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UC系ガンダムの世界観と現実の歴史認識


 昨年(2017年)、NHKはニッポンアニメ100と題し、日本のアニメ全般の視聴者人気投票を行い、年明けからBSで関連番組を数回放送、5/3に結果発表の特番を放送した。今年似たような企画を行うようで、全ガンダム大投票と題して、日本が世界に誇る元祖リアルロボットアニメ・ガンダムだけに限定した視聴者投票を実施し、5/5に結果発表特番を放送するようだ。自分はギリギリ最初のガンダムブームを体験した世代で、ガンダムには強い思い入れがあり今からとても楽しみにしている。どれぐらいのめり込んでいたかというと、恥ずかしながら、小学校の卒業文集に「将来はモビルスーツの開発者になりたい」という作文を書いたくらいだ。

 
 最初のガンダム(以下ファーストガンダムと呼ぶことにする)が公開されたのは1979年。今から約40年も前だ。それ以降、ガンダムシリーズ・関連作品は映像化作品だけでも20シリーズ以上が制作されている。また、プラモデル化、雑誌の企画の為に考えられた映像化も具体的な作品化もされていない設定なども存在し、今回の投票はアニメ化作品限定だが、マンガ・小説・ゲーム・それ以外だけの作品・設定なども含め細分化すれば、その数は更に膨大だ。同時期に公開されたスターウォーズも、当時の世界観のまま今でも新たな作品が生み出されているが、個人的にガンダムは日本のスターウォーズ、寧ろそれを超える存在であるとすら感じている。
 当初ガンダム関連作品は、ファーストガンダムと時系列的につながりのあるUC系(UCはユニバーサルセンチュリーの略で、西暦に代わる年の年代形式という設定)だけだったが、1990年代の中頃から基本的な世界観だけを踏襲した、UC系とは全く異なるガンダム作品も多く制作されている。因みにそれらの作品の中には、UC系作品で登場したモビルスーツを、古代文明の遺物のような扱いで登場させている作品もあるが、基本的には別世界のような設定だ。要するに、ガンダムシリーズ作品はUC系作品と非UC系作品に大きく分けることが出来る。
 
 ギリギリファーストガンダム世代である自分にとっての、ガンダムの魅力はやはり、世界観・歴史的に繋がりのあるUC系作品群だ。NHKの視聴者投票では、好きな作品・モビルスーツ(及び登場メカ)・登場人物・主題歌(及び挿入歌)を募っているが、自分は全てUC系作品の選択肢に投票した。好きな作品に関しては、ファーストガンダムでキャラクターデザインを担当した安彦良和さんがマンガで作品化し、近年アニメ化が進められているガンダムThe Originを投票先に選んだ。The Originは、一言で言えばファーストガンダムのリメイク作品なのだが、ファーストガンダムの不自然な設定など新たな解釈で大きく変更している点も多い。ファーストガンダムはシリーズ最初の作品ということもあり、制作当時は人気作品ではなかった為、制作費や当時の技術力などの影響で作画が荒い部分も多く、また、主要キャラを担当する声優がモブキャラを代わる代わる演じているなど、作品としての粗さも目立つ。テレビアニメ放送後期からは徐々に人気に火が付き始め、その後総集編のような形式でファーストガンダム劇場版三部作が制作され、その際には書き換えられたカットもあったが、テレビアニメのセルをそのまま流用した部分も存在していた為、個人的にはThe Originの全話分をアニメ化することで、ファーストガンダムのリメイクが今後行われることを期待している。
 また、UC系ガンダム作品は物語の時系列順に制作されたわけではない。スターウォーズで言えば最初の3部作・エピソード6-7の後に、その前日譚であるエピソード1-3が作られたのと同様だ。UC系作品は、地球連邦政府樹立・宇宙移民開始を機に西暦(何年という明確な設定はない)からUCに年代が変わったという設定になっている為、現在から緩くつながる未来という設定なのだが、ファーストガンダムが作られたのは1970年代後半である為、現在当然のように使われているタブレット端末やモバイル端末などは登場しない。更に言えば、受話器の殆どにコードがあるように描写されている。このようなことは全てのガンダム作品に言えることで、90年代に制作された作品で現代的なパソコンがやっと描かれ始め、2000年代以降の作品でモバイル端末などが描かれ始める。それぞれ制作された当時の状況が反映されており、それを考慮・比較しながら見返すのもUC系ガンダム作品の楽しみ方の一つだ。モビルスーツのデザインも同様で、ガンダムシリーズの2つ目の作品・Zガンダム以降はなんとか共通性を感じさせられるデザインに収まるが、ファーストガンダムのモビルスーツは、それ以前のロボットアニメの影響も強く、他の作品と比べて古臭さが突出している感が否めない。80年代後半に制作された0080ポケットの中の戦争以降、ファーストガンダムで描かれていた、一年戦争の別の場面を描いた作品は複数存在するが、どの作品でもファーストガンダムに登場していたモビルスーツのデザインは概ねリファインされている。そんな点からもファーストガンダムのリメイクとしてのThe Originに期待している。
 
