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ご都合主義なオタクやマニアたち

 ○○警察、という表現がある。新型ウイルスの感染拡大以降は、自粛警察とかマスク警察なる表現が多く用いられた為、私刑を辞さない過激な自警団のような印象が強まっているが、元来は、大して重要とは言えないことをあげつらって過剰なまでに指摘したり、間違いではないようなことにまで持論を過剰に押し付けてくる自己主張の強い人達、を指す。


 自粛警察は、やむを得ず自粛に応じない人たちのそれぞれの事情や、一部の職種だけが必要以上に自粛を強いられる状況の異様さなどを勘案せず、「自粛していない」と過剰に反応し、槍玉にあげ、吊し上げようとする人達を指す。彼らもまた、間違いではないようなことにまで持論を過剰に押し付けてくる自己主張の強い人、とも言えるだろう。マスク警察にも同様の側面があり、事情があってマスクを出来ない人もいるのに、それぞれの事情などお構いなしに、高圧的に・一方的に中傷や揶揄を繰り広げる人のことを指す。

 自粛警察のように、攻撃的なまでに過剰に自己主張を繰り広げることは、○○警察に該当する要素として必ずしも必要なものではない。取るにらたないようなことをあげつらって過剰なまでに指摘したり、間違いではないようなことにまで持論を過剰に押し付けてくる、などが、○○警察の主な要件だ。

 昨日の投稿で触れた、4WD車全般のことをジープと呼ぶと、大抵それで意味が通じるのに「ジープってのはね…」と、いちいちツッコミをいれないと気が済まない人はジープ警察と言えそうだし、ブルーインパルスの航空機を戦闘機と呼ぶと、「あれは武装が付いていないから戦闘機じゃない、練習機だ」と言わないと気が済まない人達も、ブルーインパルス警察と言えるだろう。一般人にとってはどちらでも大差ないようなことでも、オタクやマニアなど、その分野のに一過言ある者にとっては、細かい間違いでも気になって仕方がない、許せない、ということから、○○警察と揶揄されてしまうような振舞いが生まれることは多い。
 確かにトヨタのジープとか日産のジープなんてのは明らかな間違いであり、そのような表現から齟齬が生じる恐れもある。しかし4WD車全般をジープと呼ぶのは、且つて一般化していた現象で、大抵言わんとしていることの意味は通じる。間違いだという指摘に全く合理性がないとは言えないが、それを細かくいちいち指摘する必要はないとも言える。
 何かに対して強い好奇心を持ち、それに対する知見を深めることは素晴らしいことだが、そのような知見を基に指摘する場合の匙加減も大切だ。


 オタクやマニアには、そんな細かいことを許せない人達がいる一方で、いい加減な人も結構多い。いや、多分いい加減な人は、実際にはオタクやマニアではなくそのふりをしているだけ、若しくはオタクやマニアだと自認しているが実際には中身が全く伴っていない人達なのかもしれない。

 このツイート、そして紹介されている本が注目を浴びていた。この本は同人誌のようで、その表紙とは裏腹に、その中身は艦隊これくしょん的なマンガやイラスト集ではなく、筆者の研究に基づいた資料集のようなものだ。同人誌通販サイトの紹介文には、

太平洋戦争中、ビルマ(現在のミャンマー)でイギリス軍と死闘を繰り広げ、甚大な被害を出した日本陸海軍。 その中でも、南ビルマ沿岸で戦った海軍の陸戦部隊、第13根拠地隊第17警備隊は、第21魚雷艇隊と共闘し、ビルマ沖の海上輸送路を守るため奮戦し、そしてその9割が生還するという奇跡を成し遂げました。 果たして彼らはビルマでどうして生き残ることができたのか。そして彼らがなしえた戦後の功績とは。 令和に生きる元隊員やご遺族への直接取材の成果を同人誌にまとめます。

と書かれている。
 この本の内容が正確かどうかは、実際にその中身を呼んでいないのでよく分からない。しかしこの本の表紙は明らかに過去の歴史に即していない。前述の、○○警察と揶揄されるような振舞いに走ってしまうタイプの、正確性にうるさいオタクやマニアが見たら、卒倒しそうなものだが、この本を書いた人は、オタク気質の人ではありそうだが、そのようなタイプではなさそうだ。これを擁護するタイプの人達も、オタクっぽい振舞いをしているがそのタイプではないようだ。勿論、オタクやマニアにだって色々なタイプがいるのは当然なのだが。
 個人的には、センシティブな分野で、このようなフィクションと事実を混ぜるようなことは不適切だと考える。第二次世界大戦に関しては、まだまだ当事者として関わった人が、加害者だけでなく被害者も含めてまだ生きているわけだし、被害者の直接的な家族や親戚も含めたら、その数はかなり膨大で、その人たちにどう見えるかを考えたら、こんないい加減なことは許しがたい。
 この本だけが話題になっているが、この同人誌の筆者、これを発行しているサークルの本には、同種のものが多く存在している。

