昨日の投稿「政治不信を指摘しているメディアにも、不信感を感じてしまういくつかの理由」、1/30の投稿「実態を伴わない景気回復を「戦後最長」と誇る政府とNHK」で、幾つかのメディア報道に対する違和感・不信感を書いた。たて続けに報道批判に関する投稿を書くことで、メディア全体を一括りにして短絡的にマスゴミ・偏向報道などと揶揄するような人間と同類だというレッテルを貼られるのではないかという懸念を感じるし、その手の人達に投稿の内容を恣意的に解釈されて、「マスゴミは偏向している」と彼らが主張する為の材料にされやしないかという懸念も感じるが、彼らと違って自分は合理的な根拠を示した上で批判しているという自負があるし、合理性のある根拠も示さずに大雑把な括りで「マスゴミ・偏向報道」と批判、厳密に言えば批判ですらない単なる中傷は確実に好ましくはないが、どんなメディアも全て正しい報道をするという保証はないので、おかしいことはおかしいと指摘していく必要が確実にあるとも思っている。
それでも「メディアと一括りにはしてはいないが、お前も前述の投稿で”NHK報道を感じる”とNHKの報道を全て一括りにして論じているじゃないか」と言われるかもしれないとも感じるが、NHKの報道では概ね記事や原稿を書いた記者の名前を掲載しないので、NHK名義の報道という括りで扱うしかない件が殆どだし、1/30の投稿だけでなく2018年12/1の投稿でも触れたように、不信感を抱く報道が多いので「NHK報道全体に問題があるのではないか」と感じるに至っている側面もある。また、2018年12/1の投稿ではNHKの報道以外にはそれ程不信感を持っていないことも表明しており、個人的には充分な配慮をした上で批判していると考えている。
そんな理由でメディア報道に対する批判ばかり書くのは気が引けるものの、昨日も適切な報道とは感じられない記事が目に止まったので今日も書くことにした。ハフポスト/朝日新聞は「酒に酔った米兵、人の家に侵入して勝手にシャワー その場で逮捕」という記事を掲載している。住居侵入の疑いで厚木基地所属の米兵が逮捕された、という内容の記事だ。米兵は酒に酔った状態で、2/2午前5時頃に神奈川県海老名市のアパートにある男性宅に侵入しシャワーを浴びたそうで、物音で気が付いた男性が取り押さえたのだそう。記事によれば男性宅の玄関は施錠されていなかったとのことだ。記事に書かれた情報はほぼこれだけだ。自分は肝心な点に記事が触れていないと感じた。
自分が考える重要な点とは
米兵がこのアパートの別の部屋の住人だったか否か、若しくはこのアパートに米兵の友人等が住んでいたか否かという点だ。つまり単純に部屋を間違っただけなのか、それともいたずら半分等も含めて意図的な不法侵入だったのかが、記事が伝えている情報だけでは、読み手は判断できない。この手の刑事事件の記事は、概ね警察の発表を基に書かれているだろうから、その点に触れられていないということは、警察が公表していないということなのだろうが、この記事の書き方では事実に即さない印象を読み手に与えかねないと危惧する。この点は事件の実態を把握する上で大事な点だろうから、少なくともその点が定かでないなら「警察はその点を明らかにしていない」と注釈しておくべきだろうし、その点がどうだったのかを取材した上での続報をすることが不可欠だろうが、この程度の事件では続報はされずにそのままになるだろうと推測する。
ハフポストは記事提供元の1つとして朝日新聞と提携しており、有料記事の冒頭部分だけを抜粋して記事化することがあるので、朝日新聞の元記事「酒に酔い勝手にシャワー、アパート侵入の疑いで米兵逮捕」も一応確認してみたが、この記事は有料記事ではなく誰でも全文が参照できる記事で、ハフポストに掲載された文面と全く同じ内容だった。つまり元記事でもその点には全く触れられていなかった。ハフポストは朝日新聞の記事を転載した案件についても独自記事を併載する場合がある。もし朝日新聞が続報しなかったとしても、同じ内容の記事を掲載したハフポストには是非独自に続報を書いて欲しいし、その責任が生じると考える。
兵庫県・明石市の泉市長が、道路の拡幅工事に関連する物件の立ち退き交渉を担当する職員に対し、「燃やしてしまえ」「今日火つけて捕まってこい、お前」などと暴言を浴びせていたことが報じられ、泉市長は2/1に会見を開き辞意を表明した(ハフポストの記事)。この件の初報は1/29の朝日新聞の「明石市長、職員に「火つけてこい」 立ち退き交渉進まず」という記事のようで、その記事では
