電気グルーヴのピエール瀧さんがコカインを吸引したとして逮捕された。本人は容疑を認めているという。この件は今週の火曜日・3/12の23:00過ぎに最初に報じられた。自分はテレビ朝日の番組中に表示された速報でこれを知った(その直後のテレ朝ニュースの記事)。現在の電気グルーヴのメンバーのもう一人・石野 卓球さんがバンドブーム当時に結成し、ピエール瀧さんも参加していた電気グルーヴの前身バンド・人生の頃から見てきた自分にとっては、とても大きな事件だったが、当時から彼らを見ていた者の一人として言わせて貰えば、ある意味では大きな驚きはなかった。コカイン使用がいいか悪いかは別として、彼らはそれくらいぶっとんだ存在だった。現在音楽活動一筋の石野 卓球さんではなく、メディアへの露出も多いピエール瀧さんが逮捕されたという点には少し驚いたが。
ピエール瀧さんが第一線で活躍するタレント/俳優だったこともあり、逮捕後から今まで、この件に関する報道はずっと過熱している。便宜上「報道」と書いたが、その大半は報道ではなくゴシップ記事のようなものばかりで辟易する。特に「いい人だったのに」とか「裏切られた」なんて言っているコメンテーターやアナウンサーなどを見ると、ピエール瀧とはそもそもいい人で売っていたわけでなく、ぶっとんだ人ことをやる人として人気になったのに、彼は一体何を「裏切った」のか?と言いたくなる。彼が法律違反を犯したことには違わないだろうが、「裏切られた」と思うのはあなたが勝手に期待しただけだろう。
TBSラジオ・セッション22のパーソナリティで、社会問題に関して広く主張する荻上チキさんは、昨日からこの件に関するテレビでの扱いを出来る限りチェックし、スレッド化してツイートしている。
TBS「ひるおび」。警察前レポ、経歴振り返りから、スポーツ紙を紹介し、読み上げていく形式。ドラマやイベント多数、影響はどうなる、という議題設定。当事者、専門家、治療の紹介はなし。専門家ではないコメンテーター「残念だ」「ドラッグをやっている人は(役者などの)仕事をしてはいけない」。— 荻上チキ (@torakare) 2019年3月13日
このツイートから連なる、スレッド化された一連のツイートを見ていて思う。
テレビ報道は概ねスポーツ新聞化してしまったと。勿論これらのツイートは荻上さんがそれぞれの番組を見た所感であり、別の人は違う受け止め方をするかもしれない。そして別の見解が間違っているとも言い切れないし、荻上さんの所感が圧倒的に別のそれよりも適切・正しいと断言することもできない。しかし、彼が所感を示した番組のうちのいくつかを見て、自分も彼と殆ど変わらない印象を抱いた。だからこそ「テレビ報道は概ねスポーツ新聞化してしまった」と感じた、というか再確認させられた。ピエール瀧さんの件に関する報道・メディアの取り上げ方、特にテレビ報道の問題点については、荻上さんのツイートと、特定非営利活動法人アスクが提唱している薬物報道ガイドラインを比較して考えて貰いたい。
「再確認させられた」と書いたように、それは以前から薄々、というか近年は強くそう感じていた。少し前までは、NHKの報道はテレビ報道の中で最も「スポーツ新聞ではなく大新聞的」と感じていたが、直近では3/8の投稿でもそれについて書き、それ以前から再三書いているように、最近はNHK報道の姿勢自体に疑問を強く感じるし、報道の仕方に関しても、例えばカルロス ゴーンさんの保釈金について並べるとどれくらいになるかとか、他の局と同じ様に、変装がどうだとかスズキの軽に乗っただとかにフォーカスしていたし、ピエール瀧さんの件についても他局と大差ない取り扱い方をしているので、最早ワイドショー化していないテレビ報道などない、と言っても過言ではない状況なのかもしれない。
