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何を以て「信を得た、理解を得た」と言っているのか


 土曜の宮迫田村会見(7/21の投稿)を受けた、よしもと岡本社長の会見が昨日あったそうだ。そちらの中身についても言いたいことはあるが、自分が指摘したい点は大体ハフポストの記事「「全員クビ」⇒「ええ加減にせえ」の意味。宮迫・田村の3つの告発を吉本興業側が釈明」にまとめられていて、端的に言って「典型的なパワハラ上司の言い訳じゃねぇか」としか思えなかったし、他でも山ほどツッコまれているからお任せすることにする。
 個人的には、昨夜の報道番組が、前日の参院選にまつわる話とよしもとの会見のどちらを重視した放送になるのかにも興味があった。複数の番組をチェックしたわけではなく、昨晩見たのはTBS・News23のみだが、参院選関連はおよそ10分+1分、よしもとの会見は約15分と、よしもとの会見の方に時間を割いていた。参院選の+1分は、番組終盤の街頭インタビューコーナー・異論反論オブジェクションのテーマが「低水準に終わった投票率についてあなたはどう思いますか?」だったので付加した。


 個人的な感想は「News23ですらこれか…」だ。確かに前日山ほど時間を割いて開票特番を放送していたことも勘案する必要はある。しかし、冒頭のイメージで示したように、得票率や投票率に関する比較、今後の各党の展望等伝えるべきことはいくらでもあるだろう。
 芸能関連のニュースの価値は政治の話よりも総じて低いとは言わない。今回の件は、コンプライアンスの問題やパワハラやブラック企業などの問題にも絡む話で、ワイドショーだけでなく報道系の番組でも取り上げるべき案件だろう。しかしそれでも、前日に国政選挙があったにもかかわらず、それに関する話題よりも時間を割いているのはバランスがよいとは思えない。今日だって多くのワイドショーが同時案に山ほど時間を割くことは分かり切っている。ならば報道番組は政治や選挙に重点を置くべきではないのか。
 昨晩のNews23では、6月から番組のキャスターになった小川 彩佳さんが、冒頭で選挙関連の話を扱った際に「投票率低かったですね。私もお伝えの仕方で考えなければならないところがあるのかな?と個人的には思うのですが」と、終盤の異論反論オブジェクションを受けて、再び「発信の仕方もね、我々色々工夫して行かなければならないですね」と言っていたが、果たしてその思いは番組制作側と共有できているのだろうか。


 少し前置きが長くなったが、今日の本題は昨日の投稿に引き続き投票率の問題と、そして得票率にまつわる話だ。

 自民党の甘利選対委員長は、選挙の結果を受けてラジオ番組で
 消費税率の引き上げについては人口減少に対応するためにいちばん大事な子育て支援に充てることで、医療、年金だけでなく、子育てにも取り組むという説明をし、間違いなく受け入れられた
と発言したそうだ(NHK「自民 甘利選対委員長「消費増税 間違いなく受け入れられた」」/ スクリーンショット)。
 安倍首相もNHKの開票特番の中で、
 「増税を掲げて与党で過半数を取るのは至難の業だ」とみなに言われたが、今回、(消費増税について)国民の皆さんのご理解をいただけたと思っている
と発言したそうだ(NHK「消費税率引き上げ「国民のご理解いただけた」安倍首相」/ スクリーンショット)。
 更に昨日の、参院選の結果を受けた自民党本部での記者会見でも、
 この選挙の最大の争点は『政治の安定』だった。連立与党で71議席、改選議席の過半数を大きく上回る議席をいただいた。安定した政治基盤の上に新しい令和の時代の国づくりをしっかり進めよとの力強い信任をいただいた
と述べたそうだ(産経新聞「【参院選・首相会見】安倍首相「令和の時代の国づくりへ信任いただいた」」)。




 昨日の投稿でも書いたように、今回の参院選で自民党は議席を減らし、憲法改正を争点に掲げていたにもかかわらず、単独過半数も改憲の発議に必要な改憲勢力で全体の2/3の議席数も維持できなかった。但し、今回の参院選後の情勢は以下の通り(BuzzFeed Japan「選挙、ざっくりこうなりました。」より)である。議席は減ったが、それでも他党に大きく差をつけた多数を占める参議院与党の座にあることには変わりがなく、彼らが「信を得た」「消費増税に対する理解を得た」とするのが、あまりにもおかしいとは言い難い。


