「"バイトテロ" 10人に1人の学生バイトが「見たことある」」。ハフポストが4/7に掲載した記事の見出しだ。深刻な企業イメージの悪化を招きかねないアルバイト従業員による不衛生・不適切なSNS投稿を、以前は愚かなツイッターへの投稿のようなニュアンスで「バカッター」などと呼んでいた。一時鎮静化していたこのような行為は、昨年ごろから再び話題になり、この第2期から、当該企業に億単位の損害を与える行為であることなどに注目したのか、アルバイトによるテロ行為のような意味合いの「バイトテロ」なるスラングが浸透し始めている。
記事は見出しの通り、所謂バイトテロについての調査を紹介する内容なのだが、ハフポストがゴシップメディアではなく、報道機関を自認しているのなら、軽々しくテロという表現を使うのは如何なものかと考える。
「テロとは一体何を指す言葉か」 については、今年の元旦に原宿で起きた無差別殺傷未遂事件を受けて書いた1/3の投稿でも触れた。そちらでも書いたが、テロとは一体何か。Wikipediaのテロリズムのページによると、
テロリズムとは何らかの政治的な目的を達成するために暴力や脅迫を用いることを言うとある。しかし同じくWikipediaのテロリズムの定義のページでは、
テロリズムの定義に関する普遍的な合意はない。様々な法制度と諸官庁が異なった定義を用いている。その上、諸政府は意見を一致させた法的拘束力のある明確な定義を下そうとはしてこなかった。これらの困難な状況は、その用語が政治的に、そして感情的に変化するという事実から生じるとしている。つまり、テロ・テロリズムとは明確な実態のない何かで、時と場合、若しくは認定する者の都合によって「何であるか」、つまり定義が変わる便利なものとも言えそうだ。しかし、現時点では、何かしらの政治的な目的、宗教的な目的等の実現の為に行われる暴力や脅迫等が概ね「テロリズム」と呼ばれる行為だろう。
それを踏まえて考えれば、アルバイト従業員による不衛生・不適切なSNS投稿は明らかに思慮の至らない単なるいたずらであって、その結果企業に深刻なダメージを及ぼす場合もあるが、彼らが企業に深刻なダメージを与えようと考えてSNS投稿を行っているとは思えないし、また、深刻なダメージを与えかねない行為という意味では、物理的ではない暴力とも言えるかもしれないが、それでも昨今テロ行為と認定されるのは無差別殺傷等の明らかな暴力行為に限られている。しかも日本では、今年の元旦に原宿で起きた無差別殺傷未遂もテロ認定されてないし、相模原の障害者施設の事件も、秋葉原の無差別殺傷事件も、オウムサリン事件も概ねテロと認識されてない。逆に言えば、それくらいテロとは重い意味のある表現だ。
一方で何人も無差別殺傷した事件をテロとは呼ばず、一方ではアルバイトのいたずら投稿をテロと呼ぶ。このアンバランスさに疑問を感じるのは、果たして自分だけなのだろうか。
最近は当たり前のように用いられる表現「ネット右翼」にも違和感を感じる。自分も以前はこのブログ等でも所謂ネトウヨという表現を使っていた時期があったが、この「ネット右翼」という表現は結構いい加減だし、嘲笑や見下すようなニュアンスもあると考え、今は極力用いないようにしている。
そもそも「ネット右翼」とされる人達の特性を考えてみると、右翼とは全くかけ離れている。先週のTBS・上田晋也のサタデージャーナルでも「ネット右翼像」に関して取り上げており、その中で元TBS政治部長で流通経済大学教授の龍崎 孝さんが次のように言っていたのが印象的だった。
このネトウヨには右翼という言葉が充てられる訳ですが、ホントに右翼なのかねと。若い頃に取材で出会った皇道右翼・思想右翼と呼ばれている人達が言う事は、まず自民党政権批判ですよ。金権(政治)であったり、今日冒頭にあった(塚田忖度発言(4/5の投稿)などの)利益誘導だったり、そういうことが「あってはならない」と言っている人達が右翼だった。何より、プーチン大統領と安倍総理が会談した後に、プーチン大統領について批判をしたら、ネトウヨの人から「安倍政権のやっていることを批判するのか、この2人は日本のことを良くしようと仲良くやっているのに、なんということをお前は言うんだ」と批判された。私の知っている右翼は、北方領土を不法占拠しているソ連・ロシアを最大の批判対象にしていた。右翼がロシアを称賛する時代になったかと仰天してしまった。この回に出演していた、ネット右翼について独自に研究調査を行い、それについての著書もある古谷 経衡さんは、「真逆ですよね。名前が付けられないからネトウヨと呼ぶしかないでしょうね」 と続けた。しかし古谷さんはこのやり取り以前に、「ネット右翼とは中国が嫌い、韓国が嫌い、朝日新聞が嫌い。この3つだけ」とも述べている。だとすれば、ネット右翼とは実際には右翼ではなく、ネット上でヘイト行為に勤しむ人で「ネットヘイター」などが妥当ではないのか。嫌いなだけ、嫌いという主張だけならヘイト行為ではないが、彼らはそれにとどまらず誹謗中傷を繰り返しているのだから。
しかも、在特会や日本第一党などの存在を考えれば、その発祥はネットかもしれないが、現在彼らの活動の場は決してネットに留まらない。そう考えれば、ネット右翼は「ネット」でもなければ「右翼」でもなく、単なる憎悪差別主義者だ。右翼や保守という表現を用いれば、適切な方法で主張をしている右翼や保守の人達まで、そのような憎悪差別主義者だという認識を広げかねない。というか既にネット上にはそういう極端な主張に陥っている者も少なくない。木乃伊取りが木乃伊になるとはまさにそのような人達のことを指す表現だろう。
この投稿を書いていて、2017年2/11の投稿で「老害」という表現についての不快感・違和感などを書いた事を思い出した。昨今、特に少ない文字数での主張を行うSNS・ツイッターなどでは、象徴的なスラングを用いて揶揄するということが、あまりにも当たり前になっている。勿論世間一般に「バイトテロ」「ネトウヨ」「老害」などの表現が浸透していることは否定しないが、それらの表現がどのような意味を含んでいるのか、メディアが用いることで一般化するとどのような影響が生じるのか、報道機関が文章表現を生業にする言葉のプロであるならば、言葉の重みを良く考え、言葉選びは充分慎重に、もしそのような表現を使うのなら充分な説明を添えて、決して誤解を招かぬようにしてから用いるべきではないだろうか。