今日の午前、政府は参院選の日程を閣議で決定したそうだ。’19参院選の日程は7/4公示・7/21投開票(毎日新聞)。ただこの日程に関しては、既に数週間以上も前から予想されていた。先週末頃から各地で立候補者のポスターを張る選挙用掲示板が設置され始め、それを紹介するNHK青森の記事「選挙用掲示板 設置始まる」には、
いつもなら明示されている投票日が掲示板になく、青森市選挙管理委員会では、日程が確定したあと、掲示板にシールを貼って対応することにしたということです。とあるが、SNSなどを見ていると、真偽は定かではないが、逆に7/21投開票を印刷してあって、それをシールで隠して決定後に剥がして日程が表示されるようしてあるというケースもあったようで、予定が予定通り決定に変わった程度の話だ。
選挙になると、どこが優勢劣勢という話以上に、毎度話題になるのが投票率の話である。前回の国会議員の選挙・’17衆院選の投票率は53.68%、’16参院選は54.70%だった。総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」によれば、平成以前は大体70%前後の投票率があったが、平成以降は投票率が低下し、近年は50%台で推移している。
この約30年間で例外的に投票率が高ったのが’05衆院選と’09衆院選だ。投票率が67.51%だった’05衆院選は俗に郵政選挙と呼ばれており、参議院で郵政民営化法案が否決されたのを受けて小泉首相が衆院を解散して行われた、ある意味で自民対自民のような選挙だった。この選挙の結果、小泉チルドレンと呼ばれた議員が多数当選したことからも分かるように、小泉 純一郎氏の人気による投票率の高さだったといっても過言ではない。
その’05の投票率を上回る69.28%という投票率を記録した’09衆院選は、’05衆院選で当選した議員の任期満了によって行われた選挙で、自公から民主への政権交代が実現した。Wikipeiaの当該ページ:第45回衆議院議員総選挙では、当時の争点として
- 自公連立政権の継続か、民主党中心の政権に政権交代するか
- 麻生内閣の信任
- 小泉構造改革路線の総括
- 年金記録問題
一方で参院選は、’89に投票率65.02%を記録して以降60%を上回ったことがない。参院選が政権交代と直結しない選挙だからかもしれないが、それでも衆院選の投票率が高かった’05/’09前後の、’07/’10参院選の投票率はやや高めの傾向だった。’07参院選は民主が勝利を納めた選挙で、政権交代の足掛かりになったと言われているし、’10は逆に民主党政権下で安倍総裁率いる自民党が勝利を納めており、やはりこちらも自民が政権を奪還する足掛かりになった選挙とされている。このような傾向から素人が短絡的に考えると、
と言えるのではないだろうか。しかも、参院選は政権選択に直結する選挙ではないが、確実に政権の将来を大きく左右する側面がある。投票率が高くなれば野党が有利になる可能性が高い
このグラフは前述の総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」に掲載されているものだ。’95参院選は44.52%と、現在と比較しても更に低い前代未聞の低投票率を記録した選挙である。衆院選の投票率が大きく下がったのも同時期だ。原因は政治全体への不信とされている。所謂55年体制の中で長年対立する構図だった自民党と社会党(と新党さきがけ)による連立政権・村山内閣の下で行われた選挙だった。日本の低投票率化、つまり政治への無関心が顕著になったのは、どう考えても昭和-平成移行期に自民政権下で起きた汚職・リクルート事件/佐川急便事件などで政治への不信感・失望感が増大したことによるもので、更に、イデオロギー的に相容れない筈の自民党と社会党が連立を組むという、政局ばかりを重視したようにしか見えなかった動きもそれに拍車をかけたと言えそうだ。
しかし前述のように、選挙は投票率が下がれば現政権と与党に有利になる傾向にあり、政治不信が広がり投票率が下がると時の政権に有利になるという矛盾した傾向があるようにも思える。但しあまりに不信が広がれば政権交代につながるのも明らかで、両方を勘案すると、現在の安倍自民政権は「改竄/隠蔽/捏造/不適切廃棄/記録をそもそも残さない」という政治不信を招く状況を露呈し、政治・行政への失望感を滲ませつつ、その一方で、官僚に責任を押し付けるなど様々な方法で積極的な支持者の維持にも努めており、つまり、現政権は半ば意図的に政治への失望感を煽り、低投票率を狙って政権の基盤を維持する方針のようにも思える。
