世の中には詐欺的なグラフが蔓延っている。典型的なのは、グラフを3D化して増加や減少、多数派と少数派の差を実際以上に大きく演出する手法である。グラフを3D化することで遠近法を使い、都合よく意図的に強調した演出をやるのは間違いなく印象操作であり、詐欺的なグラフと言わざるを得ない。
詐欺的なグラフについては、このブログでも以前に触れたことがあるが(2017年4/11の投稿)、そこで触れた不適切なメモリ設定や部分的拡大を用いて印象操作を行う手法や、冒頭で触れた3D化と遠近法で印象操作を行う方法以外にも、複数の詐欺的なグラフの手法があって、それについては以下のWebサイトで詳しく説明されている。
2つ目のWebサイトで示されているように、広告ではかなりの詐欺的なグラフが平然と用いられるし、大手メディアで用いられることも決して珍しくない、特にテレビは、ハッキリ言って詐欺的なグラフに塗れていると言っても過言ではない。
個人的には、そのようなグラフが妥当なものであるという認識を広めかねないので、娯楽番組であっても詐欺的なグラフを用いるべきでないと思うのだが、娯楽番組どころか、情報番組や報道番組でも頻繁に用いられるのが実状だ。
これは、テレビ朝日 報道ステーションが、10/31に行われた第49回衆議院選挙での出口調査をもとに作成し、放送で使用したグラフである。報道ステーションはこのグラフを使用して、“若い世代”ほど #自民党支持 と報じた。
【“若い世代”ほど #自民党支持】
— 報道ステーション+土日ステ (@hst_tvasahi) November 1, 2021
比例投票先を年代別に見ると #10代 で43.5%、#20代 で41.0%が自民党に投票→一方60代では34.4%
▼また、70歳以上の24.8%が #立憲民主党 に投票しているのに対し30代では14.2%にとどまるなど、高齢層ほど野党支持の傾向も#報ステ #報道ステーション
このグラフやツイート、そして放送の一部である動画は、一見何の問題もないように見えるかもしれない。メモリは均等に振られ、10代から70代までまんべんなくグラフ化し部分的な切り出しも一見やっていないように見える。3Dグラフを使って恣意的な強調もしていない。だがしかし、このグラフも決して適切なグラフとは言い難い。実際には部分的な切り出しをやっている。
自らもネット右翼的活動に傾倒していた過去を持ち、現在はその異様さや不適切さを指摘する執筆活動などを行っている古谷 経衡は、報道ステーションのこのグラフや“若い世代”ほど #自民党支持 という分析に対して、次のような指摘をした。
21衆の世代投票率がまだ発表されてないので、19衆のそれで代用しましたが、概ねこんな傾向がわかる。(報道ステーションの調査が正しいとすれば)。要するに若者は棄権率が多すぎて、多くの人が自民にも非自民にも態度不明である。高齢者はその逆となる。 pic.twitter.com/FJ1ByEo6wJ
— 古谷経衡@新刊『敗軍の名将-インパール・沖縄・特攻』 (幻冬舎新書) 重版決定! (@aniotahosyu) November 3, 2021
報道ステーションのグラフは投票率を加味しておらず、棄権者を含めた全有権者を分母として考えたら、若い世代ほど自民支持とは決して言えない状況である、と指摘している。「21衆の世代投票率がまだ発表されてないので、19衆のそれで代用しました」とあるが、これは恐らく17衆の誤りで、つまり2017衆院選の投票率で棄権者数を考えた、ということだろう。
11/2にNHKが「10月31日に投票が行われた衆議院選挙で18歳と19歳の投票率は、速報値で43.01%で、前回から2.52ポイント高くなりました」と報じているので、少なくとも10代の投票率は、この仮定はほぼ実態に即していると言えるだろう。
古谷の指摘を受けて、2017衆院選の投票率(棄権率)だけでなく、2019参院選の投票率(棄権率)で推定したグラフを作成した人もいた。
19衆と仰ってますが、17衆でしょうか。Excelでグラフ作ってみて、似たような感じになりました。参考までに19参も載せておきます。データ分析のプロでも何でもないので、間違えていたらすみません。あと、グラフの右に投票率を表示するのって、どうやるのですか?😅https://t.co/9gxX1yrJo5 pic.twitter.com/wueavQJa8s
— こ (@4WlDhg5MncRUDab) November 4, 2021
棄権者を加味しないグラフを作ってそこから分析する手法は、1年前・2020年11/1に行われた、大阪市廃止・所謂大阪都構想に関する住民投票結果に関しても行われていた。ほぼ全てのメディアが、大阪都構想は僅差で反対票が上回り否決された、と報じていたが、その投票率は62%であり、賛成は全体の約30%、反対が約31%、残りは棄権か無効票、つまり棄権/無効票が全体の約38%を占める計算で、最も多かったのは棄権であり、僅差で反対票が上回り否決された、は嘘ではないものの、分析として不適切と言わざるを得ない状況だった。
次のグラフは、左がほとんどの報道機関が報じた内容のグラフであり、左側が棄権者まで加味したグラフだ。賛成派が如何に少なかったか、は左側のグラフの方が確実に実態を示している。
大阪住民投票から、住民投票/国民投票の在り方を考える(2020年11/2の投稿)
報道ステーションの若い世代ほど自民支持という分析にしろ、大阪都構想に関する報道にしろ、これが果たして中立で公平、事実に即した報道と言えるのか。自分には全くそう思えない。
報道ステーションの公式アカウントは、前述のツイート以外にも、同じ件に関する別のツイートもしている。
比例投票先を年代別に見ると #10代・20代 の40%以上が自民党に投票。一方高齢層ほど野党支持の傾向に
— 報道ステーション+土日ステ (@hst_tvasahi) November 1, 2021
また #甘利幹事長 が敗れた神奈川13区では、勝利した立憲民主党の太氏に投票した人の12%が比例では自民党を選択。野党が受け皿になれなかった実態が判明
#報ステhttps://t.co/S1gHvKysnx
このツイートで用いられているのは、先程の1分27秒の動画から、グラフを表示して「若い世代ほど自民支持」という分析をアナウンサーが行う場面だけを抽出した36秒の動画であり、つまりそれを更に強調した内容になっている。
これと同じようなグラフを用いた記事を朝日新聞も掲載している。
自民の若者人気に陰り? 立憲は高齢者頼み続く 衆院選出口調査分析 [2021衆院選]:朝日新聞デジタル
朝日新聞も、投票率(棄権率)を加味しないグラフを用いている点では報道ステーションと同じなのだが、自民党と立憲民主党の年代別得票率の推移にも注目し、見出しにあるように、自民党の若者人気にはかげりが見える、としている。
このように幾つかの理由から、報道ステーションの若い世代ほど自民支持という分析が、如何に短絡的か、厳しく言えば、いかに印象操作・プロパガンダの類なのか、ということが分かる。