 自分はそのように期待しているのだが、ガンダムファンの中にはそれに否定的な人もいるようだ。前述のようにファーストガンダムとThe Originは同じストーリーを描いているが、話が更新されている部分も多い。ファーストガンダムに格別の思い入れのある人の中には、The Originのアニメ化によって話が書き換えられる、極端に言えば「汚される」と感じる人もいるようだ。マンガ・小説・ゲームなど関連作品が膨大なUC系ガンダム作品は、実は全ての作品で細かく辻褄が合うように書かれているわけではない。勿論、ファーストガンダムの生みの親である富野由悠季さんやシリーズ全般を管理するサンライズなどが、なるべく矛盾が生まれないように監修しているが、逆に多様な解釈を容認する気風があるのもガンダム作品の特徴で、その為、前述のように作品ごとに矛盾する部分も複数存在する。まず何と言っても、ファーストガンダムですら、テレビアニメ版と劇場版で異なる設定が複数存在する。劇場版で総集編化するにあたり省かれた部分があるというような程度ではなく、劇場版化にあたって戦車のようなキャタピラ付きのモビルスーツが宇宙戦で戦うなどの不自然な設定が、ガンキャノンに置き換えられるなど、その時点で既にThe Originが行ったような設定変更が行われている。テレビアニメ終了から10年以上たってから劇場版が制作されたZガンダムは、もっとあからさまで、物語の結末が書き換えられている。
 余談だが、ファーストガンダムに登場した最初のガンダムのデザインも何度も更新されている。恐らく歴代ガンダムの中で、というか、もしかすると全てのアニメロボットの中で最も模型化のバリエーションが多いかもしれない。ゲーム化も幾度となく行われているのだが、ゲーム毎にモデリング担当者が自分の納得のいくようにモデリング作業をやり直しているという話も噂われている。普通、作業量を節約する為に旧作のモデリングを流用、若しくは元に手直ししそうなものだが、一から作り直されるという噂だ。
 
 こんなことから、UC系ガンダム作品に関しては「どれを正史とするのが適切か」なんて議論がずっと続いている。サンライズの見解は「どの作品も誤りではなく、UC歴を見る者の解釈の差」的なもので、どれかが絶対的に正しい正史であるという立場をとらない。ただ、世間一般では基本的に設定で対立する部分があると原則的には、テレビアニメ/OVA作品>(総集編的な)劇場版アニメ>マンガ・ゲーム・小説>作品化されていない設定、で優先度が高いというような認識が強いように感じる。「設定やストーリーに矛盾する点がある」と言うと、作品管理が機能していない、要するにネガティブな事にも思えるが、前述のガンダムのモデリングに関する話などのように、微妙に異なる解釈を容認するおおらかさと考えれば、ポジティブなことでもあると思える。そのような矛盾する設定が存在することも実はガンダムの魅力で、それに関する研究や議論ができることも、フィクションであるガンダムにリアリティを感じさせる要素の一つなのだろう。
 
 実際、現実の歴史でも決定的な証拠・根拠が見つかっておらず、研究者などの解釈で異なる見解が示されることは少なくない。例えば、織田信長は本能寺の変で死亡したとされているが、遺体は発見されていないとされており、実は本能寺では死んでおらず、その後も生き延びたという話が語られることも少なくない。真田信繁と豊臣秀頼も同様で、大阪の陣後、薩摩へ逃げたという話があり、本当に逃げ延びたのかは分からないが、鹿児島には彼らの墓があるそうだ。これらの話に関しては正しいとされる見解がほぼ固まっているが、邪馬台国が存在した地はどこだったのかなどに関しては、未だに決定的な証拠がなく論争が活発に行われている。また、ナチスドイツのヒトラーの遺体も見つかっておらず、ベルリンで自害したのではなく実はアルゼンチンへ逃げ延びて余生を送ったなんて話もあるし、この手の話は日本史だけでなく、世界史の分野でも枚挙に暇がない。このように、フィクション作品であるUC系ガンダムの世界だけでなく、現実でも正しい歴史が何なのかについての論争は数多く存在している。
 しかし、歴史は時代に合わせて都合よく解釈されてしまうことがある。日本国内での典型的な例は、楠木正成と足利尊氏の関係だ。戦前、天皇が神とされていた頃は、南北朝時代に南朝側についた楠木正成が英雄とされ、対立した足利尊氏は逆賊のような扱いだったそうだ。しかし、現在は足利尊氏を逆賊と蔑む傾向は殆どなく、寧ろ室町幕府成立させた人物として楠木正成よりも歴史的に重要視されている。また、日中戦争における南京事件に関しても、日本と中国の評価には大きな差があるし、領土問題、日韓間の竹島・独島問題、日露間の北方四島の問題に関しても、日本ともう一方の当事国では異なる歴史教育が行われている。また南シナ海の領有権に関しては、中国が何百年も前の話を根拠にそれを主張しているという状況だ。

 確かに、自分も南京事件の被害者数を30万人以上とする中国側の評価は過大だと思うし、韓国が独島を、ロシアが北方四島の領有権を主張する根拠には妥当性を感じない。しかし、日本人の中にも適当な根拠なく「南京大虐殺は完全なでっち上げ」「慰安婦問題も完全なでっち上げ」などと主張する者がいるのはとても残念なことだ。
 何かしら適当な根拠を示してそのような主張をするならまだしも、相手が不適切な根拠で主張するなら、目には目を歯には歯を的に同じような主張で対抗しても構わないというような愚かな考え方は即刻捨てて貰いたい。なぜ根拠がなく不適切だと相手を批判するのに、自分も同じレベルの不適切な行動に出るのだろうか。彼らの言動は、そんなことにも気付かないような愚か者だということを自ら認めているようなものだ。
 
 架空のアニメの世界の歴史ですら、何かしらの作品、勿論作品を管理しているサンライズに公認された作品や設定を根拠に主張や議論が行われているのに、実際の歴史認識に関してそのようなことがすっ飛ばされていいはずがない。再三言うようだが、歴史に対する見解・認識に関しては絶対的に一つの事だけが正しいとは言えないが、どんな見解を示すにしても相応の根拠・証拠を共に示さない・示せないのなら、そんなものは単なる妄想でしかない。

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