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大統領の差別的ツイートを運営は「問題なし」としたが…

Photo by Sara Kurfeß on Unsplash

 トランプ米大統領のツイートが人種差別的だと指摘を受けている。彼は7/14に
 興味深いことがあります。いわゆる“進歩的“な民主党の女性議員たちはもともと、政府が完全に崩壊していて、最悪で、腐敗していて、世界中のどこにあっても機能しない国の出身です。(もしそれが政府と言えるならの話ですが…)
 そんな議員たちが、地球上で最も偉大で最も強力な国家であるアメリカ合衆国の人々に、私たちの政権運営への悪口を吹聴しています。なぜ彼女たちは政府が崩壊して犯罪が蔓延している出身地に戻って、手助けしないのでしょう?元ツイート/和訳:ハフポスト「「露骨な人種差別だ」 トランプ大統領から“国に帰れ”と言われた女性議員らが会見で非難」より)
などとツイートしており、特に懸念が示されているのは、一部の民主党女性議員らに「もとの国に帰れ」と言っている部分である。


 この大統領のツイートに対して米国議会・下院は、「大統領の主張は人種差別的だ」とする批判決議を7/17に可決した(BBC「米下院、トランプ氏非難決議を可決  「発言は人種差別的」」)。
 しかし一方で、CNNは7/15に
 Twitter says Trump's racist tweets don't break its rules
という、「ツイッター社、トランプの差別的なツイートは利用規約に反していないと表明」という意味の見出しで記事を掲載している。残念ながら当該記事の日本語版は見当たらなかったが、ITmediaがこの事を取り上げた記事「Twitter、トランプ大統領の「国に帰ったらどうか」ツイートを“ラベル付き非表示”にせず」を掲載している。
 「ラベル付き非表示」とは、同記事の中でも触れられているように、ツイッターが6/27に示した方針
 利用ルールに違反していても、著名人のツイートなど、公共の利益にかなうという理由でツイートをラベル付きで残す(但しクリックによって内容を表示する、つまり非表示状態で残す)場合もある
を意味している。この方針についてもITmediaは「Twitter、ルール違反でも公益のある著名人ツイートはラベル付きで残すように」という記事で伝えている。

 しかしツイッター社は、今回のトランプ氏のツイートに関してルールに反していないと判断した、つまり当該ツイートの削除もラベル付き非表示も、勿論アカウントの凍結や削除も行わないということだ。この判断は余りにも残念である。


 このような判断をツイッター社が行えば、今後「元の国へ帰れ」「アメリカから出ていけ」のようなツイートが横行しかねないのではないだろうか。先日女子サッカーW杯でアメリカが優勝したが、ミーガン ラピノー選手は、不寛容な態度を示すことも多いトランプ氏を念頭に、「ホワイトハウスなんか行かない」と表明したところ(ハフポスト「ミーガン・ラピノー「私たちのチームにはいろんな人間がいる」 W杯優勝パレードで披露した女子サッカーキャプテンのスピーチが超アツい」)、日本のプロ野球チームに所属しているアメリカ人選手が「そんなにアメリカが嫌いなら、出てけ!誰も止めやしない」などとツイートして批判を浴び、当該選手や所属チームが謝罪する事態に発展した(ハフポスト「「そんなにアメリカが嫌いなら、出てけ!」プロ野球・ソフトバンクのサファテ選手が暴言 何があった?」)。
 アメリカにどのような法規定があるのかはよく知らないが、少なくとも日本では、2016年に所謂ヘイトスピーチ解消法(Wikipedia:本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が成立しており、法務省の「ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動」というページでも、ヘイトスピーチに該当する例として、
(1)特定の民族や国籍の人々を,合理的な理由なく,一律に排除・排斥することをあおり立てるもの(「○○人は出て行け」,「祖国へ帰れ」など
が挙げられている。
 このような書き方だと、「特定の民族や国籍が対象でないなら、出ていけ/国へ帰れ、と言っても問題ない」とか、「国を侮辱したのだからそれは合理的な理由に該当する」なんて言いだす者もいるのだろうが、特定の民族や国籍を対象としなくても、個人の尊厳を棄損するような事を言ってはならないのは大前提だ。また「国を侮辱した」という話も妥当性は低い。何故なら、民主主義国家において国とは、国の指導者でも国旗でも国家でもない。国の主権者が市民であるなら、指導者の方針への批判や異論を唱えることは「国を侮辱する」とイコールではない。
 そんな観点で考えてもツイッター社の判断には全く賛同出来ないし、寧ろ不可解だ。最悪ツイッター社は差別を容認していると言われかねないのではないだろうか。


 また、ツイッター社や、その他のSNS運営者が「ルールに反していない」という見解を示したとしても、社会全般において問題がないことが証明されたとは限らない。サイエンスライターの片瀬 久美子さんは、7/17に次のようにツイートしている。


つまり、ツイッター社が「ルール違反でない」と判断した場合でも、裁判所が中傷と認定し損害賠償の必要性が認められる場合がある。片瀬さんだけに限らず同様のケースは他にも複数ある。

 例えば、昨夜のTBS・News23の街頭インタビュー・異論反論オブジェクションのテーマは「あなたは憲法改正についてどのくらい重視して(7/21投開票の参院選に)投票しますか?」だったのだが、その中に
 改正っていったら軍事とかでてくるけど、日本の国はあまりにも無さすぎ。そうするとバカにされるじゃない?いろんな国から。

と言っている女性がいた。
 日本の防衛費、つまり軍事予算は、アメリカの軍事力評価機関・Global Firepowerが公表した2019 Military Strength Ranking(世界の国別軍事力ランキング 2019年版)によれば、世界で6位である。休戦状態ではあるが北朝鮮と戦争継続中の韓国や、紛争の多い中東諸国よりも上だ。しかも日本の防衛費は増額傾向にある。防衛費には人件費も含まれるが、日本の賃金はこの数年殆ど上がっていない。それでも「日本は軍備がなさすぎ」と本当に言えるだろうか。率直に言って、この女性の認識が妥当とは言えない。場合によっては嘘とさえ言えるかもしれない。
 彼女がもし同様の主張をツイッターに投稿したとしても、概ね真実とは言い難い内容だが、ツイッター社は「利用ルールに反しない」と判断するだろう。しかし前述のような理由から、彼女の主張には合理性が欠けていることはほぼ間違いない。つまり、ツイッター社に限らず、SNS運営企業は「表現の自由」を理由に、嘘や中傷であっても「利用ルールに反さない」という判断を下す場合がしばしばある。


 確かにネットはある種の言論空間でもあり「表現の自由」を軽視してはならない。しかし、現状のネット/SNSでは、自由を恣意的に解釈し、他者の権利や尊厳を棄損する言説や中傷が横行しているのも事実である。確かに自由を軽視してはならないが、運営者は同時に秩序を維持する必要性もある。ネット、特にSNSがこれ程インフラ的な役割を果たしているのだから、性善説に頼らず、もう少し利用者/利用方法に介入して秩序が維持されるように努める必要性があるのではないだろうか。
 兎にも角にも、ツイッター社が示したトランプ氏の「国へ帰れ」というツイートは利用ルールに反さないという判断は、あまりにも残念過ぎた。

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