勿論そんな指摘をしても当事者が認める筈もないが、投票率と結果の関係性を見ているとそんな風にも思えてくる。
全体の投票率の低さもさることながら、若年層の投票率の低さも選挙の度に危惧する声が上がる。全体の投票率が高かった’05/’09衆院選以外の20代投票率は軒並み30%台で、最も低かった’95参院選では25.15%しかなかった。
若年層の票の掘り起こしに現在最も力を入れているのは間違いなく自民党だろう。これまで20歳以上だった選挙での投票の権利を18歳以上に拡大した、所謂18歳選挙権の制度は、2016年に現安倍自民政権下で成立した。更に、中身はスカスカでイメージばかりを重視したプロパガンダの様相を呈しており、決して好ましいとは思えないが、5/3の投稿で取り上げた #自民党2019プロジェクト は露骨なまでに若者をターゲットとした宣伝戦略だ。首相が「桜を見る会」や芸能人との会食等、関係性の近さをSNSで頻繁にアピールする(5/25の投稿)のも、政治への関心が高くない層、つまり概ね若者へ向けた宣伝戦略と言えるだろう。
彼のツイッターアカウントは、彼が掲げる「女性活躍」「働き方改革」などに関する社会問題に触れることは殆どない。彼のSNSでの投稿は、芸能人に限らず「こんな外国の要人に会いました」がかなり多いし、政治や社会問題とはあまり関係ない「日本人スポーツ選手の活躍を応援しています」系の投稿も比較的多い。野党政治家はSNSで主に自分達の政治的な立場・思想信条を発信している。それに対して、勿論自民党の政治家にも政治的な内容重視でSNSを利用している者もいるが、自民党の政治家は政治に無関心な者に向けて、話題作り・瞬発的なBuzz(拡散)で知名度向上を狙う投稿に力を入れている者が多い。その顕著な例が、最近ツイッターの利用法が変わったと一部で話題になった甘利氏で、「そんな投稿する余裕があるなら、睡眠障害という口実で逃げ回った口利き疑惑についてちゃんと説明しろ」という批判があるにもかかわらず、そんな事は気にせずに、お笑い芸人の真似をする投稿や、若者向け・お茶目なおじいちゃん的イメージを狙った投稿を繰り返している。傾向が変わった6/1以降は政治的なツイート/リツイートがない。
今の傾向に変わった6/1の彼の投稿には、
甘利です。— 甘利 明 (@Akira_Amari) 2019年6月1日
総理がSNS上手なので、もうすぐ70歳ですが、SNS頑張ってみようと思います。
皆さん、アドバイス是非ください。
最近は毎日若いスタッフにSNSを教えてもらってます😃#甘利です pic.twitter.com/mp9sQtWrMQ
とあり、つまりこの傾向は安倍氏に倣ったものだと言っている。このような政治とは無関係なSNS投稿で話題を集める手法は、6/23の投稿で触れた河野外務大臣なども同様で、つまり自民党では、少なくとも党の中枢では、SNSは政治に関心が低い層への知名度アップの為に活かす方針であることが分かる。
自民党のこの方針は、これまでも再三指摘してきたように、イメージだけで政治が動くことになりかねない恐れを孕んでおり、オリンピックや制服、中身は殆どない扇動的で高揚感だけを煽る演説など、イメージ性重視の政治を展開した悪名高きナチス党を連想してしまう為、ナチスがそうやって集めた支持をどのように悪用したかを考えると、決して自分は自民党のそれを支持容認する気にはなれない、というか断固否定したい気分ではあるが、世論調査などでの政党支持率を見る限り、それはある程度成功しているのだから、逆に野党ももっと政治に関心が薄い人達への知名度・好感度アップに努めなくてはならないと感じる。つまり、若年層の支持を掘り起こす努力で言えば、確実に自民党の方が一枚上手であると言えそうだし、野党は若年層の支持を取り付ける努力が足りないとも言えそうだ。
昨日・6/25日にBuzzFeed Japanは「なぜ20代は「選挙」に行かないのか。投票の大切さを解説するイラストが話題。」という記事を掲載した。
選挙についてぼやきます。 pic.twitter.com/5psSrAh6Hx— たきれい (@takirei2) 2019年6月23日
というツイートに関する記事だ。端的に言えば
という内容だ。若者の投票率が上がれば、若者向けの政策が増える。若者の投票率が低い限り、若者向けの政策が軽視される状況は変わらない
自分は大学生の頃、原付スクーターで片道約25kmの距離を1時間以上かけて通学していた。法定速度が30km/hの原付だと、幹線道路で流れに乗って走るとそれだけでスピード違反になり、幹線道路には速度違反取り締まりを主に行う白バイが多く、度々スピード違反で切符を切られていた。ある先輩に「原付の30km/h規制がキツい」という話をしたところ、その先輩に
