塚田国土交通副大臣が、4/1に北九州市で開かれた福岡県知事選挙の候補者の集会で、問題発言をしたという報道が、4/3に多くのメディアによってなされ、大きな注目を集めた。問題発言とは、「麻生副総理大臣の地元・北九州市と安倍総理大臣の地元・山口県下関市を結ぶ道路の整備について、彼らの思いを忖度して国直轄の調査計画に引き上げた」という趣旨だった。塚田氏の発言によれば、彼と安倍・麻生両氏の間に、吉田参議院幹事長と大家 敏志参議院議員が仲立ちとして介在しているような表現ではあったが、つまりは安倍・麻生両氏の思いを忖度して塚田氏が道路整備計画を国直轄案件にしたという意味合いと解釈しても問題のない内容だ。
昨年来自分は、NHKの報道・特に政治報道に強い不信感を持っている。3/8の投稿など、複数回このブログへもその思いを書いてきた。例えば、3/28の投稿で書いたように、
辺野古の埋め立て予定海域の軟弱地盤の存在について、菅官房長官は1/21の記者会見で「私は承知していない」と述べが、3/27の参院予算委員会では「本年1/18、防衛省の担当局長から報告を受けた」と説明したという、誰がどう聞いても明らかな矛盾・嘘としか言いようがないことに対して、菅氏が「どちらも正しいと思っている」「これはある意味で、虚偽じゃない」と述べたことについて、自分の知る限りNHKは報道をしていない。 なので、塚田氏の件に関してもNHKは積極的に報じないんだろうと思っていた。
しかしNHK News Webを確認すると、NHKはこの件に関して複数の記事を掲載し、塚田氏の発言の詳細まで報じている。NHKの記事によれば、塚田氏は以下のように発言したそうだ。例によって、NHKはどんどん記事を消すのでスクリーンショットも残しておく。
「11年前に凍結された。
コンクリートから人という、とんでもない内閣があった。
安倍総理大臣は悪夢のようだと言ったが、まさにそのとおりだ。
公共事業はやらないという民主党政権ができて、こういう事業は全部凍結してしまった」
「皆さんよく考えてください。
下関は誰の地盤か。安倍晋三総理大臣だ。
安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業が止まっているわけだ。
吉田参議院幹事長と大家敏志参議院議員が副大臣室に来て、『何とかしてもらいたい』と言われた。
動かしてくれということだ。
吉田氏が私の顔を見て、『塚田、分かっているな。これは安倍総理大臣の地元と、麻生副総理の地元の事業なんだ。俺が、何で来たと思うか』と言った。
私はすごくものわかりがいい。
すぐそんたくする」
「総理大臣とか副総理がそんなことは言えない。
森友学園などでいろいろ言われているが、そんなことは実際ない。
でも私はそんたくする。
それで、この事業を再スタートするためには、いったん国で調査を引き取らせてもらうことになり、今回の予算で国直轄の調査計画に引き上げた」
余談だが、4/1の新元号発表について、4/2の投稿・4/4の投稿で「テレビは新元号を肯定的に捉えている人しか報じていない」と批判した。自分は当該番組を見ていないのだが、聞くところによると、NHKが放送した4/2のクローズアップ現代+「新元号「令和」 決定の舞台裏に迫る」では、一応新元号や元号・和暦そのものに否定的な専門家の見解も取り上げていたようだ。このようなことを目の当たりにすると、NHKも流石に腐りきってはいないのかもしれないとも思える。勿論、最近あちらこちらでNHKの政治報道は政府に寄り過ぎているという批判が挙がっている為、それをかわす為ののらりくらりに過ぎない、という見方も現時点では出来そうで、個人的には「これでNHK報道の信頼は回復しました」とは言い難い。信頼を失うとそう簡単には元に戻らない。
