実質的に日本の首相を選ぶことになる、自民党総裁選の結果が今日判明する。自民党の総裁選なので当然と言えば当然だが、実質的に首相を選らぶと言っても多くの国民には投票の権利はなく、自民党の国会議員と党員の投票だけで決まる。選挙制度については時事通信が解説記事を掲載しているので、詳しくはそちらを参照して欲しい。
今日投票が行われるのは国会議員の票だけで、党員票は既に昨日投票が締め切られている。なのに何故か昨日、立候補している2人が、安倍氏は秋葉原、石破氏は渋谷と街頭で最後のお願いたる演説を行ったそうだ。これは一体誰に向けた最後のお願いなのだろうか。一般国民ははなから投票権などないし、一般党員についてもこの日が投票日だった。しかし演説は夕方以降も行われていたようで、なんで翌日に投票する国会議員票の為にわざわざ街頭演説する必要があるのか不思議だ。勿論総裁選の為だけに演説を行ったわけではないだろうが、このタイミングでそれぞれの陣営の総力を結集した演説会を開くなんてのは、個人的にはパフォーマンス染みているとしか思えなかった。
昨日行われた安倍氏の演説会で気になる点が1つあった。実際は1点でなく幾つもあるのだが、それらは今に始まったことではないし、既に
- 自民総裁選からに滲み出るキナ臭さ(8/26)
- 期待に欠ける2人の総裁候補(9/11)
- 報ステ・News23での、自民総裁候補2人の討論を見て思う(9/18)
昨日の演説会で何が気になったのかと言えば、読売新聞などが報じている「「冷や飯食う覚悟を」麻生氏、石破氏側を批判」についてだ。この話は、石破氏を支持する斎藤農水相が9/14に
私はある安倍応援団の1人に言われました。『斎藤よ、内閣にいるんだろ。石破さんを応援するんだったら辞表を書いてからやれ』と発言したこと(TBSニュースの記事)から概ね始まる。それ以前にも関連する事案はあるが、今回はここから説明することにする。要するに、斎藤氏は総裁選に関して、党内で不当な圧力を受けたと主張している。これについて安倍氏は、9/17に放送されたテレビ朝日・報道ステーションでの石破氏との討論の中で、
本当にそういう出来事があったのかどうかね。陣営に聞いたんですよ。『知ってる?』って。皆、『そんなことあるはずない』と大変、怒ってました。もし、そういう人がいるのであれば、名前を言ってもらいたいんですねと反論した(テレビ朝日の記事)。しかしそのテレビ朝日の記事では、安倍氏を支持する中堅議員が「『辞表書けよ』の何が悪い?私は言ってないけど…。総裁選は次の総理大臣を選ぶんだから、内閣の一員で安倍総理を支持できないというなら辞める覚悟を持って臨むべきだ」と話したとも書かれており、安倍氏の主張の整合性に疑問を呈していたし、自分も、以前に首相自身が「現職がいるのに総裁選に出るというのは、現職に辞めろと迫るのと同じだ」(産経新聞の記事)などと発言していることを思い出し、同様の疑念を感じていた。その疑念は間髪入れずに深まることになるのだが、その理由は翌18日の麻生氏の発言だった。
ロイターの記事「麻生氏、農相への辞任圧力を擁護」によると、麻生氏は18日、閣議後の記者会見で、
現職がいなくなった後の総裁選と、現職がいるときじゃ意味が違うだろうがなどと述べ、閣僚が首相の対立候補を支援するのは不適切との考えを示したそうだ。奇妙なことに、安倍氏が否定したはずの斎藤氏の主張と、麻生氏の主張は内容がほぼ合致する。確かに、麻生氏がこのような見解を示したからと言って、斎藤氏に直接その見解をぶつけて圧力をかけたとは限らない。しかし、ロイターが付けた見出しの通り、麻生氏が斎藤氏への圧力を擁護・少なくとも容認していることだけは確かなようで、それだけで安倍氏の「皆、『そんなことあるはずない』と大変、怒ってました。」という主張の信憑性はかなり低くなる。ただこの時点では、もしかしたら安倍氏が斎藤氏の主張について周辺に確認した時は麻生氏は沈黙しており、この会見で突如本音を示し始めた可能性がないとは言えないとも考えた。
今回は(現職総裁が)いてやるわけだから。現職の閣僚が出るというときは、どういうことになるかという話を根本に据えておかないと(いけない)
しかし、昨日の演説会でその可能性が殆どないことを再確認させられた。秋葉原での安倍氏の演説会には麻生氏も登壇しており、読売新聞の記事によると麻生氏は、
冷や飯を食うぐらいの覚悟を持って戦って当たり前だ。そういう覚悟のない人に、日本のかじ取りを任せるわけにはいかないと述べたそうだ。これについて安倍氏が諫めたという報道は皆目見当たらないので、安倍氏はこの麻生氏の発言について、報道ステーションの討論であのように言っていたにもかかわらず、全く違和感を感じなかったのだろう。「冷や飯を食う」という表現を麻生氏はどのように理解しているのだろうか。一般的に「冷や飯を食わされる」とは冷遇されることを意味する。場合によっては”不当に”冷遇されるというニュアンスを帯びる表現だが、受けても仕方ない冷たい扱いを受ける、というニュアンスではほぼ用いられない。要するに、麻生氏の発言十中八九圧力に該当する。なぜなら麻生氏は大した権力もない新米議員ではなく、副首相という大きな権力を有する立場にいるからだ。
勿論、選挙で別の人間を支持した者がある程度冷遇されるのは、麻生氏の言う通り仕方のない、と言うか当然の成り行きでもある。しかしそれを、一国の副首相が堂々と宣言するのは適切か?やっていることが独裁政権・ファシズム染みてやしないか?と自分は感じてしまう。この件以外にもセクハラ被害を訴える者に鞭打つような発言をしたり、事実誤認に基づくメディア批判を繰り広げ、謝罪撤回も太々しい態度には変化がなかったり、常にふんぞり返るような態度を恥ずかしげもなく示す麻生氏は、自分には権力に溺れたパワハラ野郎にしか見えない。
一体安倍氏は麻生氏をどのように評価しているのだろうか。数日前の討論会で、自身だけでなく陣営全体の斎藤氏への圧力を全面的に否定したにも関わらず、自分のすぐ目前で前段のような主張をされても平気なのはどんな感覚なのだろうか。理解に苦しむ。
安倍氏の発言に信憑性がないのは今に始まったことではないので、今回の件でびっくり仰天したということもないし、数々の不適切な発言、自衛隊の日報隠蔽を防げなかった(というか実際は関与していたのだろうが)稲田氏防衛大臣任命や、財務省での公文書改ざんの首謀者とされた佐川氏の国税庁長官任命について「適材適所」と頑なに言い張り、今も尚その姿勢を改めていないので、彼は人を見る目に著しく欠けていることは既知の事実で、麻生氏をどう考えているかについても今更感しかない。だが、こんなにも整合性を欠く発言を堂々としている人物が、自分の住む国のトップをこれから最長3年も務めるのかと思うと、憂鬱な気分にならずにはいられない。