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最大限の努力


 2日間に渡る日米首脳会談が昨日終了した。昨日は両首脳の共同会見が行われ、今回の会談でどんなことが話し合われたのか公表されたが、自分が見る限り、メディアの反応は概ね冷ややかだ。貿易関連では、結局鉄鋼関連の高関税措置から日本を除外させることもできず、除外が検討されそうな流れも作れなかったし、日本に不利な条件が付きつけられる可能性の高いFTAの交渉を求めらたに過ぎず、これといった成果があったようには思えない。北朝鮮への対応・安全保障に関しても、従来通り圧力路線を変えないことを確認したに過ぎず、ここでも何か進歩があったのかと言えば、特にあったようにも思えなかった。唯一、今後開催される予定の米朝首脳会談で「拉致問題を取り上げる」という米大統領の発言を引き出したことだけが、今回の会談の成果と言えるかもしれない。


 ただ、昨日の投稿でも触れたように、個人的には過度の期待は禁物だと考える。日経新聞の記事は、共同記者会見でトランプ氏は拉致問題について

拉致被害者が帰国できるよう最大限努力する

と話したと伝えている。また東京新聞も、ほぼ同様の「拉致被害者を日本に帰国させるために最大限の努力をする」という表現でこれを伝えた。産経新聞では共同記者会見の日本語訳の文字おこしを複数記事に渡って行っており、この部分に相当する記事によると、

この人たち(拉致被害者)が日本に帰れることを大事に考えています。そして私はこのことをシンゾーに約束した

と発言したとして、この記事に「拉致被害者が日本に帰れることをシンゾーに約束」という見出しを付けている。

 しかし、BBCは4/19に「米朝首脳会談、成果がなければ「途中退出する」=トランプ米大統領」という記事を掲載し、その中では拉致問題解決への意欲を見せたことも紹介しているものの、共同会見の中で、金正恩・朝鮮労働党委員長との首脳会談に実りがなければ「会談の途中で退出する」と述べたことを伝えているし、日経新聞は「米朝首脳会談「成果なければ見送り」 トランプ氏」という記事で、

(首脳会談について)成果がなさそうだと思ったら、私は出席しない

と発言していたことを伝えている。これについては、朝日新聞も「米朝会談で拉致問題提起 日米首脳、圧力維持で一致」という記事の中で、

日本と米国は北朝鮮問題で、しっかりと手を携え、まったく意見は一致している。金正恩・朝鮮労働党委員長との会談が6月の初旬かその前にあるかもしれない。うまくいかない可能性もあるし、会談が開かれない可能性もある

と発言したと書いており、米朝会談は開催すらまだ不透明な状況であることを、大統領自身が示唆してることが分かる。

 結局のところ最大限の努力の”最大限”とは、沖縄で米軍ヘリが窓を小学校に落下させたことを受けて、米軍側は「小学校上空の飛行を最大限避ける」としたのに、1か月程度で上空を飛行したような程度の”最大限”でしかないのだろう。産経新聞は「拉致被害者が日本に帰れることをシンゾーに約束」という解釈をしているようだが、記事を読むと、自分には、拉致被害者が日本に帰れることを大事に考えることを、シンゾーに約束しただけで、拉致被害者の帰国実現を約束してはいないようにしか思えない。米朝首脳会談の開催すらハッキリしていないのに、拉致被害者の帰国を約束するとは思えないし、もし本当に拉致被害者の帰国を約束するという意思をトランプ氏が見せたのだとしても、全然期待感は持てない。

 その一方で、北朝鮮というどのような対応をしてくるのか予測し難い相手との交渉に関する話なので、誰も確かな約束など出来ないだろうし、”最大限の努力”という表現以外でその意欲を示すことは難しいとも感じる。しかし、なぜ自分がこの”最大限の努力”という言葉に全く期待感を持てないのかと言えば、トランプ大統領にも安倍首相にも多きな不信感があるからだろう。2人について、発言に信憑性を感じられるような人だ、と感じていれば、「きっと本当に最大限の努力をしてくれるだろう」と、期待感をもってその言葉を受け止められるだろう。しかし「TPPから永久に離脱する」と言っていたのに、1年かそこらで「アメリカに有利な条件でTPP復帰を検討」してみたり、「シリアはロシアに任せておけばよい」と言っていたのに、その結果悲惨な事態を招いていたりするトランプ大統領も、昨年来数々の行政・政権内の不祥事に直接関与していなかったとしても、擁護するべきとは思えない閣僚・官僚を擁護してみたり、似たような質問をされても都合が悪くなると「コメントする立場にない」などと往生際の悪い態度を示すような安倍首相のどちらも、全然信頼できないから、彼らの”最大限の努力”という表現に、誰かを何かに誘った際に「行けたら行く」的な返答を受けた時、「十中八九こないってことだな」と感じるのと似たような印象を感じるのだろう。

 2017年7/17の投稿で、安倍首相が沖縄戦の戦没者追悼式の挨拶で、沖縄の基地負担の軽減に関して「できることは全て行うハフポストが掲載した記事)」と述べたことについて書いた。要するに自分はその頃既に首相の発言に信憑性を感じていなかった。また、トランプ氏に関しても昨年から似たような印象だったが、彼らに対する不信感はその頃よりも確実に増している。
 このような観点から考えれば、世間一般的には一応、今回の首脳会談の唯一の成果は”拉致問題を米朝会談で取り上げるとの発言を引き出したこと”とされているようだが、それが拉致被害者の帰国実現という解決に結びつく可能性はゼロではないが、高いとは全然思えないし、結局発言を引き出しただけでは誇れるような成果とは言えないとしか評価出来ない。首相は拉致問題解決に向けて全く何もしていないとは言わないが、トランプ大統領頼みである限り、問題解決に安倍首相が最大限の努力をしているとは到底言えないのではないだろうか。というか、そもそも信頼感の無い人物同士の会談そのものに自分は意義を感じないし、自国と、自国にとって最も重要の国のトップが、共に信頼感のない人物であることが残念でならない。

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