北朝鮮がミサイルを再び発射した事が話題になっている。便宜上「ミサイル」と書いたが、ハフポスト/朝日新聞の記事を始めとして、メディア各社は概ね「飛翔体」呼んでいる。ただ、昨夜(5/4)頃から産経新聞「発射は戦術弾道ミサイルか 北朝鮮、国連決議違反の疑いも」など、の記事も掲載し始めた。
といっても、これらの記事でも「ミサイル」とは断定しておらず、断定的な表現はあくまで「飛翔体」で、何かが発射されたが、それが何かは定かでないというニュアンスだ。これはあくまでメディア各社のスタンスなのだが、各方面への配慮が感じられる表現だ。
メディアが何かに配慮して「飛翔体」という表現を用いているのは十中八九間違いない。果たしてメディアがそれに配慮したかどうかは定かでないが、北朝鮮ミサイル発射の一報を聞いてまず思い浮かんだのは、そのおよそ4時間前に行われた、堀江 貴文さんが創業したインターステラテクノロジズによる、日本初の民間開発ロケット打ち上げの成功だった。インターステラテクノロジズのロケット打ち上げは5/4午前5時45分頃(ハフポスト)、北朝鮮がミサイルを発射したのは同日午前9時6-27分頃だそう(BBC)。
北朝鮮も日本でのロケット打ち上げに合わせてミサイルを発射したわけではなさそうだし、メディアもその絡みで「飛翔体」と呼んでいるわけではないだろうが、一時期北朝鮮はロケット/人工衛星の実験と称して頻繁にミサイルを発射していた時期があったので、2つの関連性を検討せずにはいられなかった。因みに、紹介したBBCの記事では、5/4の時点で「北朝鮮が短距離ミサイル発射、1年5カ月ぶり」と、発射された物体を「ミサイル」としており、やはり日本のメディアが何か(何かは定かでないが)に配慮していることが窺える。
また自分はこの北朝鮮ミサイル発射のニュースを見て、
「次は私の番」が口癖の男は、「次」がまだ実現しない口実が出来たと、「嘘つき」呼ばわりされる要素が一つ減らせたと、今頃別荘で内心安堵しているかもしれないとも思った。 その男とは勿論、3/1の投稿で触れた男で、この連休を山梨の別荘で過ごしたというあの男のことだ(時事通信「安倍首相、別荘で静養入り=外交・参院選へ英気」)。彼が嘘つき呼ばわりされてしまう理由については、4/2の投稿や4/12の投稿で示しているので割愛する。
北朝鮮がミサイルを発射した翌日・5/5の夜に、共同通信は「正恩氏、日本人拉致と対話言及「いずれ安倍首相と会う」」という見出しの記事を掲載した。記事によると、2月末の米朝首脳会談で、金正恩氏がトランプ氏に「日朝間の懸案として日本人拉致問題があるのは分かっている。いずれ安倍晋三首相とも会う」と言ったのだそう。しかしこの記事の情報源も、4/29の投稿「「米、WTO抗議の日本を全面支持」の信憑性」と同様に日本政府関係者である。つまり、見出しだけでなく記事の本文でも
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が2月末にベトナムで開かれた米朝首脳再会談で、拉致問題に言及していたことが分かった。「日朝間の懸案として日本人拉致問題があるのは分かっている。いずれ安倍晋三首相とも会う」とトランプ米大統領に語っていた。トランプ氏はこのやりとりを首相に伝えている。と、かなり断定的に書かれているが、記者は北朝鮮側やトランプ氏側に何かを確認したわけではなく、「…と日本政府関係者が言っている」という話だ。
こんなまた聞きのような話をこれ程断定的に書き、そして断定的に見える見出しを掲げても大丈夫なのだろうか。今の首相や政府は前述のように嘘に塗れている。嘘は言い過ぎでもミスリードは枚挙に暇がない。なのに話のソースは日本政府関係者だけしかソースがないのに断定的に報じている。北朝鮮が発射した物体については「飛翔体」と濁して表現する一方で、信頼感の薄い政府の関係者からの伝聞だけで、その話の内容を「分かった/語っていた」などと断定的に報じるのを目の当たりにすると、何への配慮がされているのか推測できる。
