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最近欠陥に対して緩くなってない?

 シボレーが1960年モデルとして販売を始めたコルベアというクルマがある。最初のウルトラマンの科学特捜隊専用車にも使われたことでも知られる車種だ。コルベアは全長4.5m/排気量2.4L前後というサイズのコンパクトカーだった。 アメ車のコンパクトカーと言うと、日本車へ対抗する為のモデルのような印象があるだろうが、当時はまだ日本車に勢いはなく、コルベアはフォルクスワーゲンなど大衆向け欧州輸入車への対抗策だった。


 コルベアは、ビートルや356と同様に、空冷水平対向エンジンをリアに搭載するRR(リアエンジン後輪駆動)を採用していた。フォルクスワーゲンタイプI・所謂ビートルや、同じくフェルディナンド ポルシェが設計したコンパクトなスポーツクーペで、ビートルと似たコンポーネントを持つポルシェ 356を強く意識したことが窺える。スタイリングはビートルから派生したフォルクスワーゲン タイプ3やトライアンフ 2000、日野コンテッサなどと似ているが、リリースはコルベアが最も早い。
 コルベアは、ラルフ ネーダーに操安性の欠陥を指摘されたことによって、自動車のみならず、欠陥品の象徴のような扱いをしばしばされる。コルベアが果たして本当に欠陥車だったのか、については様々な見解があり(シボレー・コルヴェア#批判 - Wikipedia)、アメリカ人がリアエンジン車の操縦特性をよく知らなかっただけで欠陥車ではなかった、のような話もあるが、コルベアが欠陥車/欠格商品の代名詞のような存在になっていることは紛れもない事実だ。

 1990年代までは、欠陥商品は一度世に出すと取り返しがつかなかった。その頃までの欠陥は主にハードウェア上の欠陥であり、欠陥を残したまま商品を世に出すと、回収や交換に莫大な費用がかかった。費用面でのリスクのみならず、物理的回収や交換はひっそりとやる訳にもいかないので、欠陥品をリリースしたことが世の中に周知されることになり、少なからずブランドイメージにマイナスの効果が発生する。それを恐れてひっそりと回収や交換をやろうとして、結局バレて大変なことになったのが三菱自動車のリコール隠しである。
 余談ではあるが、三菱自動車のリコール隠し発覚以前に知り合いが三菱の軽を買って、ある日突然ハンドルが全く効かなくなった。ディーラーにもっていくと欠陥だったと認め、「好きなクルマと交換する」という話になり、当時大人気且つ三菱で最も高額な部類のモデルだったパジェロを、その友人は手に入れた。

 先日アップルがiPadなどの新機種発表とiOSの新バージョンを発表し提供を開始したのだが、リリースされたばかりのiOS新バージョンのバグがすぐさま発覚した。新たに追加された、アップル純正のWebブラウザ・Safariからサードパーティー製の別のブラウザなどへ、デフォルトアプリを変更機能に、再起動すると設定内容が元に戻ってしまうという不具合があったのだ。

iOS 14新機能のデフォルトアプリ変更に再起動すると設定が元に戻るバグ発覚 - GIGAZINE

 よくもそんな初歩的な不具合を確認もせずに新バージョンの正式版としてリリース出来たものだ。新機能を試したい人向けの評価版でこの種の不具合が発覚するなら話は分かるが、正式版としてリリースしたものにこんなレベルの不具合があるなんて、ハッキリ言って正式版と偽って、評価版レベルのソフトウェアを消費者/顧客にテストをさせているようなものだ。
 PCやスマートフォンのソフトウェアなどでは、この種のバグが発覚するのは日常茶飯事で、世界一のシェアを誇るWindowsもそんなことが横行している。だからPCやスマートフォンのOSアップデートをするタイミングに悩む。深刻な脆弱性が発見されたという話と、新バージョンが常に不具合を抱えており、場合によってはその不具合も深刻な状況を引き起こしかねない、ということを、情報収集しバランスを勘案してOSをアップデートしなくてはならない。無料で提供されているならまだしも、商品として提供されているのだからもう少しなんとかならないのだろうか。

 なぜソフトウェア業界は平気でバグを残したバージョンをリリースできてしまうのか。ネットが普及する以前はソフトウェアも、磁気ディスクや光学ディスクなどの物理メディアで提供されていた。欠陥を残したままリリースするとハードウェアの不具合と同様に修正コストがかかった。しかしネット経由での修正が可能になると、そのコストは劇的に圧縮され、ハードウェアを破壊しかねないような致命的欠陥、ハードウェアを暴走させ事故を起こす引き金になるようなバグ以外への対応が緩くなっているように思う。「ダメでもすぐに修正できるからとりあえずリリースしちゃおう、バグとりはアーリーアダプターにアウトソーシングすればコストもかからないし」的な考えで。

 ここからは少し飛躍している恐れもあるが、そのような欠陥に緩い風潮が、政治家や政党の欠陥にも緩い風潮に繋がっているのではないか?と感じる。但し、ソフトウェア業界が欠陥に緩いのは何も日本に限った話ではなく世界的傾向だ。だが日本ほど有権者の政治意識が低く、政治や政党の欠陥に緩い国もあまりない。だとすればその仮説は無理があるのではないか、という風にも考えられる。しかし幾つかの国では、極右と呼ばれる差別的な政治集団が相応の支持を獲得したり、英国がEU離脱を決めたり、アメリカがトランプを、フィリピンがドゥテルテを、ブラジルがボルソナロを選ぶなど、「ダメでもすぐに修正できるから、とりあえず選んでみよう」みたいな感覚で所謂ヤバイ政治家が選ばれている、と言える部分は日本以外にも見られる。

 日本以外でも同じ事ではあるが、日本人は特に、欠陥に厳しくなった方がいい。日本製の優位性はその品質にあったはずだが、今のままだと、品質に関する日本の優位性も覆されてしまうかもしれない。


 トップ画像は、Photo by Sean Stratton on Unsplash を加工して使用した。

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