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連帯責任の無意味さとサブスクリプションサービスの危うさ


 3/14の投稿でも触れた、電気グルーヴのピエール瀧さんがコカインを吸引したとして逮捕されたことを受けて、3/2の福岡を皮切りに全5公演の予定で開始されていた電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”の、逮捕後の2公演が中止された。また、既に電気グルーヴとしての出演がアナウンスされていたARABAKI ROCK FEST.19と、FUJI ROCK FESTIVAL ’19への出演がキャンセルされた。
 電気グルーヴが石野 卓球とピエール瀧の二人からなるユニットであることを考えれば、その内の1人・約50%のメンバーが出演出来ない状態であれば、ユニットとしての体裁を維持できるとは言い難く、このような判断・対処も仕方ないかもしれない。しかし現在の風潮だと、例えば5人組のグループであっても、その内の1人が薬物事犯で逮捕されれば、グループ全体の活動自粛がなされ、「それが当然」かのようなことを言う人も決して少なくないのではないか?と危惧する。「当然だ」と言う人には考えてみて欲しい。例えば、松坂 大輔選手は西武ライオンズ時代に、免停中の無免許運転で摘発されたが、その際に西武ライオンズ全体の活動自粛があっただろうか。これが発覚した理由は、彼が無免許運転で駐車違反を犯し、当時の西武広報課長が身代わり出頭したからで、確実に球団も絡んだ不正だったが、それでもライオンズ全体の活動自粛は行われなかった。


 高校野球などでも、一部の所属選手が問題を起こすとチーム全体の活動自粛がなされたりするが、そのような連帯して責任を負わせる事にどんなメリットがあるのか全く理解できない。最近ではそこまでの連帯して責任を負わせることはなくなったが、以前は所属部員ではなくても、その学校に在籍する生徒が問題行動を起こしただけで野球部が出場辞退するなんてこともあった。
 冒頭でも述べたように、今回のピエール瀧さん逮捕に関して、電気グルーヴとしての活動が出来なくなるのは仕方ないかもしれないが、何故か石野 卓球さんが個人で出演する予定だった、Pump It Presents Takkyu Ishinoへの出演も中止がアナウンスされた。これについてハフポストは「なぜ石野卓球さんが出演中止?ピエール瀧容疑者逮捕の波紋、見合わせの理由を事務所に聞いた」という記事を掲載している。記事によれば、この決定は所属事務所と会場が協議をした結果なのだそう。石野さん自身がツイッターで、
とツイートしていることを勘案しても、本人が主体的に出演辞退を申し出たわけではなさそうだ。記事によれば石野さんのこのツイートに関して事務所側は、
 自身のファンに向けて『お知らせ』という意味です。石野とファンの間では、こうしたやり取りで伝わるものだと本人も分かっていると思います
という見解を示しているそうだ。
 自分は、電気グルーヴの結成前に、石野 卓球さんらが主宰していた電気グルーヴの前身にあたるバンド・人生の頃から彼らの曲を聴き、彼が主宰していた日本最大の屋内レイブイベント・WIREにも毎年参加し、彼が以前月1で開催していたクラブイベント・STERNEにも頻繁に参加していたファンなのだが、「こうしたやり取り」、つまり「だとよ」というツイートから伝わってきたのは前述のようなニュアンスだけだ。
 彼がピエール瀧さんの保護者、又は上司など監督責任者であるならば、石野さん自身の活動自粛があっても理解できるが、彼らはそんな関係にない。つまり事なかれ主義を優先させた過剰な自粛なのだろう。


 また、電気グルーヴの公式サイトでは、
  • CD、映像商品の出荷停止
  • CD、映像商品の店頭在庫回収
  • 音源、映像のデジタル配信停止
をアナウンスしている。更に、この記事を書いた時点では、電気グルーヴの公式Youtubeチャンネルでこれまで公開していた動画は、全て削除または非公開にされている。電気グルーヴとしての作品だけでなく、ピエール瀧さんがこれまで出演した映画やドラマ・ゲームなどの公開・販売・放送などに自粛も広がっている。
 基本的に、出演者が逮捕されただけで過去の出演・関連作品まで自粛という風潮自体に疑問を感じるものの、百歩譲って「被害者は殺人・傷害事件や性犯罪を犯した者を見ただけでストレスになるはず」という主張などは分からなくもない。しかし薬物事犯に限って言えば被害者はいない、というか被害者は加害者自身なわけで、そんな主張は成立しないはずだ。しかも逮捕は有罪確定ではない。今回の件ではピエール瀧さんは容疑を認めているようだが、容疑を否認している場合でも同じような自粛が、逮捕されただけで起きるのが今の社会の風潮であることに間違いない。

