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税と社会保障の一体改革はどこに行ったのだろうか


 2008年9月に起きたリーマンショックの影響による世界的な不況・金融危機によって、日本でも製造業を中心に大規模な派遣労働者の契約打ち切り、所謂派遣切りWikipedia)が起こった。契約先が用意していた寮や社宅で生活していた労働者は、仕事と同時に住処も失うことになり、世界的な不況の下では、年齢次第では再就職もそう簡単ではなく、経済的な困窮というレベルにとどまらず、ホームレスにならざるを得ない状況に追い込まれる者もいた。
 そんな状況を憂慮した有志の団体が、2008年末に 炊き出しや生活・職業相談、生活保護申請の説明、簡易宿泊所を設置などを行ったのが年越し派遣村だ。当時運営に関わった作家の雨宮 処凛さんは自身のブログへ、2/20に「第475回:10年前の年越し派遣村の記録を見て思う。の巻(雨宮処凛)」というタイトルの投稿をしている。


 雨宮さんも投稿の中で触れているが、当時年越し派遣村について「派遣切りにあった労働者だけでなく、炊き出し目当てのホームレスや、日雇い労働者も集まっている」のように揶揄する者もそれなりにいたし、中には「派遣切りにあった労働者ではなく…(以下同文)」と、看板と実態が全く異なるかのように言う者が政治家の中にも少なくなかった。
 雨宮さんは、その後「自己責任論」に傾きやすい自民党議員からも、セーフティネットの必要性が現れた事、その一方で、相変わらず生活保護受給者を「単にやる気がないだけの者」のように揶揄する者が一定数いることや、自治体の担当職員らが生活保護受給者を見下すような対応をしている事が発覚することが相次いで報じられた事からもわかるように、未だに「自己責任論」で片付けようとする者がいる事にも触れ、この10年間を振り返っている。

 この投稿を読んで改めて思う。
 生活保護などの社会福祉制度が充実していれば、年越し派遣村なんて必要なかったんだろう
と。生活保護は国や自治体が、健康で文化的な最低限度の生活を保障する公的扶助制度だ。生活保護については、リーマンショック以前から「健康で文化的な最低限度の生活」とは何かという点において議論が起きていた。自分が学校の授業で触れた、朝日 茂さんが起こした訴訟・朝日訴訟Wikipedia)は1957年の事案だが、当時国は例えばパンツは年1枚で充分としていたそうだ。当時は今より確実に国全体の経済レベルが低かったのだろうが、流石にパンツ1枚では洗い替えすらない。1年間同じパンツを履き続けたら、翌年新たにもう1枚買えたとしても、元の1枚は既にボロボロで使い物にならないだろうから、結局また1枚で1年間生活することになるだろう。
 同じ様な事案は現在も起きている。例えば2017年には、PCは他人から借りればよい物、要するに生活必需品とは言えないという判断を裁判官が示し、購入に充てた保護費の返還を命じるという事があった(2017年11/29の投稿)。現在パソコンは就職活動には欠かせないツールだし、どんな職業でもパソコンの操作習得はほぼマストなのではないか。つまり現在、パソコンは紙と鉛筆にも匹敵するような生活や仕事と密接に関わる基本的な道具の一つという認識を、裁判官がもっていない事に驚かされた。また、パソコンやスマートフォンは個人情報の塊でもあり、多くの人は個人所有のものをそう簡単に人に貸す気にはならないという感覚もないようで、2つの意味でこの裁判官の判断には驚かされた。

 年越し派遣村には、指摘があったように派遣切りとは関係の薄い者も集まっていたのは事実だろうが、リーマンショックによって大規模な派遣切りが起こり、それによって仕事と住処を同時に失う者も多くいたのもまた事実で、その10年前の出来事を教訓にすれば、将来的に確実に起こるであろう経済状況の悪化に備え、生活保護等の社会保障制度の充実を図る必要があるのは間違いない。また、現政権の長である安倍氏は、前民主党から政権を奪還した際に「税と社会保障の一体改革」を約束した筈だ。
 しかし、消費税率が上がる一方で、社会保障の充実が図られているとは到底思えない。消費増税に関連して政府が打ち出すのは社会保障政策ではなく、増税に伴う景気悪化への対策ばかりで、それに予算をかけるという話しか聞こえてこない。万が一政府や与党が社会保障政策を積極的に打ち出しているのに、それをメディアが取り上げていないのなら、積極的に会見を行っていると自負する官房長官(2/13の投稿)などは、それをもっとアピールしている筈だろうが、そんな話も聞いたことはない。
 何より、消費税が10%に増税される2019年10月の1年前から生活保護は減額されているし(時事通信の記事)、年金だって相変わらず杜撰な管理がしばしば発覚、今後は更に支給額が少なくなる恐れも多分にある。GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人が株取引などで積立金を運用し、米国などの株高を背景に現在はトータルでプラス収支のようだが、再びリーマンショックのような事が起きれば、目論見が脆くも崩れ去る恐れはある。消費税率は上がるのに社会保障の充実が図られていないのであれば、それは「税と社会保障の一体改革」でないどころか「税と社会保障の一体改悪」だ。

 現政府は誤差かもしれない程度の超低空飛行なGDP成長率を以て「緩やかな成長」「戦後最長の景気回復」などと自画自賛する(1/30の投稿)。また首相はしばしば「アベノミクス効果」を主張する。しかし彼らが消費増税による経済悪化を懸念し、その対策に躍起になっているようであれば、彼らは6年かけても消費増税が出来る環境を整えられなかったということだろうから、彼らが自負する景気回復は過大評価であると言わざるを得ない。
 そして、その程度の環境しか作れていないという事は、再びリーマンショックのような事が起きれば、そんなものは軽く吹き飛ぶということだ。つまり、彼らが自賛する景気とは、単に他国、特にアメリカの株高に引っ張られただけの事であって彼らの手柄でもなんでもなく、環境次第で前民主党政権と同じ様な状況に陥りかねない程度でしかないのだろう。

 資本主義経済の社会である限り、必ずいつか再び景気が悪い状態がやってくる。果たして現政権はそれを勘案した政策を行っていると言えるだろうか。あたかも自分達が好景気を作り出しているかのように自負する割に、将来に備える為の社会保障政策の拡充を行っていないことを考えれば、主に選挙目当てで、単に自分達を良く見せよう、大きく見せようとしているだけなんだろうと思えてならない。

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