安倍首相・現政権の人権意識の低さには心底ウンザリさせられる。最近は特に労働者の権利に関する意識の低さが目立つ。昨日の投稿「炸裂!安倍氏の十八番・美辞麗句&羊頭狗肉」では、厚労省が検討している勤務間インターバル制度に触れ、その日本人労働者の権利軽視傾向、労働環境の改善に対する意識の低さに関して書いた。しかし最早説明不要かもしれないが、昨今現政権の人権意識の低さを最も感じさせるのは、新たな外国人労働者の受け入れ拡大を安易に目指す事だけを重視して立案検討されたとしか言いようがない入管難民法改正案だ。昨日の投稿で説明したので詳細は省くが、法務省の恣意的な統計調査に基づいて改正案が立案されているのがそう感じる主な理由だ。
11/28の投稿「自公維の議員たちは、特殊詐欺に騙されるタイプ」でも書いたように、ウンザリさせられるのは首相や政府だけでなく、それと一体となって黙認・追認する与党・自民党と公明党、そして名ばかり野党の日本維新の会の議員らも同様だ。
昨日の参院法務委員会での入管難民法改正案に関する審議での首相の発言は特にひどかった。2015年からの3年間で、自殺少なくとも6人・溺死7人、他にも凍死・低酸素血症などを含む69人の外国人技能実習生が死亡しているという事について、立民・有田議員が首相に質問すると、彼は次のように述べた(TBSニュースの記事)。
亡くなられた例については、私は今ここで初めてお伺いをしたわけで。ですから、私は答えようがないわけでありまして要約すれば「初めて聞いたから何も言えない」と言っているわけだが、社交辞令だったとしても、せめて「由々しき事態」「まことに遺憾」ぐらい言えないだろうか。彼の態度・口ぶりから「データが正しいとは思えない」とか「69人死んだから何?」と言っているようにしか見えなかった。彼は、
私、その表も見ておりませんから、お答えのしようがないわけですが、法務省において、もしそれが異常な数値であれば、当然それは、どうしてそうなったかということは、対応していくことになるんだろうと
今回のこの外国人材の受け入れ、そして共生のための総合的対応策について、法務大臣が指揮をし、しっかりと対応してまいります。とも述べ、つまりそのようなことについては法案成立後、省令などで対応すると言っているわけだが、 12/5の投稿「案の定出てきた外国人技能実習制度に関する法務省・政府にとって不都合な事実」でも示したように、外国人技能実習生の失踪理由について、「低賃金」「低賃金(契約賃金以下)」「低賃金(最低賃金以下)」という理由をまとめて「より高い賃金を求めて」と言い換えたり、失踪した2870人のうち1927人が最低賃金以下で働かされていたにも関わらず、それを22人とする統計をまとめたり、法案成立に有利に働くように都合の悪い事を隠そう、都合の良い事を誇張しようとする法務省や政府が、外国人労働者との共生のための総合的対応策を行うとは到底考え難い。首相や彼の仲間たちお得意の口先三寸としか思えない。
付け加えると、3年間で外国人技能実習生に69人の死者がでているということについて首相が「昨日初めて知った」と答弁し、恣意的にまとめられた法務省のデータの再点検も終わっていないのに、与党・自公は「充分に審議は尽くした」として採決を強行しようとしている。これでは国会開催など必要なくなる。単なる多数決で何でも押し切れる危険な政治状況としか言い様がない。勿論数の暴力を振りかざすような政党・政府に選挙でお墨付きを与えた国民にも責任はあるが、選挙結果=民意を大義名分にすれば何でも許されるというのは大きな間違いだ。
この件について、今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでもトップニュースとして取り上げていた。コメンテーターの国際弁護士・清原 博さんは次のように述べた。
