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海洋放出決定、だが都合の悪い仮定のことは考えない

 1956年は、日本における四大公害病の一つ・水俣病が発生したとされる年だ。水俣病とは、チッソ水俣工場が工業廃水を水俣湾に排出し、それに含まれていたメチル水銀が魚介類の食物連鎖によって生物濃縮し、それを知らずに摂取した住民に生じたメチル水銀中毒症である。水俣病 - Wikipedia では、環境汚染の食物連鎖で起きた人類史上最初の大規模有機水銀中毒でかつ世界中に知れ渡った公害病、と解説している。


 日本では水俣病を含む四大公害病以外にも、複数の公害による健康被害が且つて起きた(公害病 - Wikipedia)。その殆どに共通するのは、懸念が示されても、汚染物質が引き起こす健康への害や、環境汚染を企業や政府が認めずに汚染物質が垂れ流され続け、過ちを企業や政府が認めるまでに相応の時間を要したことで被害が更に拡大したことだ。水俣病はそんなケースの典型的な例である。


 首相の菅は4/13、福島事故原発に貯めている放射性物質を含む汚染水の海洋放出を決めた原発処理水、海洋に放出へ 政府決定、希釈し2年後めど―強い風評懸念・福島第1:時事ドットコム)。 菅は4/12の国会審議の中で、

福島の復興にあたり、処理水の処分は避けて通れない、いつまでも先送りできない課題

と述べた(トリチウムなど含む処理水の処分 菅首相「先送りできない」 | 福島第一原発 | NHKニュース)。前述の時事通信の記事にもあるように、「風評対策に全力を挙げる」そうだが、昨日の投稿で批判したように、風評被害が出た場合の賠償の必要性について「仮定のことについては(考えを示すことを)控えた方がいい」として回答を避けている。責任を負う気がないことはあまりにも明白だ。

 この数日、鹿児島県のトカラ列島近海で地震が頻発している(トカラ列島近海で地震200回超 気象台が警戒呼びかけ:朝日新聞デジタル)。トカラ列島は屋久島と奄美大島の間にある。鹿児島県には、2011年の福島原発事故発生後再稼働した数少ない原発の1つ・川内原発があるが(川内原子力発電所 - Wikipedia)、トカラ列島付近で大地震が発生しても川内原発は大丈夫と誰が保証できるのか。一応福島原発事故を踏まえた基準に沿って再稼働したことになっているが、人間がつくった基準を自然が超えてこない保証などどこにもない。だから福島事故原発は起きた。もし川内原発に何かあったら誰が責任を取るのか?誰も責任なんてとれない。原発事故後の被災地を見たら小学生にだって分かることだ。

 では汚染水の海洋放出はどうか。国内にある湖、例えば琵琶湖などに放出するのなら、万が一被害が起きてもその範囲は概ね国内に留めることができる。しかし海は世界中に繋がっていて、しかも海流によって海水は混ざりあう。2011年の地震の際に、津波で流されたハーレーダビッドソンのバイクが、震災発生から約1年後にカナダに漂着している(漂着ハーレー震災語る 宮城からカナダへ、今は米で展示:中日新聞Web)。
 つまり、万が一汚染水の放出によって健康被害が起きれば、それを行った日本は、周辺国だけでなく、少なく見積もっても太平洋沿岸諸国から、最悪の場合世界中から責任を問われることにもなりかねない。そんな場合責任を一体誰が追うのか。それを決めたのは決定した時点の首相だとしても、賠償は日本の国家予算で賄われることになるだろうから、日本人全員、しかもまだ生まれてもいない世代まで含めて、そして日本人でなくても日本に住み税金を少なからず支払う者全てが、その責任を負わされることになる。


 昨日の投稿では、菅は、いや自民党政権は、壊れたレコードのように馬鹿の一つ覚えで「仮定の質問には答えない」という、合理性のないセリフを頻繁に繰り返す、と指摘した。だが菅は、仮定の質問には答えないどころか、1月に「(緊急事態宣言を)1カ月やってみて、結果が今一つ出なかったら対象拡大ですとか、延長した時にもうちょっと厳しくなっていくとか、そういうこともあるんですか?」と問われ、

