以前にも書いたことがあるかもしれないが、動物愛護的な観点を背景に菜食主義やビーガンになる人の価値基準に自分は全く賛同できない。全ての菜食主義・ビーガンがそうではないだろうが、菜食主義・ビーガンの中には「動物を殺して食べる」という事は道徳に反する行為だと考えている人が決して少なくない。しかし彼らも何かを摂取しないと生きられない。だから彼らは動物は食べないが野菜・植物は食べる。自分は思う、植物を食べることも「植物の命を奪って食べている」ことには変わりない、と。
しかしその感覚を全面的に否定するつもりもない。単に賛同出来ないだけだ。現在の人間の世界では、基本的には他のどの動物を食べようがどんな植物を食べようが罪にはならない。しかし人間を殺して食べると概ね罪に問われる。他の生物には同種を食べる・共食いをする種もいるし、人間も飢饉等の極限状態では共食いする側面を持ち合わせている。しかし原則的に現在の人間社会では、人間とそれ以外に食べても良い/悪いのラインがある。つまりそのラインをどこに引くかという問題なので、植物の命を奪って食べるのはOKだが、広い意味で人間と同じ括りになる動物の命を奪うことに疑問を感じて「動物の命を奪わない」 という主義を掲げる事がそれ程不自然とも言えないかもしれない。
BuzzFeed Japanが「ビーガンの売れっ子ユーチューバーが実は魚を食べていた… 驚愕の真実にファンが激怒」という見出しの記事を4/14に掲載した。YouTubeで約50万人、Instagramで130万程度のフォロワーがいる所謂インフルエンサーの女性が、自分を、動物性の食品を避ける、肉や魚、卵、乳製品も口にしないビーガンだとして、「本当の自分を明らかにしよう」「たくさんのおいしい果物や野菜を食べる」などとフォロワーたちに勧めていたそうなのだが、彼女が別のユーチューバーの動画に出演した際に、彼女の前に魚が盛られた皿が置かれているのが一瞬映ったことによって、魚を食べているのではと疑われ炎上したそうだ。彼女はそれを受けて、当該記事にも掲載されている「ビーガニズムが自身の健康に与えた影響、また最後には魚や卵を食べなければならなかった理由」という動画を公開したらしく、その中で健康に悪影響が出たので魚や卵を食べることした、としている。
記事ではこれに対する一部のフォロワーの反応も紹介しており、それを
多くのビーガンたちは、彼女がビーガンのライフスタイルを利用し、その過程でビーガンの評判を傷つけたとして彼女を非難している。とまとめている。
「私は、あなたが魚を食べていることに対して怒っているわけではない。私は、あなたが自分はロービーガンだと嘘を言って、フォロワーたちから金を吸い上げていることに対して怒っているのだ」と書かれているコメントもある
ビーガンを称する人気のインフルエンサーが、実はビーガンでなかったら裏切られたと感じる気持ちはよく分かる。しかし、だからと言って攻撃的になる必要はないのではないか。例えば、彼女が動物由来の成分を含む食品を、動物由来の成分が入っていない食品として販売していた等の行為があったのなら、 自分はロービーガンだと嘘を言って、フォロワーたちから金を吸い上げているという批判や、詐欺行為で訴えられても仕方ないようにも思うが、記事にはそのような事実があるとは書かれていない。そんなことがあったのなら当然この手の記事は触れるだろうから、そんな事実は今のところ判明していないのだろう。ということは、単にビーガンだと思っていた女性が実はビーガンでなかったというだけの事で、「今後は彼女のフォローを止める」という対処で充分なのではないかと感じる。
ピエール瀧さんのコカイン使用容疑での逮捕に際して、あるテレビ局のアナウンサーが「ショックで許せなくて、裏切られたという気持ち」と述べていた。コカインの使用は法律に反する行為だし、その時点で本人も罪状を認めていたし、同じテレビ業界で働くアナウンサーが、彼の所為で「所詮芸能界・テレビ業界はそんなもの」という評価が下されたら許せない、と思う事は理解できるが、果たしてピエール瀧はそのアナウンサーを「裏切った」のだろうか。コカイン使用は違法な行為なので、ピエール瀧さんが違法行為をしていたにも関わらず何食わぬ顔で芸能人として仕事をしていた、のように受け止めればそれは「裏切り」かもしれないが、そのアナウンサーは彼の家族でも友人でもなさそうだし、契約金を支払うスポンサー企業でも仕事上で大きな影響を被る事務所や制作会社などでもない。そのアナウンサーのコメントには少なからず憎しみに近い感情が込められているように思えるが、ピエール瀧さんが、そのアナウンサーがファンとして勝手に思い描いていた人物像と異なっていただけと考えれば、単に「ファン辞めます、今後彼の関連作品は見ません・聞きません」でいいのではないのだろうか。
