ニュージーランドで3/15に発生した白人至上主義的な主張をしていた男が起こしたモスクでの銃乱射事件では50人の死者が出た。ハフポストは3/26に「“They are us”ーーテロ後のアーダーン首相の行動は、愛と思いやりに溢れている。」という記事を掲載した。ニュージーランドのアーダーン首相が、容疑者を「テロリスト」と明言し、ヘイトを撲滅するよう呼びかけているということを伝える内容である。
この記事を読んで自分の住む国ではどうかを考えてみた。日本でも無差別大量殺人事件は、思い当たるだけでもいくつかあるが、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件(Wikipedia)が最も記憶に新しい。元施設職員が知的障害者福祉施設侵入し、入所者19人を刺殺、職員を含む計26人に重軽傷を負わせた大量殺人事件だ。この事件の際に日本の首相はどんな反応を示しただろうか。
3/18の投稿でも触れたが、安倍氏は3/15のニュージーランドの事件に対してこのようにツイートしている。
ニュージーランドの事件を前提に「テロと断固として戦う決意」としているが、安倍氏が相模原の事件についてテロと認定したという話は一切聞かないし、障害者への偏見・差別的な感情に基づいたヘイトクライムだという判断を示したという話も全く聞かない。もし万が一彼がそのような見解を示しているという根拠があるなら、この見解が間違いだと言える記事や本人のSNS投稿などがあるのなら是非とも教えて欲しい。ニュージーランド国民の皆様がこの困難な時を乗り越えるにあたり、心からの連帯を表明します。— 安倍晋三 (@AbeShinzo) 2019年3月15日
テロは、いかなる理由でも決して許されません。日本は、ニュージーランド及び国際社会と手を携えて、テロと断固として戦う決意です。 https://t.co/RlOmxVkhTe
1/3の投稿「テロとは一体なんなのか」でも触れたが、首相や日本政府、そしてメディアが何を基準にテロか否かを判断しているかは全く不透明だし、3/18の投稿でも触れたが、安倍氏は何故「ヘイトクライム」と戦うという意思表示でなく「テロ」と戦うとしているのかを考えると、彼への不信感はより高まる。
3/19には、厚生労働省労働基準局の課長が韓国の空港で、英語で「俺は韓国人が嫌いだ」などと叫び、職員にものを投げつけたり暴行したりして取り押さえられるという事件を起こした(産経新聞の記事)。またこの週末には、世田谷年金事務所所長が匿名アカウントで差別的なツイート・誹謗中傷を繰り返していた事が明らかになっている(ハフポストの記事)。日本年金機構は一応、政府・厚労省からの委託を受けて公的年金に関する運営業務を行う特殊法人だが、組織の性格上、職員らはみなし公務員に該当するだろう。つまり、中央省庁の役人やそれに準ずる者がたて続けに、ヘイトスピーチ(人種、出身国、民族、宗教、性的指向、性別、障害など自分から主体的に変えることが困難な事柄に基づいて、個人または集団を攻撃、脅迫、侮辱し、もしくは他人をそのように扇動する言論等(Wikipediaより))を行った事が明らかになった。
安倍氏が彼らの最高管理監督責任者として、ヘイトスピーチやヘイトクライムへの懸念を示しただろうか。自分の知る限り、彼がそのような見解を示したという話は一切ない。個人的には、2017年8月にアメリカ・バージニア州で起きた白人至上主義者らと反対派の衝突の中で、白人至上主義者の男性が車で反対派に突っ込み1人が死亡した事件に対して、トランプ大統領が白人至上主義や人種差別に否定的な考えを積極的に示さなかったこと(2017年8/17の投稿)と似ているように思う。彼は自民党の総裁でもあるのだが、昨年7月に杉田水脈議員が同性愛者らに対して差別的な主張を繰り広げて問題になった際にも、自民党が課した処分はただ注意しただけ(2018年9/19の投稿)だった。
このような事を勘案すれば、安倍氏や彼が総裁である自民党、そして現政府は、差別や偏見・ヘイトスピーチやヘイトクライムに寛容な姿勢なのではないか、と強く感じる。ここで挙げたことはそう判断するに至る要素の一部でしかなく、根拠になる自民党関係者らの言動は、副首相である麻生氏の数々の放言を筆頭に他にも多々ある。というか「枚挙に暇がない」とさえ言えるだろう。
世田谷年金事務所所長のヘイトに満ちたツイートが明るみになった件に関して、元自衛隊航空幕僚長の田母神 俊雄氏が次のようにツイートしている。
彼が「このくらいの言論」と言っているのは、ヘイトスピーチや誹謗中傷に該当する恐れが限りなく高い内容の主張なので、彼は「最近はヘイトスピーチだなんだと息苦しい」と思っているのだろう。世田谷年金事務所所長が、韓国人について「属国根性の卑怯な民族、在日一掃、新規入国拒否」、」野党議員についても「いるだけで金もらえるタカリ集団」と匿名でツイートしたところ、投稿者探しが行われ更迭されたという。日本はこのくらいの言論が許されない住みにくい国に向っているのではないか。— 田母神俊雄 (@toshio_tamogami) March 26, 2019
「最近はヘイトスピーチだなんだと息苦しい」と彼が思うということは、そして彼と同じ様な見解を持つ人達は、無頓着にか意図的にかは定かでないが、これまでヘイトスピーチに該当する主張をしてきた・繰り返してきたからこそ、そしてそれが対象者にどんなダメージを与えるかをよく理解していないからこそ、そう感じるのだろう。つまりこれは「私は差別を厭わない人間である」、それは言い過ぎだとしても「私は差別に無頓着で人を傷つけかねない、人格否定をする恐れのある人間である」という告白をしているも同然ではないのか。
このブログでは何度も何度も繰り返し指摘しているが、日本では確実にほぼ全員が学校で「いじめを傍観するのもいじめである」と教えられている筈なのに、なぜ日本の首相は大人のいじめの典型である差別や偏見に基づく主張、またはそれを伴う犯罪行為に対して明確な嫌悪感や問題意識を示さないのか。自分には、安倍氏も田母神氏同様に「最近はヘイトスピーチだなんだと息苦しい」と思っているのではないかと思えてならない。そうでないのなら、彼には日本の首相として、率先して差別や偏見に基づく主張や犯罪行為に対する懸念・嫌悪感・問題意識を積極的に示して欲しい。実態の伴わない経済成長のアピールをするよりもそちらの方が確実に重要だし、現在のSNSの状況を見る限りそちらの方が緊急性は確実に高い。