スキップしてメイン コンテンツに移動
 

「戦争しないと北方領土は返ってこない」という発言の深刻さ


 昨日来もう既に山程メディアが報じており、わざわざこんな零細ブログでこの件を再生産する必要性があるのかは分からないが、それでも日本維新の会・丸山穂高衆院議員の「戦争しないと北方領土は返ってこない」という趣旨の一連の発言は、その発言が国後島でされたこと、彼が発言を向けた相手が、戦争を経験している世代であり元島民でもある、ビザなし交流訪問団の団長だった事などを勘案すれば、あまりに衝撃的過ぎた。空いた口が塞がらないとはまさにこのことだとしか思えず、必要性云々の前に個人的な備忘録として、そしてこの事案を個人的に整理して理解する為にも文字にすべきと思えた。というより書かない訳にはいかない気分だったと言った方が正しいのかもしれない。
 これから書くことの多くは、既にメディアで取り上げられていることだったり、誰かがツイートしていることだったりするので、「既出の情報なら必要ない」と思う人は読み飛ばしてもらった方がいい。そしてこれから書くことを「自分が自分の頭だけで発想した事」として書いているつもりもないので先に宣言しておく。


 自分がこの件に最初に触れたのはTBSニュースでだった。TBSニュースは「維新・丸山議員、国後島で「戦争しないと、どうしようも・・・」」という見出しで記事化している。当該記事には当初ニュース番組で使用した映像もあったが、どんな理由かよく分からないが現在はスクリーンショットに置き換わっている。
 一応、新たに公開した記事「北方領土めぐり、維新・丸山氏“暴言”「戦争しないと・・・」」で、ほぼ同じような内容のニュース映像が公開されているものの、後半部分の、丸山氏の釈明の部分の映像が変更されている。当初は、現地で訪問団に抗議を受けた際に丸山氏が実際に発言する映像が使用されており、「ホームビジット先でかなり酒をすすめられ、酒が入っていたところで。こういう形でご迷惑をかけたこと、改めておわび申し上げます」と述べた後に、カメラに向かって「賛成か反対かという口調でそこにいる人に聞いている。あたかも私がそう思っていて押しつけるかのような話は間違い。誤解があるなら解かなければいけない」と発言する様子もあったが、新しい方の記事では、そのカメラに向かっての発言部分が映像からなくなり、その部分は記事本文からも消えている。

 北海道テレビはこの件について「酒に酔い維新議員 島返還に戦争持ち出し元島民抗議」として記事化し、記事には同局のニュース映像も添えられている。



このニュース映像の中には、TBSニュースが当初公開していた映像で使用したのとは別の、恐らく北海道へ戻った後の記者会見での、同様の趣旨の発言をする丸山氏の姿がある。丸山氏はそこでも、
 北方領土を戦争で取られたわけですから、取り返すということに対して賛成か反対か聞いたと。別にそういう話があってもいいわけじゃないですか。それに対して何をダメだとおっしゃっているのかよくわからないです
と述べている。


 まず最初に触れておくべきは、飲酒していたかどうかは、丸山氏が「何をダメだとおっしゃっているのかよく分からない」と言っている以上大して重要な話ではない、ということだ。例えば、丸山氏が「酒に酔ってついつい不適説な発言をしてしまった」と言っているのなら、勿論到底容認など出来ないが、飲酒していた事がこの件を考える上で勘案すべき要素の1つと言えるかもしれない。しかし、そもそも「不適切な事は言っていない」と主張しているのだから、酒云々は関係ないと言える。つまり、彼は何を指して「酒が入っていたところで。こういう形でご迷惑をかけた」と言っているのかよく分からない。この時点でもう既に支離滅裂である。

 彼は2015年に酒に酔ってトラブルを起こしており(産経新聞「おおさか維新・丸山衆院議員が飲酒トラブル 男性の手を噛む 幹事長、厳重注意処分に」)、その際に以下のようにツイートしている。

つまり禁酒宣誓書を党幹事長に提出し、議員在職中は酒を一切飲まないと公言したにもかかわらず、今回「酒を飲んで迷惑をかけた」と釈明したわけだ。つまり、発言内容が不適切かどうかにかかわらず、彼にとっては「酒を飲む」行為自体が不適切な行為であって、その意味で「迷惑をかけた」と言っていたのかもしれない。
 しかし、どう考えても訪問団が抗議をしたのはそんなことについてではない。要するに丸山氏の示した釈明ははぐらかし以外の何ものでもない


