いて大抵パッドを備えている。その影響で、PCを必要としないデジタルDJ用プレイヤーやミキサー、その両方の機能を一体化したオールインワンシステムなども、サンプラー機能を備えるのが当たり前になっている。
音楽にあまり興味のない人でも、お笑い芸人のきつね・淡路
幸誠が使っている装置を見れば、サンプラーがどんなものか分かりやすいのではないか。
きつね「クイズ番組」(2021.2ゴールド) - YouTube
これまでなら、事前に打ち合わせをしてステージの外にいるスタッフに任せていたサンプラー/効果音の操作を、ステージ上で芸人自らがするスタイルが目新しい。
サンプラーはパッドを叩けば何度でも同じ効果音を再生する。そこから、よく考えもせずに馬鹿の一つ覚えのように同じセリフ/話を繰り返すことを「サンプラーのよう」と揶揄したりもする。
今日のトップ画像は、昨今政治の場、というか都合が悪くなった政治家や政府関係者などその周辺が頻繁に繰り返す「お答えを控える」というセリフを、そのように揶揄する意味を込めて作った。
これ程までに国会で「お答えを控える」というセリフが飛び交ったことが且つてあっただろうか。 例えば、
菅首相との会食は? NTT社長「公開控えたい」と答弁:朝日新聞デジタル
NTTの澤田純社長は15日の参院予算委員会の集中審議で、菅義偉首相との会食の有無について「NTTは3分の1の株を政府が保有している特殊会社だ。それと同時に上場会社でもある。上場会社の社長が個別にどなたかと会食をしたか否か、これを公の場で公開することは事業に影響を与えるものだと考えている。個別の会食については控えさせて頂きたい」と述べた。
こんな話の一体どこに、お答えを控える、つまり答弁拒否できる妥当性があるだろう。全く妥当性などない。最早支離滅裂と言っても過言ではない。
答弁拒否を連発しているのはNTT
澤田だけでなく、大臣や首相も同様だ。
武田総務相 NTT会食で答弁拒否を連発「答えを差し控える」:東京新聞 TOKYO
Web
武田良太総務相は12日の参院予算委員会で、昨年9月の就任後にNTTの澤田純社長らと会食した事実があるかを問われ「個別事案は答えを差し控える」との答弁を連発した。
谷脇氏進退「答え控える」 菅首相:時事ドットコム
菅義偉首相は5日の記者会見で、放送関連会社「東北新社」とNTTから高額接待を受けた総務省の谷脇康彦総務審議官の進退について「(同省が)調査中なので答えは控える」と述べるにとどめた。
政府関係者らの答弁拒否は、現在懸案となっている総務省を中心とした関連業者との癒着問題に留まらない。
仮定・人事の質問「答弁控える」 菅首相:時事ドットコム
菅首相「答弁控える」111回 国会論戦も発信も消極的:朝日新聞デジタル
「お答え控える」80倍以上に 国会で説明拒否1970年比で、2018年は580回に|政治|地域のニュース|京都新聞
どう考えても不当な答弁拒否が増えている。あまりにも突拍子もない仮定に基づいた質問について、仮定の質問であることを理由に答弁を拒否することには妥当性もあるだろう。しかし1/27の投稿でも指摘したように、政治とは、将来を予測した仮定に基づいて政策を立案し、予算を組んで政策を実施するものであり、政治家は仮定の質問に答えなければ、その職務を果たすことはできない。
このような不当な答弁拒否は、菅が官房長官だった前政権の頃からの傾向であり、2019年には既に、このブログでもその不当性を指摘している。
- コメントを控える、コメントする立場にない(2019年10/15)
- 「お答えを控える」を多用し、公文書を公開しない、そもそも残さない政権が支持される、という「悪夢」(2019年12/22)
近年このような答弁拒否がなぜ増えているのか、公然とまかり通っているのかと言えば、それは不当なことを不当だと指摘し正す人がいないからだ。本来、国会においては、本会議であれば各院議長、委員会であれば当該委員会の委員長など、議論を捌く者がその役割りを果たさなければならない。しかし現在、議長や委員長がその役割りを果たさずに容認してしまうから、不当な答弁拒否がまかり通ってしまっている側面が、間違いなく、確実にある。
議長・委員長を与党から選出するの止めよう。そうすれば国会の議論ももう少しマシになるはずだ。日本の議員内閣制の下では、政府は与党によって構成され、議会の議長や委員長も与党から選出される。今の国会を刑事裁判に例えると、犯罪を立証する側である検察が、判事も兼ねているような状態だ。それで公平な判断なんて下されるわけない。
現在の自民党政権になる前からずっとそれは変わっていないが、それでも政治家が最低限度の節度を重んじており、完全にではないせよ、それまではそのような状況においても、ある程度公平公正な議会運営がなされていた。しかしそれは政治家の性善性に頼って成り立っていたものであり、現在その性善性が発揮されず問題が生じているのだから、当然その機能不全を正常化する為の策が必要だ。
こうなってしまうと、議会運営を与党が行う状況を変えなくてはならない。
そもそも、これまではそれで議会が、議会における概ね正常な議論が成り立っていたのに、政府側の人達が不正に答弁拒否を行い、政府を構成する与党の政治家らが議会でそれをアシストし、現在は正常な議論が成り立っていない。その行為は、少なくとも戦後70年以上成り立ってきた日本の政治制度・議員内閣制を否定する行為でもある。
なぜそんな党が、今でも政党支持率トップなのだろう。日本人の政治への無関心は、最早民主主義の否定と同義のレベルに達しているのかもしれない。