朝日新聞の記事「勤務間休息は「8~12時間」に 厚労省検討委が報告書」によると、
仕事を終えてから次に働き始めるまでに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」について、厚生労働省の有識者検討会は4日、休息時間を「8~12時間」と例示するなどした報告書をまとめた。そうだ。ハッキリ言って、勤務間のインターバルが最低8時間などザルとしか言いようがない。通勤出勤に1時間ずつで計2時間、食事・就寝準備・出勤準備は少なくとも計1時間半は必要。3時間半を省いたら睡眠に当てられるのは5時間以下。しかもすぐに寝つけたとしても4時間半だ。人間は脳を半分ずつ休められる野生動物か何かだと勘違いしているんじゃないだろうか。
記事によれば、「労働者の睡眠時間や通勤時間などに考慮することが重要だと指摘した」そうで、つまり最低が8時間ということであって、それでは適切な休息時間を確保できない場合もあるから状況に合わせられるよう8-12時間としたということなのだろう。しかし、現状の労働環境を勘案すれば、最低を8時間と規定したら雇用主が最低のインターバル時間しか与えないことを、あの手この手で正当化しようとするだろうということが強く懸念される。勿論他に条件を厳しく定めればそのような事は防げるかもしれないが、その詳細を検討する前にまず時間の設定をするという事に強い違和感を感じる。
記事には、
厚労省の担当者は「望ましい時間数を一律に決めることで(各企業の)労使の取り組みの工夫を制約してしまってはいけない」と複数の時間を挙げた理由を説明とある。厚労省の役人が如何に社会一般の労働環境の酷さを理解していないかが分かる。それを分かった上で、そちらの重視よりも企業側への忖度を重視している恐れも否めない。厚労省は労働者の権利や環境を優先すべき官庁ではないのか。それとも経産省の下請けなのか。
有識者検討会の委員は厚労省発表の資料に掲載されており、中には労働者代表とされる人らも含まれているが、現在の国会で日本維新の会が(形式的に)野党の立場をとり、与党側が野党の多数派でもない維新との合意だけで「野党との合意」とするのと同じように、彼らは形式的な「労働者代表」なんだろうと強く感じる。
このような、実態とかけ離れ実効性があるのかも定かでない、というか逆に「働き方改革はこれで充分」というお墨付きをブラック企業などに与えかねない制度を検討したり、過去の投稿
でも指摘したよう、現在の制度上指摘されている、外国人労働者の人権軽視に関する問題点を直視せずに、新たな外国人労働者の受け入れ拡大を安易に目指す事だけを重視して立案検討されたとしか言いようがない入管難民法改正案を、深刻な程強引な手法で成立させようとしているのが現在の政府と与党らなのだが、そのどちらの長でもある安倍内閣総理大臣・自民党総裁は、自民党総裁選に向けて行なわれた9/3の支援者集会の中で、国際社会における労働や環境などのルールづくりについて、
日本はいままで引っ込み思案で、ほかの国々にルールをつくってもらい、一生懸命に優等生で頑張ってきた。ルールづくりが勝負であり、日本が率先して世界のルールづくりにリーダーシップを発揮していきたいと述べている。NHKはこの件に関して「世界で台頭する保護主義に対抗するためにも、日本が主導して、国際社会における労働や環境などのルールづくりに取り組む考えを示した」と報道した(9/5の投稿)。外国人技能実習生制度については国内外から人権軽視の疑念を複数示されており、日本人についてもブラックな労働環境、男女間の賃金・待遇格差を国内外から指摘されているのに、一体何を以て「一生懸命に優等生で頑張ってきた」と言えるのか理解に苦しむ。彼の感覚では、ブラックな労働環境や、日本人・外国人に関わらず労働者の人権軽視、男女間の格差を容認・黙認するのは優等生のする事ということなのだろうか。彼はそんな日本の状況を国際的に批判・否定され難くする為に、日本の悪しき伝統・基準を世界のルールにしようと企んでいる、ということなのだろうか。
勤務間インターバルにしても、日本より明らかに労働者の人権・待遇に関する意識が高いEUでは、20年以上も前の1993年に11時間が義務付けられている。首相は「率先して世界のルールづくりに励む」と宣言しているが、彼が長を務める政府や与党が検討しているのは、どう考えても、悪い方向にガラパゴス化した日本の労働に関する制度・環境を改める方策ではなく、これで「世界基準のルール」を宣言されては日本全体が馬鹿にされかねない。
こんな状況では、
安倍首相は美辞麗句・羊頭狗肉がお好き言い換えれば、美辞麗句を披露する・羊頭を掲げて狗肉を売るのは彼の十八番・得意技・必殺技としか言いようがない。
追記:
必殺技と書くと「誰も死なないだろ!」と言われそうだが、「殺し文句」は誰も死ななくても殺し文句である。必殺技の語源は確かに誰かを必ず殺せる技かもしれないが、必殺技も殺し文句同様、現在では誰かの命を奪う技とは限らない。