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ツバルやキリバスよりも危うい国

 奥田 民雄さんがボーカルを担当していたことで知られ、1993年に解散したものの2009年に再結成を果たし活動を再開したバンド・ユニコーンの、1990年リリースのアルバム・ケダモノの嵐に収録されている「フーガ」という曲の歌い出しは、「枯れ葉舞い散る9月の宵」である。その頃の9月の日本で本当に枯れ葉が既に落ちていたかは定かでないが、当時9月と言えば、特に後半は間違いなく秋だった。


 だが近年は、北海道の一部を除けば日本の9月に枯れ葉のイメージは全くないし、9月はまだまだ残暑の季節であり、季節を先取りするファッション業界等を除けば、秋という感じは全くない。数十年単位で温暖化を感じるようなことは非常に恐ろしい。

これはNASAが2016年に公開した、北極の氷の面積の変遷をタイムラプス化した映像だ。1分15秒くらいから1990年代が始まり、2000年代以降夏季に異様に面積が減少する傾向を目の当たりにすることができる。
 極地の海氷だけでなく、各地の氷河も減少が続いているそうで、それには少なからず平均気温の上昇も原因になっている(氷河融解 - Wikipedia)。グリーンランドと南極大陸の氷床が全て融解すると海面は80m上昇するとされており、太平洋上の小さな島国・ツバルやキリバスなどは、海面上昇の影響を強く受けると推測されている。

 しかし現在の日本において、温暖化や極地の海氷や氷河の融解以上に深刻で、もしかするとツバルやキリバスが国の存続にかかわる影響を受けるよりも前に、国、というか民主主義国としての存続にかかわる深刻な影響が出かねないのが、政治家の誠実さの崩壊とメディア倫理の融解だ。
と 今朝、東京新聞労働組合のアカウントが、

とツイートしていた。
 恐らくこれは、昨日行われた菅 現官房長官による、自民党総裁選立候補の会見を念頭に置いたツイートだろう。東京新聞労組の言っていることはまさにその通りだと思う反面、そんな先進国とは言えない状況を許し常態化させたのは、東京新聞を含む官邸記者クラブ所属メディアとその記者らではないのか、という思いも湧いてきた。但し、東京新聞労組のように自分達が所属するメディアや業界の不備を指摘できるのは、今やそれだけでマシと言える状況である。昨年までは頻繁に「NHKは、メディアは、」と一括りにして批判するのは妥当でない。NHKにも、そして既存メディアにも、誠実な記者はいる、という擁護を耳にしたが、今年に入って以降その種の主張は殆ど聞こえなくなった。既存メディアの様子を見ていたら、流石にもうそんな擁護もできない筈だ。そもそも、所属組織/業界の不誠実を正すどころか、指摘も批判すらもできない記者は決してまともとは言えない。
 倫理観が融解しているのはメディアだけではない。政治に無関心で、不誠実なメディアの姿勢を真に受けて、選挙の度に、ゆるフワに何度も安倍自民党政権を容認してきた有権者の約半分も同様だ。

 昨日は菅以外にも、石破/岸田氏らも総裁選立候補の記者会見を行った(石破氏「民主主義、正しく実現」 総裁選立候補を表明 [安倍首相辞任へ]:朝日新聞デジタル)。だがメディアが取り上げているのは菅ばかりで石破の扱いは確実に少ない。明らかにバランス感覚に欠けている。
 例えば、菅の会見をYoutubeでライブ中継したり、ノーカット版を掲載したメディアは複数あり、ざっと確認しただけでテレビ東京、フジテレビ、TBS、朝日新聞、産経新聞がヒットした。テレビ東京、フジテレビ、TBS、朝日新聞は、菅の会見だけでなく、石破/岸田氏の会見もライブ中継/ノーカット版掲載をしているが、産経新聞だけは菅の会見しか掲載していない。

例えば、小規模メディアやフリーランス記者などなら、全ての会見を扱うことは難しいかもしれない。しかし産経新聞は各種記者クラブにも名を連ねている全国紙である。なのに菅の会見しか掲載しないというのは、明らかにバランスを欠いている。

 また比較的リベラルな論調であるハフポストの

菅義偉氏は高校卒業後、板橋の段ボール工場で働いていた。「令和おじさん」の知られざる青春 | ハフポスト

という記事にも強い違和を感じる。
 ハフポストは菅だけ個人にフォーカスした記事を掲載しているわけではなく、石破氏や岸田氏についても、

という記事を掲載しており、表面上は妥当なバランス感覚を有しているように見える。しかし、石破氏と岸田氏の記事が政治家としての個人に注目しているのに対して、菅の記事だけは、苦労した政治家以前の菅を強調しており、見出しにもそれが強く滲んでいる。記者がどんな意図で記事を書いたのかは定かでないが、なぜ政治家の政治家以外の部分を、特に若い頃苦労しました的な部分をクローズアップして紹介するのか。他の立候補に関しても同様に書くならまだしも、なぜ菅に関してだけそんな記事を掲載したのか理解に苦しむ。
 嘘に塗れ、都合の悪いことには答えず、詰められると、答えていないのに「先ほどもお答えしましたように」として言い逃れようとする官房長官だった、というか現在進行形の官房長官であるというだけで、菅がどんな人生を歩んできたとしても、それ以外の政治的経歴も、全て帳消しになるとしか思えない。現在の官房長官としての菅の不都合に全く触れずに、過去の苦労ばかりに注目した記事には何の価値もない。

 菅は総裁選立候補表明会見の中で、

この国難にあって、政治の空白は許されません

と述べたが、その台詞は内閣官房長官として国会招集要求に答えてからでなれば、説得力が全くない。議員の支持は菅が圧倒的に高いそうだが、自民議員のはそんなことも分からない、言い換えれば筋を通すよりも自分の議席や出世にしか興味がない者の集団なのだろう。

 メディアと有権者が変われば政治/政府は変わる。別の言い方をすれば、民主的なシステムで選ばれる政治家/政府の振る舞いは、その国の有権者のレベルそのものだ。このままでは、ツバルやキリバスが温暖化/海面上昇の影響で国として機能不全に陥るよりも先に、日本の民主主義が機能不全を起こすだろう。

 トップ画像は、Photo by Joseph Vary on Unsplash を使用した。

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