 また、彼は「戦争でこの島を取り返す」と言っている。取り返すということは、北方領土、少なくとも国後島は日本の領土でなく、現状ロシアの領土であると認めているとも言えそうだ。
 戦後およそ70年間、北方4島はソ連/ロシアの実行支配が続いているので、「取り戻す」とは、ロシアの実行支配を解いて名実共に日本政府の支配下に取り戻すという意味と考えられなくもない。しかし、つい先日現政府は北方領土は日本の領土だという明確な主張を止めてしまったが(朝日新聞「「北方四島は日本に帰属」の記載削除、自民内で批判続出」)、それでも一応戦後70年間北方領土は日本の領土と主張し続けてきたわけで、戦争云々とは関係なく、迂闊に「取り戻す」という表現を用いればその主張との矛盾を指摘されかねない。
 余談ではあるが、「誤解があるなら解かねばならない」などの表現は、このように「取り戻す」の解釈に齟齬が生じた際などに用いるのがふさわしい表現であって、丸山氏の前述の用法は「誤解」という表現の恣意的な解釈だ。彼こそ「誤解」を誤解しているし、彼同様に「誤解」を誤用する政治家は枚挙に暇がない。そろそろ政治家が釈明に「誤解」とそれに類する表現を用いることを禁止する法律が必要かもしれない。


 更に、彼の「戦争しないとどうしようもない」という表現や、「戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか?反対ですか?」と問うことなどは、国家権力や政治家が遵守するべき憲法に反していると思える。日本国憲法は第9条で
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 
と、「紛争解決手段として戦争を用いない」ことを定めている。しかもこれは日本国憲法に限ったことでなく、おおよそ近代民主国家では同様の憲法か法律を定めている。
 例えば、市民から「戦争してでも島を取り戻せ」と言われ、それに対して「戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか?反対ですか?」と問うような場合はこの憲法の規定に反するとは言えないが、彼の場合は、明らかに彼が「戦争をしないと島は取り返せない(から戦争も手段として検討すべき)」というスタンスで言葉を発しており、寧ろ訪問団の団長の方がそれを否定している。
 彼は「賛成か反対かという口調でそこにいる人に聞いている。あたかも私がそう思っていて押しつけるかのような話は間違い」「北方領土を戦争で取られたわけですから、取り返すということに対して賛成か反対か聞いたと。別にそういう話があってもいいわけじゃないですか。それに対して何をダメだとおっしゃっているのかよくわからない」などと言っているが、どう見てもどう聞いても、彼は武力による現状変更を検討するべきというスタンスで話しているようにしか見えないし聞こえない。もし本当に彼が「賛成か反対かを聞いただけ」という認識で、あのようなやり取りをしているのだとしても、それこそ「誤解」されて当然の行為だ。そもそも政治家・国会議員というのは有権者に支持を訴え、支持を得て成立する立場であって、誤解される主張を繰り広げる時点で資質に欠けると言っても過言ではない。


 既にSNS上などで多くの人が主張していることだが、この件でよく分かったことは、

 丸山氏のような者が議員になり、最悪政権の座に就く恐れもあるので、やはり日本国憲法9条は必要


ということだ。
 一部の改憲論者は、日本国憲法は押し付け憲法だと言うが、彼らが改定に意欲的な9条は、多くの日本人が太平洋戦争に至る一連の戦争経験の中で、政府に家族を兵隊にとられ、空襲などで家や家族を失い、「戦争で将棋の駒のように扱われるのはもう沢山だ」と強烈に実感したことによって定められた、当時の日本国民の総意にも等しい内容なのではないだろうか。



 丸山氏は、昨日・5/13にメディアが一斉にこの件を報道したことを受けて、一転して
政治家という立場でありながら、不適切な発言だった。元島民に配慮を欠いた
心から謝罪し、撤回させていただく
と表明したそうだ(毎日新聞「維新・丸山議員「不適切」と謝罪 北方領土「戦争」発言」)。
 確かに誰にでも間違いはあるし、間違いに気付いたら謝罪することはとても大事なことだ。しかし、間違えた際に謝罪し発言を撤回したらそれで済むかと言えばそれは全く別の問題だ。彼は憲法を蔑ろにする主張、というか近代民主国家の基本である、紛争の解決に武力を用いないという大原則に反する主張を繰り広げたのだから、 その責任は重く、今後も政治活動を続ける意向なのだとしても、一度議員辞職した上で改めて次の選挙に臨むべきではないのか。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。