強いて言えば、ワイドショーに積極的でないテレビ東京だけが唯一そうではないかもしれない。今のテレビ東京は在京キー局中視聴率最下位ではないのかもしれないが、これまでキー局中最もローカル局的だなどと、ある意味では褒められ、ある意味では揶揄されてきた局の報道が、他の局の報道が沈下した為にある意味最もマトモなように見えるのは皮肉なものである。
今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでもこの件を報じたが、他のキー局とは異なり荻上さんの指摘にも触れ、アスクの薬物報道ガイドラインについても、番組MCの堀 潤さんがフリップを用いて説明していた。
モーニングCROSSについては、差別的・偏見・明らかな誤認を含む視聴者ツイートを、画面上に取り上げる点などについて、これまで何度もこのブログやツイッター上で指摘し、番組ハッシュタグを付けてツイートしたり、MCの堀 潤さん宛にリプライしたり、番組サイトで直接意見を送ってきたが、改善される様子が見られず、2/26の投稿でも書いたように、最近は「そろそろモーニングCROSSにも見切りをつけるべき時期かもしれない。」と思いつつ見ているのだが、このように他の局が取り上げない事にも触れる番組なので、一方では支持したいという気持ちもまだどこかにある。
これを取り上げた堀 潤さんは、暗にNHKを含む在京キー局のこの件に関する報道姿勢を批判していることにもなる。3/8の投稿でも書いたように、彼は「NHKは日本の地上波にない”24時間ニュース専門チャンネル”になるべき」と主張している。3/8の投稿の中で自分は、
NHKが現在の報道に対する姿勢を変えないのであれば、NHKの24時間ニュースの為に視聴料を支払うのは、金をドブに捨てるようなものと考えていると書いた。この投稿の主題として取り上げたピエール瀧さんの件に関するNHKの報道姿勢を見て、更にその見解の妥当性を感じている。堀 潤さんには、「NHKに24時間ニュース専門チャンネルを」と主張するのなら、「それを担うに見合った報道姿勢を検討した上で」という条件を付けて主張して欲しい、ということを自分は強く感じる。
テレビ報道は新聞・出版などの活字メディアと比べて、情報量では確実に敵わないものの、動画と音声を用いた直感的な分かりやすさと、即時性の高さで勝るメディアだとされてきた。しかし、テレビより後に出てきたネット・動画配信と比べると、分かりやすさでは差がなくなり、即時性・情報量では敵わなくなっている。ではテレビ報道のアドバンテージは何かと言えば、ネットに比べてある程度情報の信憑性が担保されていて、且つ新聞よりは即時性に優れるという点だろう。
しかし、ピエール瀧さんの件からも感じられるような、テレビ報道の総ワイドショー化、スポーツ新聞化が進めば、現在アドバンテージの1つである信憑性は確実に下がる。つまり総ワイドショー化し始めている(ように見える)テレビ報道は、勿論NHKを含めて、自らアドバンテージを1つ捨てようとしているようにも思える。勿論そのポジション、つまりワイドショーに特化して生き残るというのも一つの手だろう。民放についてはそれでもいいかもしれない。しかし強制的に徴収される視聴料で運営しているNHKがそれでは困る。姿勢を改めるか民放化するかのどちらかにして貰いたい。
2018年11/18の投稿「テレビは将来的に、壊滅的に衰退するのか」で、自分はこのタイトルの問いに関して「将来的にテレビが消えて無くなるとは到底考え難い」という見解を示した。しかし「メディアとしてのテレビの規模縮小は将来起きるだろう」とも書いた。この投稿を書いた時点では、まだそれでもテレビ報道には相応の重要性があるし、今後もそれは大きく変わらないと思っていたが、テレビ各局の、ピエール瀧さんの件の扱いを見ていると、自分はテレビ報道を買いかぶっていたんじゃないか、やや過大評価していたのではないか?と考えさせられた。
追記:
関連する投稿「連帯責任の無意味さとサブスクリプションサービスの危うさ」(3/16)も書きました。