原付乗りの多くが若者・しかも選挙権のない10代で、選挙権のある20代も投票しないから、原付の30km/h規制撤廃を公約に掲げる政治家が出てこねぇんだよ。おっさんやおばさんも通勤や買物で原付に乗るけどアイツらは乗っても駅やスーパーまで、10分かそこらの自転車感覚で、30km/h制限なんてキツくないし、乗る時間が短ければ幹線道路を走っても取り締まりに遭う率も低い。だから30km/h制限撤廃なんて必要ないし、寧ろ「若者が事故るから余計なことするな」ってなる。原付30km/h規制が嫌ならまずは若者の投票率を上げるしかない。と言われた。確かにその通りだと思った。
今年の参院選には、立民から弁護士の亀石 倫子さんが立候補する予定である。彼女はクラブで客にダンスをさせる営業をめぐる風営法違反事件を担当し、2016年に最高裁判所で無罪を勝ち取った。またタトゥー彫師医師法違反事件でも弁護を担当し、一審では有罪判決を受けたものの、高裁では無罪判決を勝ち取った(検察が上告した為、現在は最高裁で係属中)。つまり、野党も若者向けに全く何もしていないわけではなく、若者の支持を取り付けられそうな候補を擁立はしている。
彼女は選挙のスローガンに「自由に生きちゃダメですか」を掲げ、ハッシュタグ #自由に生きちゃダメですか も使ってSNS上でアピールを行っているが、現在ハッシュタグを用いた投稿は80件程度しかないようだ。やはり前述のように、政治・選挙にあまり関心のない層へのアピールとしては不十分なように思える。果たして自民党の若者の向け戦略追従が功を奏すかは分からないが、それでも世論調査の結果が概ね実態と大きく乖離していないとすれば、現在自民が行っている「政治性の薄いプライベート感覚のSNS投稿で親近感を演出する」という方向性に、野党の政治家らも多少は寄せる必要があるのかもしれない。勿論自分は全ての政治家のSNS投稿を統計的に観察したわけでもないので、何が正しいのかなんてことを言える立場では全くないが、選挙の相手が相手だけに、野党側も馬鹿正直に政権・自民の批判に主眼を置いてアピールするだけでは、若者や無党派層の支持を充分に取り付けることは出来ないのではないか。
ここまでの話をまとめると、
- 選挙を野党が有利に進めるには投票率の向上が不可欠
- 投票率向上には若者・政治に関心が薄い者へのアピールが不可欠
- にも拘らず、野党はその層へのアピールで自民に負けている
- このままだと投票率が上がっても野党の好成績とはならないかもしれない
今朝、蓮舫氏の
— 蓮舫・立憲民主党(りっけん) (@renho_sha) June 25, 2019
というツイートを見て、
そこは自分の写真じゃなくて、政策の内容を感じさせるさわりをまとめたフリップにしないと、自分大好き首相のSNSみたいに見える。文字数にもまだ余裕があるのだから、その画像を使うならせめて文字で内容のさわりを書かなければ、興味喚起・リンククリックに繋がらないのではと感じた。 しかも当該ページを見ても、まるで行政が作ったような抑揚のない平坦な印象で、大事な部分の文字を太字にする、字下げをして強調するなどの工夫も見られない。与党と違い、政治的な内容でのアピールに注力しているはずなのに、立民はまだまだSNS/Webを使ったアピールが下手だと言わざるを得ない。資金面で弱かろうが、敵のよい部分を真似たり、工夫することはいくらでも出来るだろう。
参院選の争点に「年金問題への対応」「消費増税の是非」「現政権の経済政策の評価」等を上げる政治家/政党が野党には多いが、それ以前に、たとえ現政権や首相が主体的に関わっていなくても、こんなに頻繁に「改竄/捏造/隠蔽/不適切廃棄/記録を残さない」が起きる政権に行政運営能力なんてあるわけない。1、2件程度ならまだしも頻繁に複数起きる政権など今までにあっただろうか?首相は「悪夢の民主党政権」と繰り返すが、民主党の体たらくさなんて目じゃないのが今の政権である。しかも、現政権は脱官僚主導を目指した官邸・政治主導の政権運営らしいが、何かあった時の責任だけは確実に官僚主導だ。 実務が官僚主導で責任は政治主導ならば「大臣がコロコロ変わる」のはおかしいという話も分かるが、「実務を政治主導に変えた」と自負するのに、責任は官僚に取らせるのには大きな矛盾がある。つまり政策の内容よりももっと根源的な点で、現政権と、それを正そうともしない与党自公には政権運営の資質が備わっているとは言えないと断言したい。
だから立民ら野党には、硬軟織り交ぜたアピール方法をもっとうまく使いこなし、まずは次の参院選で、確実にねじれ状態を作れるような活動を積極的に行って欲しい。