仮定のことは考えない

とも言っている(1/27の投稿)。
 「仮定の質問には答えない」と「仮定のことは考えない」は、似て非なる話で、後者は前者の更に数倍酷い話である。共に、自分にとって都合の悪いことから目を背ける姿勢である点では同じだが、前者が言及しないだけで都合の悪いことも一応考える・認識している可能性があるのに対して、後者は考えない、つまり認識することすら避けている、という姿勢であり、そんな者を首相にして、国の運営を預けるというのは、ハッキリ言って絶望的ですらある。

菅首相「感染の波、想像超える」 衆院決算行政委で答弁:朝日新聞デジタル

 菅は4/12の国会審議の中で、「まん延防止等重点措置」を東京都などに追加適用したことについて、

世界規模の感染の波は私たちが想像したものを超えて厳しい。感染の再拡大を防ぐためには国民の皆さんに引き続き緊張感を持って対応していただくことが極めて重要だ

と発言したそうだ。世界規模の感染の波私”たち”などと、まるで世界中の誰もが想像も出来なかった感染拡大が今日本で起きていると言わんばかりだが、菅が緊急事態宣言を解除した頃は既に再び感染が拡大していたし、そもそも緊急事態宣言を出した頃、いやそれ以前から、日本政府の対応は杜撰且つ不充分だという批判があちらこちらで起きていた。つまり、現状を想像出来なかったのは菅やその周辺、つまり政府と与党、そしてその信者らだけに過ぎない。
 「感染の再拡大を防ぐためには国民の皆さんに引き続き緊張感を持って対応していただくことが極めて重要」などと、一体どの口で言うのだろうか。緊張感に著しく欠けているのはあなた達政府で、その筆頭が首相である菅だろう、という感しかない。責任転嫁・責任逃れもいい加減にして欲しい。

 コロナ対応に関してだって、菅本人が言っているように、仮定のことは考えない、だから想像が至らない、のは明白だ。 そんな者・そんな政府は、汚染水の海洋放出についてだって、仮定のことは考えないんだろうから、もし万が一深刻な事態を引き起こしたとしても、「想像を超えていた」つまり想定外だと言うだけで、責任なんてとろうとしないだろう。というかそもそも、誰にもその責任など取れないのだ。日本国民全員にその責任を押し付けるしかないのだ。


 付け加えておくと、公害病は決して過去の話ではない。アメリカでは、2010年代にミシガン州フリントの水汚染公害が発生している(米ミシガン州フリントの水道危機で初の訴追 - BBCニュース)。その件については、同市出身のドキュメンタリー映画監督 マイケル ムーアが、2018年に発表した「華氏119 - Wikipedia」で詳しく描いている。
 同作品は、大統領だったオバマがフリントの水を飲んで見せる(飲んでいるように見せて唇をつけただけではないかという疑惑の)パフォーマンスについても、大いに批判している。日本の首相は、そんなパフォーマンスすら出来ずに、汚染水を希釈すれば安全と言って放出を決定したのだ。希釈したところで放射性物質がなくなるわけではなく、結果的には同じ量を放出することに変わりはない、ということも分からないアホが日本の有権者の大半だ、と舐めてかかっているのである。若しくは首相自身がそれを分からないバカか、のどちらかだろう。どっちにしてもあまりにも質が悪い。

 「漁業者「国も東電も信用できない」 6年前の約束はどこへ 福島第一原発の汚染処理水海洋放出:東京新聞 TOKYO Web」には、

相馬市の松川浦漁港の男性漁師(69)は、東電が2015年に処理水の処分を巡り県漁連に「関係者へ丁寧に説明し、理解無しにはいかなる処分もしない」と約束したことに触れ、「(放出したら)約束違反だべ」と怒った。

とある。中国は香港に対して、返還後50年間は一国二制度を認めると約束していたが、およそ20年でそれを反故にした。しかし自民党政権は更に酷く、たった6年で約束を反故にしたのだ。それも復興の為には先送りできないと称して。これを悪質な詐欺師と言わずして何と言おうか。


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