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フェイクニュース法規制の必要性と懸念


 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでは、昨日・5/8にいくつかのメディアが報じた、台湾で災害時に「フェイクニュース」を拡散する行為に、最高で無期懲役の刑を科すとした法律改正案が、5/7に議会で可決された事を取り上げていた。


 同番組は、通信社の配信記事やメディア他社の記事や報道を引用して事案を伝える事が多く、恐らくこの事案に関しても独自報道をしたのではないだろう。通常、このスクリーンショットのゲッティイメージズのロゴの部分に、配信/引用元の報道機関名を明記するのだが、この事案に関しては使用した画像を管理するゲッティイメージズのロゴになっている。その下に大きく掲示された見出しと、右上の見出しの文言が異なっているのだが、右上の見出し「フェイクニュース対策 厳罰化へ法改正案 権力介入の懸念も」は、毎日新聞の1/9の記事の見出しと全く同じだ。
 勿論たまたま一言一句違いのない見出しになった可能性がないとは言えないが、毎日記事の当該記事は、5/9現在「台湾 フェイクニュース」で検索すれば1ページ目に出てくる為、恐らく引用元を掲載せずに使用したのだろうと推測できる。あくまでも個人的な推測であって無断で使用したと断定はできないが、そのように見えてしまっていることには変わりがなく、同番組の無頓着さは残念でならない。


 この件に関して同番組では視聴者投票も行っており、

台湾のフェイクニュースに対する法規制についてどう思いますか?

  • いいと思う 1959pt
  • 厳しすぎると思う 264pt
  • 規制しなくていいと思う 261pt

という結果だった。
 この日のコメンテーターは慶応義塾大学特任准教授/プロデューサーの 若新 雄純さんと、アイドル/作家などとして活動しているちゃんもも◎さんだった。若新さんはこのフェイクニュース法規制について概ね肯定的な見解を示しつつも、最後に「制限の方法は慎重であるべき」と付け加え、全面的に肯定とすることへの不安も滲ませていたが、ちゃんもも◎さんは殆ど全面肯定の見解を示していた。番組は毎日新聞の1/7の記事の見出し「フェイクニュース対策 厳罰化へ法改正案 権力介入の懸念も」を使用したにもかかわらず、「権力介入の懸念も」の部分について殆ど説明がなかったことも残念だった。


 同様の法案が、台湾に先駆けて3/13にロシアで、マレーシアでも3/29に可決されているし、台湾で法案が可決された翌日の5/8にはシンガポールでも同様の法が成立したそうだ。
これらの記事がメディア報道の全てではないが、これらの見出しからも分かるように、メディアだけでなく一部政治勢力からも、フェイクニュースの法規制について権力による濫への懸念が示されていることが分かる。
 これは、日本で直近に議論がなされたマンガ海賊サイト対策を巡るブロッキングやダウンロード違法化などの規制案への懸念も同様だ。確かに、海賊サイトにしろフェイクニュースにしろ、現状の問題を解決する為には何かしらの方策が必要であることに違いないが、問題のないものまで規制出来てしまうような法を定めてしまうと、それを権力が恣意的に用いる恐れがある。その最たる例がヒトラーとナチス政権だ。彼らは、第一次世界大戦敗北に端を発したドイツ革命によって制定された、当時世界で最も民主的な憲法とされたワイマール憲法の、第48条「国家緊急権」を利用して基本的人権を停止し、対立する政治勢力の議員の逮捕などを行った。そしてその状況下で悪名高い全権委任法を成立させ、ワイマール憲法自体を無効化してしまった。
 著作権対策の為のブロッキングにしろダウンロード違法化にしろ、フェイクニュース規制法にしろ、好ましい権力が適切に用いるのなら何も問題はない、というか寧ろ有効だろう。しかし、全ての権力が必ずしも好ましい振舞いをするかと言えば絶対にそんなことはない。このような事を書くと、現政権の積極支持者らは「現政権が問題のある法の運用を行うとは思えない」などと言いそうだが、問題は現政権だけに留まらない。法律というのは一旦成立させてしまえば、政権が変っても廃案が提起され可決されない限りその効力が続く。つまり常に好ましい権力・政権が続くとは間違っても言えないので、権力による濫用に対する抑止力を持たない強行な法規制というのは、確実に濫用される危険性を孕んでいると言える。それとも積極支持者らは未来永劫現政権が続くと思っているのだろうか。もしそうなのだとしたら、彼らは北朝鮮や中国のような政治体制を望んでいることになる。


 台湾で災害時に「フェイクニュース」を拡散する行為に、最高で無期懲役の刑を科すとした法律改正案が、5/7に議会で可決されたことについて、NHKは「災害時のフェイクニュースで無期懲役も 台湾で法律改正案可決」と報じた。


 リンク先やスクリーンショットを見てもらえれば分かるように、記事には権力がフェイクニュース規制を濫用する恐れについての記述は一切ない。これはTBSニュースの記事も同様だ。どちらのニュース記事でも、台湾でこの法規制が検討された大きな要因である、2018年9月、台風の影響で関西空港が閉鎖された際に、台湾への旅行者への対応が悪かったという偽の情報が広がり、批判を受けた台湾の外交官が自殺した事へ主に言及している。NHKはその件について、3/4のクローズアップ現代+でも「“フェイクニュース”暴走の果てに ~ある外交官の死~」と題して取り上げていた。

 自分は中国語の読み書きも出来ない。台湾で可決された法案の原文を読んだわけでもない。NHKのニュースによると、デマ・事実ではない情報を災害に関連して拡散させ、第三者が大けがをした場合は10年以下の懲役、死者が出た場合は最高で無期懲役が科されるそうだが、デマ・事実かどうかの認定は果たして誰が行うのか、デマによって第三者が大けがをしたかどうか、死者が出たかどうかの認定は誰が行うのか、自死の場合はデマによる死者に該当するのかなど、不明瞭な点が多く感じられる。法案の原文にはそれがしっかり明記されており、だからNHKもTBSも濫用への懸念を示していないとも考えられるが、そうではなく、外交官が自殺に追い込まれたのだから厳罰化は当然だ!のようなイメージだけで報道している懸念もある。昨今のメディア各社の報道を見ていると「そんな恐れは概ねない」なんて間違っても言えない。
 ロシアやマレーシア、シンガポールのフェイクニュース規制に対しては、権力による濫用の懸念が示されているのに、台湾の件の報道に関しては権力による濫用の恐れについて一切触れられていないのは不可解だ。他地域でのフェイクニュース規制についてはその懸念が漏れなく示されているのだから、台湾の立法院が妥当性のある濫用抑止策を盛り込んでいるのなら、それに触れても良さそうなものだ。

 MXテレビ・モーニングCROSSでの、ちゃんもも◎さんの全面肯定的なコメントや、同番組での視聴者投票結果にも、イメージ重視でフェイクニュース規制を肯定しているような側面を感じた。しかし、この手の規制には慎重に臨まなければならないと考える。権力の性善性を過度に期待してはならない。程度に差はあれど、どんな権力も漏れなく嘘をつくということを決して忘れてはならない

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