A cluster of grapes とは 一房の葡萄 の意である。cluster は群れ、集団、かたまりなどを表す。また動詞として、集まる、群がる、密集する、群生する、などの意味もある。そこから派生して、科学やコンピューター関連の用語にも多く用いられている。
新型コロナウイルスの感染拡大以前、クラスタという表現は多くの日本人にとって耳馴染みの薄い表現であった。ただ、それ以前全く用いられていなかったわけではない。ツイッター界隈では、○○クラスタという言い方で、○○に特化したアカウント達、○○に関してよくツイートするアカウント群、をそれ以前から示していた。例えば、アニメクラスタとか法律クラスタのように。弁護士や司法書士、そして法律や判例等に詳しい、または一家言あるアカウントなどをひっくるめて法律クラスタと呼び、法クラと略すことも多かった。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって間もなく、クラスタという表現が頻繁に用いられ始めた。それは感染者集団、集団感染を意味した。集団感染という分かりやすい日本語があるのに、なぜ集団感染とは言わずにクラスタという表現が用いられたのか、いや、今も用いられているのか。
日本では、意識高い系(と揶揄されるような)の人達が、しばしば耳慣れないカタカナ表現を用いる。近年で言えば
”エビデンス”
はその最たる例である。日本語に科学的証拠・根拠など該当する表現があり、表記する場合の文字数を減らせるわけでもなければ、音を明確に削れるわけでもないのになぜか、そのような一般の人には耳慣れないカタカナ表現を使う人達がいる。エビデンスについては、それが積極的に用いられる違和感について、2017年6/14の投稿でも書いている。また表彰台という日本語があるのに、なぜかそれをポディウムと言いたがるスポーツ中継のアナウンサーやコメンテーターも少なくない(2017年2/22の投稿)。
不必要にカタカナ表現を用いたがる人は、前述のように意識高い系()の人に少なくないが、小池
百合子はカタカナ表現を用いたがる人代表格の一人である。最たる例は、築地市場移転問題等に関連して、”アウフヘーベン” という多くの日本人にとって耳慣れない表現を連発し、しかもどういう意味か問われ「辞書で調べて」とまで言い放った。個人的に、小池はアウフヘーベンの概念を説明出来ないのにゆるフワで多用し、だからその意を問われた際に「辞書で調べて」と言ったのではないか?と推測する。
小池氏、新党も市場も「アウフヘーベン」 それって何?:朝日新聞デジタル
小池はアウフヘーベン以外にもカタカナ語を多用するのでこんな記事も書かれている。
- 首相や小池知事の「カタカナ語濫用」の根底にあるものは何か|NEWSポストセブン
- ルー大柴「僕から見てもカタカナ多いな」小池百合子語録を斬る : スポーツ報知
- デーブ・スペクター「小生の方が小池都知事より分かりやすい日本語」に共感多数「都知事は横文字ばかりで…」:中日スポーツ・東京中日スポーツ
更には、小池が用いたカタカナ語をまとめた本まであるようだ。漫画やドラマでも、カタカナ語を多用して自分のことを知的だと演出しようとする人の滑稽さがしばしば描かれるが、小池はまさにそれを地で行く存在である。大したことは言っていないのに、何か言っているような演出をしたい人が、一般の人がニュアンスを掴みにくいカタカナ語を多用する。厳しく言えば、詐欺師のような話し方とも言える。
また、悪い印象を隠したい場合に、状況・状態を示す妥当な日本語があるのに、わざわざカタカナ語を用いて分かり難くすることも多い。またはその逆もある。福島原発事故が発生した際には、チェルノブイリ原発事故によって多くの人がメルトダウンという言葉を知っていたにも関わらず、政府と東電、そしてメディアは、多くの日本人にとって耳慣れない炉心溶融という表現を使った。しかも、炉心溶融という言葉さえ使うなという指示もあったそうだ。
このような、何かしらの意図がある言い換えは頻繁に行われる。新型コロナウイルスの感染拡大に関しても、集団感染がクラスターと言い換えられ、爆発的な感染拡大はオーバーシュートと表現された。しかもオーバーシュートに関しては、そんな表現を感染拡大に関して用いているのは日本だけで、英語圏では全く用いられていなかった。つまり即席で作られた和製英語だった。これらは言うなれば、前首相・安倍が好んで用いた ”印象操作” でしかない。印象操作は止めろ、と言っていた側が、その印象操作をやっていた。
政府やメディアはそう指摘しても、そのような意図はなかった、と言うだろうが、集団感染が発生、と表現すると印象が悪いので、それをできるだけ避ける為にクラスターという表現を使った。そうとしか思えない。
また日本では、現在もオリンピック関係者を除いて積極的な検査が行われておらず、検査数は諸外国に比べて桁違いに少ない。なぜか世界の潮流に背き、検査よりもクラスター対策を、という方針が示され、その影響が未だに及んでいる。現在東京都を中心に、新規感染者数は、これまでで最悪だった今年・2020年1月にも届きそうな勢いで増えている。その数字は、ピークよりも少ない検査数で検出されたもので、恐らく実態は更に悪い。
<新型コロナ>神奈川県で531人感染 美容クリニックや幼稚園で新たなクラスター:東京新聞 TOKYO Web
この記事のように、各県のその日の新規感染者数を伝える記事では、○○でクラスター発生、のような表現が用いられている。しかし、オリンピックに関連した感染者・感染拡大を伝える記事では、クラスター/集団感染という表現が用いられない。
五輪選手3人含む16人陽性 大会関連、153人に | 共同通信
五輪警備に派遣の警察官新たに4人感染 15人が宿舎待機に|TBS NEWS
悪い印象を遠ざける為に集団感染をクラスターと言い換え、更には、オリンピックに関してはクラスターという表現すら使わなくなった。この元凶が組織委にあるのか、都にあるのか、政府にあるのかは定かでないが、個人的にはそれらの共犯だと思っている。勿論、それらの発表をそのまま記事化する、報道機関ではなく広報機関と化したメディアも共犯だろう。
トップ画像には、ブドウ 束 果物 - Pixabayの無料写真 を使用した。