 しかし、時事「1強自民、3割台を維持=立憲は減少-比例得票率【19参院選】」によれば、自民党の比例代表での得票率は35.4%だそうだ。東京新聞「<参院選>自民、選挙区勝ったけど 全有権者2割支持 議席占有は5割超」によると、全有権者数に対する自民党の絶対得票率は18.9%だったそう。
 2月に行われた、普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対する賛否についての県民による投票、所謂辺野古移設の是非と問う沖縄県民投票の結果を受けて、下地 幹郎という維新所属の衆院議員がツイートで示した見解が「ミキオ算」と呼ばれて話題になった。沖縄県民投票については2/25の投稿に詳しい数字を掲載してあるのでそちらも参考にして欲しい。


 彼の論法で考えると、自民党支持者はたった18.9%、非自民党支持者は81.1%となり、どう見ても安倍氏や自民党は「国民の信を得た、消費増税に理解を得たとは言えない」ということになりそうだ。
 これはあくまでも下地氏の示した考え方であって、自民党や安倍氏が示した考え方ではないのだが、実は安倍氏も同じ様な論法を、「都道府県の6割以上が新規隊員募集への協力を拒否している悲しい実態がある」という話で用いている(2/15の投稿)。


 現在の選挙制度は死票が多く発生する仕組みの為、少ない得票で多くの議席が獲得できるのは当然で、それがおかしいと思うのならば選挙制度改革を訴えるべきだろうが、世間一般的にそのような機運が高まっているとは思えないし、野党も、積極的に選挙制度の不備や改革の必要性を訴えていたようには見えなかったので、安倍氏や自民党幹部らが今回の選挙結果を受けて「信を得た、理解を得た」と言うのを全面的に否定するわけにも行かないだろう。
 しかしそれでも勘案しなければならないのは、冒頭に掲げたイメージで示した参院選の得票率と沖縄県民投票の反対票の割合の比較だ。


 参院選の結果・投票率48.8%、自民党比例得票率35.4%で、安倍氏や自民党幹部らは「信を得た、理解を得た」と胸を張っている。しかし一方で、沖縄県民投票はそれを遥かに上回る、投票率52.5%、反対票の割合71.7%という結果だったのにもかかわらず、彼らはその結果を無視し、未だに辺野古移設工事の中止はおろか一時中断すらしていない。この2つの判断はどう考えても大きな矛盾を孕んでいるとしか言えない。しかも、沖縄では昨年行われた県知事選、そして4月の衆院補選、更に今回の参院選でも、辺野古移設反対を表明した候補が当選しており、「沖縄県民が辺野古移設工事を望んでいる」のは誰の目にも明らかだ。
 今回の選挙で安倍氏や自民党が「国民の信を得た、消費増税に対する理解得た」と言うのなら、沖縄県民投票結果を沖縄県民の民意と認め、直ちに移設工事を中止、少なくとも一時中断すべきだろう。でなければ、彼らは自分達に都合のよい民意は、それを示した有権者の割合が低くても認め、都合が悪ければ、それを示した有権者の割合が多かろうが無視すると言われて当然だ。


 菅官房長官は7/22の会見で、参院選沖縄選挙区で、辺野古の新基地建設に反対する高良 鉄美氏が当選したことについて問われ、
 地元の理解を得る努力を続けながら普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現し、基地負担の軽減に努めたい。そのために全力で取り組む
と述べた。これを琉球新報は「選挙結果に関わらず基地建設を進める考えを示した」と伝えている(「菅官房長官、選挙結果にかかわらず辺野古移設進める考え」)。



 実際には、菅氏が「選挙結果は関係ない」という直接的な発言をしたわけではなく、琉球新報の見出し・記事はややミスリードを誘発するニュアンスのようにも思えるが、菅氏は聞かれたことに明確に答えていないので、実質的には「選挙で誰が当選しようが方針は変えない」と言っているのも同然であり、琉球新報の見出しや記事は全く不正確とは間違っても言えない。
 やはりここでも感じるのは、安倍氏を筆頭に、今の政府関係者や自民党幹部らは、息をするように恣意的な解釈をする人達だ ということだ。


 昨日次のツイートがタイムラインに流れてきたのだが、


 このツイートを見て思ったのは、
 国会だけでなく参院選の開票速報を見ていても、筋の通らない話や、質問に答えず言いたいことしか言わない政党幹部が目立った。特に与党、特に自民党の幹部に。それでも積極的にツッコまないメディア関係者って一体何がしたいの?
ということだ。せっかく政治家らを直接追及できる数少ないチャンスなのに、話の不備を積極的に指摘するアナウンサー/記者/ジャーナリストの少なさが目立ったのは、今のテレビ報道の状況がそのまま反映されているようにしか思えなかった。あれでは官邸や与党に忖度する記者クラブの記者たちを批判することすらできないのではないか。

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