というか、こんな風に断定的な記事を書く共同通信も、政府方針に積極的に加担しているとも言えそうだ。更に、この配信を基にした記事を掲載している新聞社もいくつかある。メディアのメインストリームがネットに移行しつつある今、新聞やテレビなど既存メディアの、それに対抗し得るアドバンテージの一つには、確実に信憑性があるだろうが、こんな裏取りしたのか怪しい記事を書いているようでは、自らそのアドバンテージを捨てようとしているようにも感じられてしまう。
なぜそんなにこの記事の内容に懐疑的になるのかと言えば、3/1の投稿「前回以下の内容だった米朝首脳会談」でも書いたように、会談を行った当事者のトランプ氏は、会談後一切拉致問題に関して言及しておらず、それはもう一方の当事者である金正恩氏も同様で、「拉致問題が議題に上がった」と言っているのは、当事者ではない日本首相と政府関係者だけだし、更に言えば、会談直後に「拉致問題が議題に上がった」という話が出てたのに、2か月以上も経ったこのタイミングで、なぜ、金正恩氏が「日朝間の懸案として日本人拉致問題があるのは分かっている。いずれ安倍晋三首相とも会う」 と言っていた、なんて話が唐突に出てきたのか、がとても不可解だからだ。
政権の積極的支持者らからは「外交上の機微に関わる話だから不思議はない」などの声も聞こえてきそうだが、もしそんな話が本当にあったのだとしたら、「次は私の番」と言うのなら「金正恩氏も意欲を見せている」などと、親トランプ姿勢の成果を強調しそうなものだし、本当に「次は私の番」と思っているのなら、その話をさっさと公にして相手に直接交渉を促しそうなものでもある。つまり、
- 日本政府関係者という信頼性に欠ける情報源しかないこと
- 不可解なタイミングで出てきた今更感の強い話であること
ここからはあくまで私見である。なぜこのタイミングでこんな話が出てきたのか、端的に言えば、それは面子を維持したいという思惑からではないだろうか、と考える。
日本の現首相・政府は親トランプ姿勢が強く、米朝首脳会談に関しても一貫して期待を示し、その結果を高評価してきた。しかし2度目の米朝首脳会談は概ね不調に終わったという見方が支配的で、しかも会談後たった2か月強のタイミングで北朝鮮が再びミサイルを発射するという事態になっており、これまで示してきたトランプ政権への高評価姿勢に疑念が生まれかねない状況になったと言えるだろう。だから米朝首脳会談の高評価姿勢が間違っていない事をアピールする為に、北朝鮮がミサイルを発射した翌日というタイミングで共同通信の記事のような話が出てきたのではないか。
ミサイル発射からおよそ1日半後にこの話が出てきたという点も、日米間での話の摺合せに要した時間とも考えられる。米側も、少しでも米朝首脳会談の低評価化を避けたいだろうし、日本と米国のどちらからこんな話が出たのかは定かでないが、共同通信の記事の情報源が日本政府関係者しかなく、米政府筋などに裏取りをしたという記述がないことから考えれば、恐らく日本側発の話だと推測できる。
この自分の推測が正しいとは言わないが、それでも、米朝会談で拉致問題が話題に上ったということについて、これまで日本政府関係者からの情報しかない点はかなり不自然だ。なぜ記者は、そして記事を掲載するメディアは、当事者(米政府関係者や北朝鮮政府関係者)、若しくは日本政府関係者以外の他のソースへの取材を試みずに、断定的な記事が書けるのだろうか。以前からNHK政治部の報道には強い疑念を示してきたが、他のメディアも既に政府広報化が進んでいるのかもしれないと危惧してしまう。
これでは、フェイクニュースが今後さらに幅を利かせるような状況にもなりかねない。