偽ビーガンインフルエンサーの件にしろ、ピエール瀧さんへの一部の強行な反応にしろ、個人的には「信じていたのに裏切られた」的な発想で憎しみをぶつけている人がいるように感じている。その気持ちが全く分からないわけではないが、信じた自分を許せない、つまり自分の判断が間違っていたと認めたくなくてそのような憎しみに転嫁しているようにも思える。このような感情には、4/11の投稿で触れた「○○らしさの押し付け」と似た側面があるようにも思う。
また、ビーガンであろう当該インフルエンサーのフォロワーらが、偽ビーガンだったインフルエンサーに対する攻撃的な態度を示している事を目の当たりにすると、動物の生命を守るという観点でビーガンになっている人が少なからずいる筈なのに、彼らの他者への攻撃性はどこか矛盾しているように思えてならない。だから尚更「彼女のフォローを止める、ファンを辞める、それ以上は必要ない」という対応が最も妥当なように感じられる。ただ、草食動物の中にも猪やカバなど攻撃性の高い種類もおり、ビーガンだから攻撃性が低いとは限らないのかも、とも思う。
自分が菜食主義・ビーガンに賛同出来ない理由の一つに、冒頭で書いたこと以外にも、イスラムやヒンドゥー教由来ではなく、特に白人や白人の考えを元にした菜食主義に多いのだが、自分達の先進性を自負し、場合によっては非菜食主義を見下すような者が相応にいる、ということがある。あくまで、これまで自分が目の当たりにしてきた狭い範囲の話なので、この自分の感覚が絶対的に正しいとは言えないが、 2018年3/8の投稿「感情的で身勝手な動物愛護感」や、2018年6/18の投稿「犬猫びいきの動物愛護感」やそこにまとめた過去の関連投稿でも書いたように、絶対的な価値観とは言い難い欧米文化由来の動物愛護感を押し付けるような風潮がビーガンや菜食主義者以外にもあり、ビーガンや菜食主義者には特にその傾向が強いように感じている。逆に言えば、その感覚を押し付けないビーガンや菜食主義には特に疑問を感じないということでもある。
ギガジンは4/14に「猫や犬などペットをベジタリアンに変えるトレンドに対する専門家の声とは?」という記事を掲載している。記事によれば、ペットを飼っている菜食主義者のおよそ27%は、本来肉食動物である猫にも植物ベースの食事を与えているらしい。この調査を行った研究者は
猫は植物を含む食事を取ることができるものの、肉ベースの食事でなければ健康的な生活を送ることができません。つまり、2019年時点の知識でいえば、猫に菜食の食事を与えることはいいアイデアとはいえないとしている。この記事で紹介されている調査や研究が絶対的に正しいとは言えないかもしれないが、本来肉食である猫に菜食を強制することは動物虐待に当たらないのだろうか。そもそも動物愛護的な観点で菜食主義になった者は、ペットとして動物を飼う、つまり動物の行動範囲を一方的に限定して、自分の制御下につなぎとめる行為を動物愛護に反すると考えないのだろうか。それとも全ての菜食主義者は犬も猫も全て放し飼い・家の内外出入り自由な状態で飼っているのだろうか。
個人的には、動物にしろ植物にしろ、生きることは他の生命の犠牲の上に成り立ち、そして自分も死ねば他の生命の犠牲になるということだと思っているで、勿論乱獲や無駄な殺生がいいとは言わないが、極端で偏った動物愛護感には賛同出来ない。しかし、自分以外の人がどんな基準の動物愛護感を持っていようが、勿論賛同出来ない場合や、その押し付けには批判・反論はするが、全否定するつもりもない。その線引きは、現在の人間社会の概ね絶対的な価値観である共食い、同種を殺さないという事に反しない限りそれぞれの自由だ。
最後に一つだけ付け加えておくと、ギガジンの記事の中には
菜食であることは環境やメンタルヘルス、肉体的な健康にもよいとして近年は注目されており、それに伴い菜食主義を取り入れたペットフードへの注目も高くなっていますという1節があるが、BazzFeed Japanの記事・偽ビーガンに、その一部のフォロワーたちが攻撃的な態度を示しているのを見ると、「菜食であることはメンタルヘルスにもよい」とは必ずしも言えない、と感じる。