塚田氏の発言は国会でも取り上げられた(ハフポストの記事)。もし塚田氏の発言が本当ならば、総理大臣らの地元という事が、その事業自体の必要性検討よりも重視されたという不適切な利益誘導に当たるし、塚田氏の発言が虚偽ならば、選挙活動の中で有権者らに嘘をついて投票を促した事になる。そんな発言や、発言した人間が問題視されるのは至極当然だろう。
4/4の参院決算委会で共産党の仁比議員が、塚田氏の発言を読み上げて罷免を要求したが、それに対して安倍首相は「(塚田氏の)発言の詳細は承知していない」とし、罷免することを否定した。目の前で塚田氏の発言詳細が読み上げられているのに承知していないというのは、仁比議員の発言は信用に値しないと言っているようなものだし、そもそも塚田氏の発言詳細を吟味検討せずになぜ罷免しないのが妥当であるという判断が出来るのか不思議でしょうがない。詳細を検討すれば罷免せざるを得ない発言だと知っているからこそ、塚田氏を罷免すれば任命責任を問われかねないという事で承知したくないと言っているとしか思えない。また、塚田氏の発言詳細を承知せずに、罷免ではなく説明を果たした上での続投という処分が妥当と判断したということは、つまりは「私がそれでOKと思ったからそれでOK」と言っているも同然だ。そんな乱暴な話が通用してしまう今の国会は完全にどうかしている。
それから一夜明けた今日・4/5、塚田氏は自ら辞意を表明した(ハフポスト/朝日新聞の記事)。これを受けて、裁判傍聴マニアとして有名な芸人・阿曽山大噴火さんが次のようにツイートしていた。
塚田副大臣辞めるのか。与野党と世間の声にも忖度するのね。あの発言は冗談だとは思うけど、冗談に聞こえないという面白さ。— 阿曽山大噴火 (@asozan_daifunka) April 5, 2019
自分も塚田氏は、何かを忖度して辞意を表明したのだろうと考えるが、それは与野党や世間の声(辞任の要求)への忖度だとは思えない。彼の発言によれば、彼が忖度したのはあくまで安倍・麻生両氏である。彼が今日辞意を表明したのは、昨日の国会で安倍氏が罷免要求を拒否するのを待っていたからではないだろうか。つまり、首相等によって罷免されるのではなく、明確に自分の意思で辞意を表明するという体裁に重要性があった、つまり安倍氏や、彼が所属する麻生氏らの「罷免すると野党が任命責任を強く追及してくるだろうからそれは避けたい。しかし党へのダメージや選挙中である事などを勘案すれば、副大臣を止めて責任を取ってもらいたい」という思いを忖度し、首相が罷免を否定するという行為で任命責任の追及をかわす為の地ならしを行ってから、自ら辞意を表明するという判断に至ったのではないだろうか。
彼が「私はすごくものわかりがいい。(安倍・麻生両氏に対して)すぐそんたくする」 と言っているのだから、彼が忖度したのは与野党からの批判に対してでも、世間の声に対してでもなく、塚田氏の辞意の表明は安倍・麻生両氏に対する忖度の結果と考える方が自然だろう。
これを受けて、野党議員の一部は「塚田氏の発言は明らかな利益誘導の暴露だから辞任で済むわけではない」と息巻いている。確かに、状況から見るにその恐れが全くないとは言えないだろうが、個人的には、塚田氏が持ってもいない権力を過大に見せる為についた嘘という側面の方が妥当性が高いように思える。政権へのダメージに転換したいと考えれば前者の恐れを重視するという判断になるのだろうが、果たしてそれが有権者にどう見えるかも考えた方が良さそうだ。
自分はそうは思わないが、無党派層の一部にも「野党はなんでもかんでも政権批判に繋げようとする」と思っている者がいるのも事実だろう。そのようなことを考慮すれば、政権へのダメージなどを必要以上に重視せず、選挙活動の中で嘘をつく政治家がいることを強調しておく程度にとどめておく方が、統一地方選、そして参院選の為になるのではないかと考える。