 商品イメージ・企業イメージと直結している出演CMや、そのタレントが中心となる冠番組などの休止・打ち切りは仕方ないだろうが、過去作品や既に撮影済みの作品まで自粛し、まるでその人がいなかったかのような状況を作り出したり、当事者が所属していたユニットのもう一人にまで責任を取らせるような自粛が本当に必要かには大きな疑問を感じる。
 荻上チキさんのツイートによると、ある番組でアナウンサーがこの件について「ショックで、許せなくて、裏切られたという気持ち」と述べたそうだ。自分も似たような事を言っているテレビ番組のコメンテーターを何人か見た。この台詞を妻や子、若しくは親やとても親しい友人、若しくは彼をイメージキャラクターに起用していた企業の広報等が言うのならまだ理解も出来る。だが、このアナウンサーには、「一体ピエール瀧さんとあなたはどんな約束をしたのか」と言いたい。ピエール瀧さんは元来、人生や電気グルーブで、下品な事やバカバカしいことをやってのける芸風?で人気になった人物である。厳しく言えば、赤の他人に勝手に好ましい人物像を投影していただけではないのか。
 この台詞を聞いて、告白してフラれた子の友達が、「○○ちゃん傷つけないでよ!」って言ってくるみたいなもんだと感じた。過度に自分側の都合を他人に押し付けてはならない。影響力の小さくないテレビというメディアを使って、アナウンサーがそれをやるなんて信じられない。

 現在名曲とされているような楽曲、伝説のアーティストとされているような人達の中にも、過去に薬物使用が明るみになった者は多く、それらの者による楽曲も山程ある。ではそのような楽曲やアーティストのCDや曲が出荷停止されているか、配信されていないかを考えれば、電気グルーヴの楽曲を提供しているソニー・ミュージックレーベルズの判断が如何に馬鹿げているかがよく分かる。俳優と映画の関係でも同様で、薬物事犯で摘発されたことのある俳優なんてのは枚挙に暇がない。例えば勝 新太郎さんも1990年にホノルル空港でマリファナとコカインの所持で逮捕されているが、彼の作品が全て公開停止状態になどならなかったし、当然今もなっていない。
 自分は、百田直樹という作家が大嫌いである。彼のツイートはあまりにもひどい。ヘイトスピーチのオンパレードだ。日本にはヘイトスピーチ防止法という法律もある。しばしばテレビでも放送される神風特攻隊を題材にした映画「永遠の0」は、彼の著作が原作だ。自分は、この作品のストーリー自体が好みでないので、テレビで放送されていても全く見る気にはならないが、それでも放送すべきではないという程までの内容とは思えない。また、この作品が書かれた当時は、彼も今ほどひどいヘイトスピーチをする人物ではなかった。彼がヘイトスピーチをするようになってから、彼の著作を原作として映画化された「海賊とよばれた男」もある。自分は、原作者が彼であることが理由でこの作品を見る気にはなれないが、この作品にヘイト要素が含まれていないのなら、映画自体を否定するつもりはない。
 もしピエール瀧さんが薬物事犯で逮捕されたことが理由で、関連作品等の提供が自粛されるべきならば、百田が関わった映画の放送や販売も自粛して然るべきではないのか。南京事件もアウシュビッツも捏造だとし、合理性のある根拠も示さずに、自分と異なる主張をしているのは洗脳されている人などとする、カルトが入信者を勧誘する手口まがいの主張をする高須 克弥氏をCMキャラクターにしたり、テレビ番組等に起用することも同様に自粛すべきではないだろうか。というか、被害者が発生する人権意識に欠けた発言や、誤った認識を広げかねない風説を流布する者に関する自粛の方を寧ろ先にすべきだろう。


