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暗黒の1930年代に逆戻り

 日本人なら、大正デモクラシーについて細かくは知らなくても、その言葉くらいは聞いたことがあるだろう。大正デモクラシーとは、日本で1910-20年代に起きた、民主主義的な発展、自由主義的な運動・風潮の高まりのことを指す。大正元年が1912年であり、丁度大正期と重なることからそのように呼ばれる。

いつまでが大正デモクラシーだったか、については、治安維持法が制定されるまで、つまり1925年(大正14年)までとする人もいれば、満州事変まで、つまり1931年(昭和6年)までとする人もいる。確かに、治安維持法制定は大正デモクラシーの陰りを感じさせる出来事ではあるが、その後も

  • 1927年(昭和2年)立憲民政党結党
  • 1928年 初の男子普通選挙
  • 1929年 濱口雄幸内閣成立
  • 1930年 ロンドン海軍軍縮条約可決

などの出来事がある為、個人的には概ね1920年代までが大正デモクラシーの期間と考える。つまり、大正デモクラシーとは言うが、昭和最初期もまだその空気が社会にはあった、ということだ。
 その後の1930年代は、1937年の日中戦争、1941年の太平洋戦争に向って暗黒の時代になっていく。そんな方向に国が向ってしまった要因は、1929年のアメリカ・ウォール街に端を発する世界恐慌の煽りを受けて、日本でも昭和恐慌に陥ったことにもありそうだが、軍縮に対して軍部や右派が反発したことをきっかけに、統帥権を背景に強権化していったことも大きい。


 昨日・3/13は、石川県知事選の投開票日だった。自民党の元国会議員2人と石川県の県庁所在自治体・金沢市長が争う、保守分裂選挙だった。自民党県連は元参院議員の山田 修路を支持としつつ自主投票としたが、当選を果たしたのは元文部科学相の馳 浩だった。馳は元首相の安倍や菅に支援され、維新が推薦する体制だった。一方で山田 修路は、立憲民政党県連や社民党県連の推薦・支援するという体制だった。

石川知事に馳氏初当選 保守3分裂、28年ぶり交代:時事ドットコム

 そもそも、国政がこの状態で、自民系の政治家三つ巴の選挙という時点で残念感が漂っていたのに、よりにもよって、安倍や菅、維新が支援する馳が当選するなんて、最も残念な結果に終わったという感しかない。馳は元プロレスラーで知名度が高いが、2009年には衆議院で、新しい歴史教科書をつくる会の ”新編 新しい歴史教科書” について、「改正教育基本法を生かした唯一の教科書だ」と述べている。文科大臣だった2015年には、代表を務めていた政党支部への違法献金が発覚、2016年には岐阜大学が卒業式で国歌斉唱しないことについて、文科大臣の立場で「恥ずかしい」などと発言している。神道政治連盟国会議員懇談会・みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会・親学推進議員連盟などの議連に所属している、と説明すれば、安倍や菅、維新が支援することと合わせて、どのような人物かがよく分かるだろう。

 昨年・2021年11月の衆院選で維新が議席数を増やしたことと、今回の石川県知事選の結果、そして2012年以降、安倍のようなのが首相の座にあり続け、その後も菅・岸田と自民政権が続いていること、安倍や維新が核共有だの核保有だのと騒いでいること、敵基地攻撃能力と称して先制攻撃を正当化しようとしていること、岸田もそれらについてまんざらでもない態度であること、そんなことから考えると、当時とは変化のスピードが違うだけで、1930年代の再現が起きているような気がしてならない。
 幸いなことに、日本は80年前の失敗を受けて、憲法9条で明確に戦争や武力による紛争解決を否定していて、自衛隊はあるものの、軍隊は一応存在していないことになっている。だから1930年代のような急速な軍国化は現在起きていないが、もし9条がなかったら、自衛隊が自衛隊ではなく軍隊だったらどうなっていただろうか。だから今日のトップ画像は「1930年代に逆戻り」とした。

 脳科学者の茂木 健一郎がこんなツイートをしている。

 率直に言って、バカな人だという感しかない。彼はもし「歴史は確かに大切だが、暇な時に数時間通史を読めば済む話」と言われたら、どんな反応をするだろう。こうやって歴史を軽んじた結果が今の日本だ。むしろ、歴史をちゃんと学ばないから歴史を曲解するんだろうし、アホなことを言い出すんだろう。脳科学者を名乗っているのに、思考回路は一体どうなっている?

 この投稿の冒頭で、”日本人なら、大正デモクラシーについて細かくは知らなくても、その言葉くらいは聞いたことがあるだろう” と書いた。日本人なら義務教育の間に恐らく2回、小学校と中学校で日本史を習う。だが、近現代史は端折られがちで、大正デモクラシーもそんなに詳しくはやらない。少なくとも自分は小中学校の歴史で詳しく学んだ記憶はない。高校の近現代史でやっと詳しく学んだと記憶している。小学校では週3時間程度、中学校では週4時間程度、1年かけて日本史を習う。中学校では別の学年で、1年かけて世界史も習う。殆どの日本人は高校にも進学するから、高校でもまた1年かけて日本史や世界史、場合によっては近現代史だけで1年かけて習う人もいるだろう。大学の一般教養科目にも大抵歴史系の科目があるので、大学に行けば更に歴史を学ぶことになるかもしれない。
 義務教育だけに限定しても、少なくとも約3年間かけて歴史を学ぶことになる。それは果たして歴史過剰なのか?そんなことはせずに、暇な時に通史を数時間読めばOKなのか?どう考えても茂木の言っていることはおかしい。浅はかとしか言いようがない。そもそも、数時間○○見れば済む、なんて学問はない

 茂木に限らないが、こんな風に極端なことを言う人を、メディアがもてはやして有識者扱いし、専門外のことにまでコメントさせている状況が確実にある。場合によっては、芸人など、そもそも何も専門的に研究したりしていない人を、極端なことを言う、というだけで重宝していることすらある。


 歴史をしっかりと学ばずに、過去の失敗を省みなければ、このまま日本における暗黒の1930年代の再現はどんどん進んでしまうだろう



 トップ画像には、暗雲の国会議事堂(モノクロ) - No: 23299549|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK を使用した。

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