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人を騙す行為へ加担する芸能人と、人を騙す行為へ加担するメディア/スポーツ選手の差

 参加者が入札しても落札できない仕組みのあるオークションサイトを設け、入札者から手数料を騙し取ったとして運営者4人が逮捕される、オークションサイト詐欺事件が2012年にあった。このオークションサイトについて、複数の芸能人が紹介料を受け取り、自身のブログなどでやらせ宣伝工作・ステルスマーケティングをしていたことも問題視された。

 例に挙げた2人以外にも複数の芸能人が、同サイトで高額商品をかなり格安に落札できたとするブログ投稿をしていたが、その多くは、詐欺サイトの認識はなかった、紹介料を貰っていない、などと主張した。Wikipediaにはその種の投稿をしていた8人の名が上がっている。菜々緒のように今も活躍している者もいるが、その多くは既に芸能界の第一線にはいない。
 紹介料40万を受け取ってブログを書いたと認めた小森 純は、約8カ月に渡ってテレビ出演を自粛し、その後も明らかにメディア露出が減った。2017年に出演したテレビ番組で、この件が発覚したことで化粧品プロデュースやイメージモデルの仕事に関して1億円以上の違約金が発生したと語っている。関係した他の芸能人が第一線を退いている理由もこの件が原因、とは限らないが、この件の影響は確実にあったのだろう。


 2019年、吉本所属芸人を中心とした複数の芸人が、出演料を受け取って振り込め詐欺グループの忘年会に参加していたことが発覚し、中心人物とされたカラテカの入江 慎也は契約解除、参加が報じられた雨上がり決死隊の宮迫 博之、ロンドンブーツ1号2号の田村 亮などが謹慎処分となった。

 この問題は、事務所から芸人に分配されるギャランティの少なさなど、吉本興業に内在する複数の別の問題も露わにしたが、それを加味して考えても、詐欺グループのような問題のある組織と関わりを持つことは、ショービジネスを生業にする者にとって致命的であることを物語っている。
 それはオークションサイト詐欺事件からもよく分かる。そのような組織・人達と関わりを持つことは、所謂広告塔や客寄せパンダとして利用されることにもなりかねず、人を騙す行為への加担と見なされる。関係性が深い場合には共犯者と見なされる恐れもある。


 首相の菅は国連総会で、東京オリンピック・パラリンピックについて「招致した開催国として責任を果たし、やり遂げることが出来ました」とアピールした。

菅首相 国連総会でオリ・パラ開催の成果を強調|TBS NEWS

 開催期間中にこれまでで最悪の感染爆発が発生し、オリンピック・パラリンピック参加者から数百人の感染者を出し、感染によって棄権した選手、感染によって命を落とした関係者もいるのに。感染爆発によって生じた医療崩壊によって、診療/治療を受けられずに命を落としたものも決して少なくないのに、開催国として責任を果たした、やり遂げた、と言えるのか。自分には全くそうは思えない。愚行をやり遂げた、と言いたいなら話はべつだが。
 紹介したのはTBSの記事だが、ざっと見る限り、他の大手メディアのこの件に関する記事もほぼ同様の内容で、期間中にこれまでで最悪の感染爆発が起きたこと、選手を含む関係者から複数の感染者が出たこと、感染爆発によって命を落とした者が複数いたことなどには一切触れずにこれを報じている。自分には、メディアが菅の詐欺行為に加担しているようにしか思えない。菅が○○と言いました、という表現に嘘はないが、果たして菅の話は妥当か、に触れないなら、それは菅の話に関するステルスマーケティング的でもある。
 メディアは皆、冒頭で紹介した詐欺事件に関係した芸能人、詐欺グループの忘年会に参加した芸人らの責任について報じていたが、自分達が権力の詐欺的な行為に加担すること、自分達がやっているステルスマーケティングには無頓着だ。いや、分かってやっている恐れも強く、全く不誠実だ。


 詐欺行為への加担に無頓着なのはメディアだけでない。次の記事は、金メダリストの出身地や練習拠点などに金色に塗ったポストを設置する日本郵便と内閣官房のプロジェクトの全国第一号と、それを無邪気に喜ぶソフトボール日本代表 山田 恵里に関する内容だ。

「ゴールドポスト」が登場 五輪ソフト金メダルを記念 山田主将の出身地・藤沢に:東京新聞 TOKYO Web

 昨日の投稿で江の島に設置される東京オリンピック関連のモニュメントについて書いたが、このゴールドポストも全く同種の存在であり、私たちは、懸念が強く示されている中で強行し、新型コロナウイルスによる感染爆発を招いた東京オリンピックに加担しました、というアピールにしかならない、アピールにしかならないは言い過ぎだとしても、その印象が確実につきまとうことになるだろう。そしてなぜ内閣がこんなことをやっているのかと言えば、それは東京オリンピック開催は間違っていなかったというイメージ作りをしたい、演出したいから、としか思えない。
 このようなことにはしゃぐスポーツ選手ではなく、こんなのは必要ない、と言える選手を応援したいが、日本にそのような選手はいないのか。そもそも開催前から、悪影響が確実に及ぶという指摘があった中で、ボイコットせずに参加した選手にそんなことを期待するだけ無駄なんだろう。開催前に何人かボイコットした選手がいたが海外選手ばかりで、日本人選手がボイコットした、という話は全く記憶にない。記憶にないだけで誰かいたのかもしれないが、少数派であることは間違いない。


 元ラグビー日本代表の平尾 剛が、スポーツウォッシングに関するこんな記事を書いている。

「ファンの皆様に感謝」定型コメントばかりのオリンピアンに元ラグビー日本代表が感じた強烈な違和感の正体 競技だけやればいい時代は終わった | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 スポーツウォッシングとは、スポーツイベントを主催すること、スポーツ選手の活躍などを、国の評判を向上させる手段や、政府などの権力が人気取りとして利用することだ。スポーツウォッシングの典型的例は、6/13の投稿でも取り上げた、ナチ政権下のドイツで1936年に開催されたベルリンオリンピックだ。
 権力がその人気取りの為にスポーツを利用していることから目を背け、自分は純粋に競技しているだけ、というスタンスを示す選手は、詐欺オークションサイトの宣伝に結果的に加担した芸能人と殆ど違わない。いや、国の予算からその強化費、大会運営費が支出されていることを加味して考えれば、結果的に加担した芸能人ではなく、紹介料を貰ってステルスマーケティングを行った芸能人と実質的に同じだ。スポーツ選手は芸能人ではないが、確実にショービジネスを生業にする人達である。詐欺的行為に関係するのは、たとえそれが結果的に関係しただけでも、致命的な失敗になりかねない。
 もし、国がやっていることだから間違いはないと思った、などと言うなら、それは明らかに間違っている。判断基準は誰がやっているかではなく、やっていることの内容でなくてはならない。国がやっていることだから間違いはないと思った、が正当化できるなら、極端に言えば、スポーツ選手の言うことだからいい加減だと思った、も正当化できる。誰が言ったかではなく、その内容で判断すべきなのに。


 芸能人の不祥事に関しても、その致命的や利用価値の高さ/低さによって責任追及には差がある不公平な状況だが、攻めやすい芸能人の不祥事はこれでもかと話題にし、糾弾するのに、メディアは自身の同様の行為には無頓着だし、また国が絡んだスポーツ選手の同様の行為にもかなり甘い。
 この国で公平公正な社会が実現するにはまだまだ時間がかかりそうだ。


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