敵基地攻撃能力の保有という話が如何に欺瞞に満ちているか、について書いた昨日の投稿の準備段階で、「第16回 早川タダノリ「日本を考える」 | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス」という記事を見つけた。
この記事の冒頭では、2017年に内閣官房が国民に向けて公表した、弾道ミサイルが落ちてきた場合の対処方法に、近くに適当な建物がない場合は、物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守る、というのがあったが、果たして地面に伏せることで弾道ミサイルの被害を回避できるのかと、その幼稚さを指摘していて、これでは竹やり訓練なんかをやっていた戦中日本と何も変わらないじゃないか、というニュアンスを示している。
この記事は、2010年代の「日本スゴイ!」ブームにも言及しているのだが、戦前にも日本礼賛ブームがあったようだ。
戦前の日本は、江戸末期の開国以降、欧米への危機感と劣等感みたいなものが、その大きな原動力になっていたように思うのだが、それをこじらせた結果、我々は欧米人よりも優れている世界でも有数の国だ!大国ロシアとの戦争にも勝った!
のような方向に行ってしまったのだろう。そしてその結果、国力で遥かに劣るアメリカに戦争を仕掛けるに至り、最終的にとても悲惨な結果を招いてしまったのだろう。ドイツも、第一次世界大戦で英仏に負けた結果、ドイツ人こそが世界で最も優良な人種だとするナイツが台頭、そして第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の大虐殺をやり、そして再び大敗を喫するという、日本と似た悲惨な結果を招いた。
そして2010年代の日本で、なぜまた「日本スゴイ」のブームが起きたのかと言えば、日本は1980年代の終わりに経済的に世界で最も発展した国となったが、その後は転落の一途をたどっており、先進国で唯一2000年頃よりも賃金が減っている国に成り下がっている。1980年代の栄光が忘れられず、自尊心を保つ為には「日本スゴイ」と思わないとやっていられなかったんだろう。しかし再びそれをこじらせ過ぎれば、80年前のような悲惨な結果を招きかねない。
いつでも重要なのは、誤魔化さずに現状に向き合うことだ。誤魔化して現状から目を背けたら、適切な対応ができるはずがない。適切な対応が出来なければ状況は更に悪化する。新型ウイルス感染拡大が始まってから2年も経つのに、日本では未だに広範な検査をする環境が整えられてにないことについては、一昨日・1/21の投稿で書いた。感染症対策の大前提である検査環境が整えられていないなら、対策が上手く行くはずがない。広範な検査は感染症における現状把握の唯一の手段であり、それをおろそかにすることは、まさに誤魔化して現状から目を背けること以外の何ものでもなく、現状から目を背け続けているんだから、適切な対応ができるはずがない。
はっきり言って、今の日本における日本スゴイなんてのは偏狭な話であって、その実態は日本ヒドイ以外の何ものでもない。
昨年末頃から一部で、バスやタクシーなどの運転手の健康被害や事故を防ぐための労働環境改善運動が活発化している。
バス・タクシー運転手 拘束時間や休息 労組など厚労省に要請書 | NHKニュース
2016年に、過酷な運行スケジュールを運転者に強いていたバス会社の長距離バスが、多数の死者を出す大事故を起こしたことがあり、社会問題として大きな注目を浴びた。
だが、2019年度の数字でも、運送業で働く人のうち脳や心臓の病気で過労死と認定された割合は、全産業の平均と比べて、トラックの運転手はおよそ8倍、バスとタクシーの運転手はおよそ3倍にものぼるのだそうだ。
日本の交通機関は世界で最も正確だ、という話をよく聞く。世界的に見れば、10分以内の遅れは遅れと認識されない場合が多いのに、日本では秒単位のズレでお詫びのアナウンスが流れる、なんてことも話題になっていた。またストライキや運休も殆どなく利用者にとってとても素晴らしい、という話もよく耳にする。しかしその裏で、現場で働く労働者には全く素晴らしいとは言えない状況が強いられているケースが決して少なくない、ということを、運送業における労働環境改善を求める運動の活発化が示しているのではないだろうか。
日本スゴイの裏側には日本ヒドイが隠れている、なんて話は他にもある。たとえば、日本のアニメは海外でも人気が高いと言われているし、それは決して嘘ではなく高評価を受けてはいるものの、日本のアニメ製作現場では、やりがい搾取とも言えるような過酷な状況を強いられている、という話はかなりよく聞く。
- アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が語るアニメーター業界の「過酷な実態」:アニメ業界の「病巣」に迫る【前編】(1/4 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
- アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が指摘「Netflixで制作費が増えても、現場のアニメーターには還元されない」:アニメ業界の「病巣」に迫る【後編】(1/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
マンガもアニメと同様に、は世界的な評価を得ている日本産コンテンツだ。未だに海賊版は撲滅出来ていないものの、海外での公式展開も進み、また国内外でデジタル配信の環境が整い、マンガ業界は今、過去最高に潤っているようなのだが、マンガ家に支払われる原稿料はずっと据え置かれたまま、と訴えているマンガ家もいる。
昔の漫画家は原稿料だけで食えたらしいけど、今の漫画家はほとんどの人が無理でしょ。出版社はもっと金をよこせの話です。
— 大童 澄瞳/Sumito Oowara (@dennou319) October 26, 2021
全部自分でやれるし、出版社なくてもヒット漫画は出せる世の中なのに何十年も前から原稿料が1p1万円凸凹と変わらないのは何でなんですかねって話です。作家がSNSでバチバチバズらせてからじゃないと出版されないとかよくある話になってますけどなんなんですかねえ。 https://t.co/33cPIFT5qK
— 大童 澄瞳/Sumito Oowara (@dennou319) October 27, 2021
町にゴミ箱がないのに驚くほどごみが落ちていない、という話もよく聞くが、その一方で、コンビニのゴミ箱にゴミが持ち込まれていて、経営者はその処理コストに頭を悩ませている、なんて話も聞く。テロ対策を口実に公共機関がゴミ箱を撤去した結果、民間企業、しかも大企業でなはなく末端の、がその代役を、身銭を切ってやっているということだ。
こんなのはほんの一部の例であって、他にも日本スゴイの裏側に日本ヒドイがあることは決して珍しくない。日本のコンビニは便利で素晴らしいという話もあるが、大企業が個人経営者にサービス環境の構築を無理強いした結果でもあるし、現場では労働者が対価に見合わない労働をやっていることも多い。自販機のメンテナンスや宅配業界からは、休憩も満足にとれないなんて話も聞こえてきたりする。
誰かを犠牲にした日本スゴイは全然スゴくなんかないし、日本ヒドイ以外の何ものでもない。