朝日新聞は関係者から、約1分半にわたる録音データを入手。それによると、泉氏とみられる男性が「あほちゃうかほんまに」「立ち退きさせてこいお前らで」「もう行ってこい、燃やしてこい、今から建物」「損害賠償、個人で負え」などと発言していた。とされている。この記事を受けて翌朝以降テレビでも、この部分の音声データを使ってこの件が報道され、一方的で理不尽なパワハラというニュアンスで伝えられていた。報道各社にそうした意図があったかどうかは定かでないが、少なくとも自分にはそう見えた。しかし、同じく1/29の昼頃、神戸新聞は「部下に「辞表出しても許さんぞ」「自分の家売れ」 明石市長の暴言詳報」という記事で、報じられた音声データの前後部分があることを報じた。当該部分の不適切さや理不尽さは変わらないものの、前後を勘案すれば、市長は「死亡事故が頻発する交差点の拡幅を一刻も早く進めたい」という思いで発言していることがうかがえる為、一方的なパワハラと言い切れるかどうかは分からないと自分は感じた。
神戸新聞が音声データの前後部分を報じたことで、市長を擁護する声もそれなりに聞こえてくるが、立ち退き交渉が進まないことに対する苛立ちがあったとしても、「放火しろ」とか、「放火して捕まれ」とか、「放火した損害賠償はお前が負担しろ」などと、確実に法に反する、しかも放火という重大犯罪を市長が部下にけしかけるなんてことは絶対にあってはならない。しかも彼は弁護士の資格も有する人物なので、如何にそれが不味い事かの認識が当然ある筈だ。勿論弁護士資格がなくても市長でなくても問題のある発言には変わりないが、弁護士・市長なら尚更だ。
しかし一方で、音声データの全体が最初から分かっていたなら朝日新聞やテレビ各社もそれをしっかり伝えるべきだったとも思う。もしかしたら情報提供者が朝日新聞に当該部分だけを伝えたからそう報じられたのかもしれないが、それにしても何故そんな話になったのかをしっかり取材した上で記事を書くべきだったとも思うし、情報提供者の話を鵜呑みにせずに別の線からも取材をした上で記事化するべきだったのはないかとも思う。ここからは個人的な推測でしかないが、翌日に神戸新聞で音声データ全部が公開されたことを勘案すると、初報を出すという功を焦った朝日新聞の記者が、充分な裏取りをせずに記事化してしまったのではないだろうか。
前述のように音声データ全部を聞いても市長の暴言は許されるべき内容ではないことに変わりはないが、市長の発言が不適切という報道について、ある意味で都合が悪い部分を、意図的か否かは別として、一部のメディアが隠して報じたようにも見えてしまう為に、逆に市長の暴言に対する擁護が起きているようにも思える。つまり、市長の言動の適不適とは関係なく、最初からありのままを報じるべきだったこともまた確かだろう。
大切な事なので再度書くが、
たとえ市長の主張が大筋では間違っていなかったとしても、「放火しろ」なんて話はどうやっても容認できないこれを容認できるようなら、躾の為として体罰を行う教員や親も容認できることになりかねないし、「お前の為を思って」などとして、上司から部下に対して行われるパワハラ・セクハラも同様に容認できる余地がある事になってしまう。
しかしそれとは別に、おかしなことをおかしいと批判するにしても、都合の悪いことを隠したり歪曲したりして自分の主張の合理性を強調しようとすれば、たとえそれが意図的でなかったとしても、たちまち説得力は半減するだろう。場合によっては説得力がゼロに等しくなりかねない。それは、法務省が外国人労働者に関する調査で恣意的な解釈をしたことや厚労省の不正統計、財務省の公文書改ざん等、数々の不正に関して、まともな調査を出来ない政府や行政が、今更何を発表しても全然信用出来ないのと同じで、程度の差はあれどそんな報道が繰り返されれば、まずは当該報道機関、更にはメディア全体への不信につながりかねない。
政府や行政が不正を頻発する所為や、それを適切に正す事が出来ない状況、メディアが「戦後最長の景気回復」などの恣意的な解釈の報道をする事で、政府や報道が発表する数字や内容に信憑性が感じられなくなれば、真偽・信憑性に関わらず信じたい事だけを信じる者、不安を煽られる者は更に増えそうだと危惧する。 それは所謂フェイクニュースの付け入る隙を生むことになり、確実に社会全体の混乱に繋がる。