安倍さん相変わらず上から目線なんだけど、私が言いたいのは野党がだらしない事。相変わらずデータ出せとか、データ間違いとかそんな事ばっかり言ってるわけです。だけど今さらで、外国人実習生に問題がある事は、我々司法の立場からすれば5年前から言っている事なんですよ。そんな事今さら国会で議論するのは遅いわけであって、野党に言って欲しい事は政策議論なんですよ。つまり今何が問題かと言うと、外国人実習生の働き方が非常に過酷なんだと、それは分かってるんだから、そうだとしたら、どう野党は代替案出すんですか?と。(韓国の外国人受け入れ政策の例など中略)それが出来てない野党が本当に情けない。確かに、今臨時国会では入管難民法改正案の他にも、水道法改正案、漁業法改正案など様々な危惧がある法案の審議が予定されていたにも関わらず、国会の冒頭で多くの時間が、開会直前に組閣された内閣の新閣僚の政治資金の問題や、大臣、というか政治家の資質のなさの指摘に費やされたことを勘案すれば、野党側の姿勢・方針にも疑問を感じる部分はある。水道法改正案に関しては、先の通常国会でも議論がなされていた案件で、問題を指摘して然るべきなのに、予算委員会でもそれを差し置いて大臣の資質の問題を優先させていたのは妥当でないと言われても仕方ない。
しかし、清原さんの言い草では、政府・与党がザル法案を強引に成立させようとしているのは野党が不甲斐ないからだ!野党は反論ばかりでなく対案を出せ!と言っているように聞こえてしまう。彼に言いたい。率直に言って、ザル法案を提案する方が圧倒的におかしいし、それを吟味もせず成立させようとする与党の責任については言及せずに、野党の不甲斐なさだけを指摘するのは、痴漢が行為に至ったのは女性がミニスカートを履いていたからのような話で、法律家の主張という事を勘案すれば特に、到底理解できるものではない。清原さんの発言の真意は「野党にはもっとしっかりして貰いたい、存在感を強めて欲しい。でないと次の選挙も同じ結果になりそうで憂慮している」なのかもしれないが、もしそうなのであれば、それがハッキリと伝わる表現をして欲しい。
清原さんは「対案を出さない野党は情けない」と言っているが、例えば先の通常国会では、衆院に提出された議員提出法案45本のうち野党主体の法案は29本あった。しかし法案審議には与野党の合意が必要で、それらはほぼ審議の対象にすらされなかったのが実情だ。その中にはカジノ法案審議を優先した為に審議対象にされなかった、6月の西日本豪雨への対応の為の「被災者生活再建支援法改正案」もあった。そんなことは考慮もせず「対案をだせ!反論ばかりするな!」と叫ぶ与党政治家や積極支持者らの思惑に乗せられて、「野党は対案を出さない」と批判するのは適当だろうか。野党が対案を示したところで審議すらされないようならば、野党側が他の方法での対応を検討し実行するのは当然と言えば当然だろう。「野党の対案が審議に値しないものばかりだったのでは?」という反論もありそうだが、ならば入管難民法改正案や水道法改正案も中身スカスカで審議に値しないとしか言い様がない。
余談だが、しばしば「予算委員会で他の事を議論するな」という主張を耳にする。しかし、大臣の給与も予算で支払われるし、どの法案も実行するには少なからず予算が必要になる為、予算委員会は事実上「何を議論してもいい委員会」である。「予算委員会で他の事を議論するな」と言うのは、アメリカの事実上の外務省が「国務省」という名称であることの背景に、元々は外交以外の役割も担っていた役所だが、外交以外の役割を新設した省に移管分離させて外交に関する役割が国務省に残った為、今でもアメリカでは外務省を「国務省」と呼んでいるという事情があるのを勘案せずに、
国務省なんだから外交以外のこともやれと批判するようなものだ。 勿論、予算委員会で各党が取り上げる事が、優先順位として適当かどうかには批判する余地はあるだろうが、「予算委員会で他の事を議論するな」というのは余りにも短絡的なので、もう少し事情を理解した上で批判するべきだろう。