 今回のソニー・ミュージックレーベルズの電気グルーヴ関連作品の提供自粛を受けて、ハフポストは「坂本龍一さん「音楽に罪はない」 電気グルーヴ作品の出荷停止に、声を上げるミュージシャンたち」という記事を掲載している。この記事を読んで自分は、
 サブスクリプションサービスの危うさを、運営企業が自ら露呈したのが今回の件。運営次第で突然聞けなくなるかもしれないという事がよく分かった。CD・BDでもデータでも何でもよいが、好きな曲・好きな映画・好きなマンガ・好きなアニメは手元に置いておく必要がまだまだあるという事。
 どんなサービスだろうが明日突然経営破綻するかもしれないし。Vestaxが倒産した時はドライバがDL出来なくなって困った。ネット上に存在すればいつでも聞ける・見られる・使えるは幻想に過ぎない
というコメントを投稿した。
 2012年に映像配信サービス・Huluに加入してから、レンタルDVDを利用する頻度が極端に下がった。Huluは決まった月額を支払えば、提供される作品を見放題の所謂サブスクリプションサービスで、現在サブスクリプションサービスは映像だけでなく音楽や雑誌、マンガなど、様々なコンテンツビジネスの分野でサービスが行われている。サブスクリプションサービスで提供されるのは、従来の出版物やCD等物理的なメディアで提供されていた、作品を個人利用の為に所有する権利ではなく、あくまでも作品を閲覧する権利だけだ。また、サブスクリプションではなく作品単位で課金する方式の音楽配信、映像配信、電子書籍サービスの中にも、あくまで作品を閲覧する権利を許可しているだけのサービスも少なくない。つまりそれらは貸本屋・レンタルビデオ店のような方式で、それらの店が倒産したら作品が提供されなくなるのと同様に、運営企業の都合によって突然作品が閲覧できなくなる恐れが確実にあるということだ。
 今回の件は、過剰な自粛によって当該アーティストの作品が突然閲覧が出来なくなったという事案だが、企業の経営破綻などによって、いきなり突然全作品が閲覧出来なくなる恐れも確実にある。「そんなことが起きるわけない」と思っている人には、2008年のリーマンブラザーズの経営破綻、1997年の山一証券の破綻が、どれほど突然に起きたかを思い出して貰いたい。また自分は、当時パイオニアに次ぐ国内2番目の規模の、世界的に見ても有数のDJ機器ブランドだったベスタクス(Wikipedia)が、2014年に経営破綻した際に突然WEBサイトが閉鎖された為、パソコンのOSを再インストールする際に、当該社製のDJコントローラーを使用するのに必要な最新のドライバー(ソフトウェア)がダウンロードできずに困った経験がある。厳密に言えば、機器内にバージョン1.0のドライバーが内蔵されている為使用すること自体はできた。しかしそのドライバーには不具合があるので最新バージョンをダウンロードしたかったが、サイトが閉鎖された為にそれが出来なくなった。

 閲覧する権利だけを提供しているサブスクリプションサービスや電子配信サービスというのは、規約を詳しく読めば分かることだが、いきなり運営側の都合でサービスを停止されても文句を言えないようになっている。それらのサービスは、そのような危うさ・はかなさの上で提供されているという事をよく認識した上で利用しなければならない。CATVなどの有料テレビ番組を見るようなつもりで利用するのが適当で、自分が物理メディアやデジタルデータとして所有するライブラリを拡張するサービスかのように認識すれば、将来的に「こんなはずじゃなかった」と思わされることになるかもしれない。




 最後一つだけ付け加えておく。


 ピエール瀧逮捕の約2週間前に、電気グルーヴとのコラボレーション企画を発表した関西電気保安協会は、逮捕後も当該企画をこれまで通り公開している(ハフポストの記事「関西電気保安グルーヴは「続ける方向で協議中」 関西電気保安協会と石野卓球さんがタッグ、異色コラボ動画」)。今回の件に関する反応の中で、ほぼ唯一(は少し言い過ぎかもしれないが、)と言っていいくらい、まともな判断をしているのが関西電気保安協会である。

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