プロイェクト・オストの同人誌・ゲーム等の通販はメロンブックス | メロンブックス

 少し前に、第二次世界大戦頃の日本軍を中心とした軍艦を、所謂美少女キャラとして擬人化したゲームや、同じく第二次世界大戦頃までの戦車を高校の部活に使うという設定で、美少女キャラと組み合わせたアニメが流行っていた。

 戦争加害国である日本が、その戦争を茶化すようなことをやっていい時期になっているだろうか。もう戦後70年を過ぎたのだからそんなに目くじらを立てなくても… と言う人もいるが、戦争によって直接的な被害を受けた人、戦争によって近しい家族が被害を受けた人がまだ存命であり、戦国時代やそれよりも前の史実に基づいたフィクションを作るのとでは話は違ってくるのではないか。多くの戦争映画のように、殆どの人が茶化しているとは感じないような内容のフィクションならまだしも、これらのコンテンツは少なからず戦争を茶化していると認識される類だ。

 だが、いくらか譲歩して考えれば、これらのコンテンツの、擬人化、戦車が現代の学校で部活になっているという設定などは、大抵の人がすぐにフィクションだと認識できるものである。それを考えたら、まだ黙認できる余地はある。しかし、前述の「ビルマ方面海軍部隊死闘と生還の記録」という同人誌や、そのサークルの他の本は、事実に基づいた資料集であり、その表紙に、日本軍の艦船に女性兵がいて、楽しげにしていたかのような描写を用いることは、事実を歪曲していると言わざるを得ず、自分には全く容認し難い。
 他にもナチの制服のようなものを所謂美少女キャラに着せたイラストを表紙にしている本もある。ナチや日本軍がテーマの本に限らず、ヨーロッパやアジア各地で多大な被害を出した戦争に楽しげな印象を与えかねないこの種の表現はどれも受け入れがたい。

 この件に関して、

表紙が萌絵ってだけで何を騒いでやがる、という論法で擁護するオタクと思われるアカウントが複数あるようだが、例えば、ナチの非道、ユダヤ人虐殺等を紹介する本の表紙がこの手だったら、絶対に許されない。 それは道徳や倫理の問題であって、表現の自由とは別の話。

ツイートしたところ、複数の反論があった。

 このツイートは、「道徳や倫理の問題であって、表現の自由とは別の話」という元ツイ―トで示した前提を全く無視している。存在している=道徳的に許されている ではない。ドイツではナチ関連の表現に規制があるが、確かに現在の日本にはこの種のコンテンツへの規制はない。表現の自由が保障されている為、この種の表現が絶対的に許されないわけではない。だが、ミャンマー軍事政権の非道も、シリアの市民抑圧も現実に存在しているが、それは道徳的に許されているわけではない。このような本をドイツ周辺国にもっていって、本屋に置いてもらえるか聞いてみたら、道徳的に許容されないことがすぐに分かる筈だ。
 見識が狭いとも言っているが、それはこの類のものを肯定できる人達が、過去の戦争で何が起きたか、そして膨大な被害者がいることに無頓着なだけ、ということだ。

 このツイートの言い分が正しいなら、興味を惹く為なら何をしてもいい、事実を歪曲することも許される、ということになるだろう。しかしそんなことは決してない。「興味ある人は何もなくても調べる」なら、こんな手法はそもそも必要ない。そもそも、萌絵だからアウトとという趣旨の指摘などしておらず、話が噛み合っていない。
 他人の話・話の前提はお構いなしで自分の言いたいことだけを言うのは、昨日の投稿でも触れたように、オタクやマニアと呼ばれる人、自称する人にありがちな悪い癖だ。


 このツイートは「ここは日本であってドイツでもシリアでもない」と言うが、日本における表現だからこそ、戦中の日本軍の振舞いや実態と乖離した表現は、道徳的に許されない。「商業誌でもない同人誌に目くじら立てて金玉の小さいこと」とも言っているが、これも表現の自由とは別の問題、という元ツイ―トで示した前提を無視しているし、他のツイートでも指摘したように、日本軍の加害行為に関する無頓着さがなければこんな認識にはなれない。


 2020年5/6の投稿でも触れたが、戦中の日本でも、少女歌劇団の団員女性にステージ衣装のような格好で銃を構えさせた写真が添えられた「レヴューガールも軍事教練」などをメディアが記事化し、戦争の悪い印象を柔らげることが目的であろう政治宣伝・プロパガンダが行われていたようだが、注目された本にも、意図的か意図せずかは分からないが、同じ様な効果がありそうで、だからこの種の強引な擁護をする人達がどこからともなく湧いてくるんだろう、と推測する。



 トップ画像には、身に着けている ボディカメラ 警察のボディカメラ - Pixabayの無料写真 を使用した。

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