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香港情勢から考えるべき2つのこと


 6月から毎週末続く香港のデモ・抗議活動6/10の投稿でも書いたように、香港議会で検討された、容疑者の身柄を中国本土へ移送できるようにする「逃亡犯条例改正案」への抗議がその発端だ。香港政府の林鄭 月娥(キャリー ラム)行政長官は、これまでに何度か条例改正案の失効を口にしているが(逃亡犯条例の改正、事実上廃案=撤回や辞任は言及せず-香港長官:時事ドットコム 6/18 / 逃亡犯条例「改正案は死んだ」=反対派は抗議継続-香港:時事ドットコム 7/9)、完全な撤回について言及しておらず、再検討が危惧されるとして、香港市民の抗議が毎週続いている状況である。
 この週末もデモが予定されていたが、不可解にもこのタイミングで、2014年に起きた普通選挙を求めた反政府デモ「雨傘運動」を主導した学生団体の当時のリーダーらが逮捕され(香港、民主活動家ら相次ぎ逮捕=「緊急条例」示唆も-デモ隊、さらに先鋭化の恐れ:時事ドットコム)、また当局が許可しなかったこともあってデモを計画していた団体は中止を発表したが、結局それでも自主的なデモ活動が起こり、この週末も各所で抗議活動が行われた香港、無許可で大規模デモ=一部過激化、警官隊は催涙弾:時事ドットコム)。


 逮捕されたリーダーらは即日釈放されたが、逮捕された内の1人・周 庭(アグネス チョウ)さんは、これまでも逮捕されたことはあったものの、今回初めて起訴されたと明かした(周庭(アグネス・チョウ)氏「香港政府は、市民の訴えに耳を貸そうともしない」 | ハフポスト)。ハフポストの記事は、記事内でも説明があるように、周さんのこのツイートを元にした内容である。


周さんは、日本のアニメやアイドル、バラエティ番組などが好きで日本語を覚えたそうで、このツイート以外にも日本語でのツイートをしばしば行っている。
 彼女が何故日本語でツイートするのかと言えば、香港の現状を日本人にも知って欲しい、香港の自由と民主主義を守る為に日本人にも共感を示して欲しい、 直接的でなくとも、何かしらの後押しをして欲しいと考えるからだろう。自分は香港に行って何かをする余裕はないが、香港の現状に強い違和感を覚えるし、国や民族性は違っても、誰かが権利を奪われるのを何も言わずに見過ごす気にはなれない。だからこうやってこのブログで香港の件を取り上げる投稿を書いている。


 しかし、周さんには本当に申し訳ないが、日本語で日本人に共感して欲しい、何かしら援助して欲しい訴えたところで、充分な効果が上がるかと言えば、むなしさだけが残る結果になるのではないか?とも思っている。周さんは前述のツイートの中で「市民の訴えには耳を貸そうともしない、これが香港政府です」と訴えているが、日本政府も市民の訴えには耳を貸そうともしない政府であり、多くの日本人がそれを支持しているからだ。
 その典型的な例が沖縄の基地問題だ。沖縄県民は、昨年の知事選、そして2月の県民投票、更に4月の衆院補選と、この1年間に辺野古への普天間基地移設に反対する姿勢を3度も、しかも明確に示している。知事選・衆院補選では明確に反対を掲げた候補が当選し、県民投票でも反対がそれ以外を大きく上回っている。にもかかわらず、日本政府は移設工事の中止はおろか、一次停止すらしようともしない。明らかに沖縄県の民意を無視していると断定できる。そもそも、辺野古への移設工事反対の沖縄県の民意は、それ以前から再三に渡って示されてきた。しかし、工事を止めようとしない政権を構成する自民党へ、選挙の度に多くの日本人が票を投じてきた。つまり、日本の有権者の大半は、自民党に投票することによって現政権を信任し、間接的にかもしれないが、政府が沖縄県の民意を無視することを再三に渡って容認してきた。それは7月に行われた参院選でも同じだった。
 自国内のある地域の民意を無視することを厭わない日本の国民に、「香港政府は香港市民の民意を無視する、それでいいのか!」と訴えたところで、果たして共感が得られるだろうか。個人的には期待は薄いとしか思えない。しばしば「日本人は親切」という話を耳にするが、そのような点では日本人は本当に冷たい。冷たいというかかなり権威に弱く、「お上が言うことなら仕方がない」と考える人の方が多いのではないか。もし多くの日本人が、周さんの呼びかけに応じて香港の現状に疑問を呈したとして、ではなぜ同じ様に沖縄県民を無視する自国政府には異議を唱えないのか、という話にもなる。


 この話を少し視点を変えて見ると、なぜメディア、特にテレビ報道は、香港政府が香港市民の民意を無視し、警官が強引な態度に出る様子と、日本政府が沖縄県民の民意を無視し、警官らが強引に抗議者たちを排除する様子を関連付けられないのだろうか。更に言えば、日本でも、政府を批判する声を上げただけで警察官に取り囲まれ、強制的に排除される事案が複数発生していること(7/17の投稿6/10の投稿)と関連付けて報じないのだろうか。自分には、メディア・特にテレビ報道は、政府に忖度して関連付けた報道を自主規制しているとしか思えない。
 香港の件は決して対岸の火事だとは思えない。香港ではかなり多くの市民がデモに参加している一方で、日本では民意を無視する政府が支持されてしまっている。今はまだ日本の方がマシだが、日本の状況の方が将来的には危ういかもしれない。だから一昨日の投稿「中共化する日本の政治と社会」では、日本政府が徐々に強権化しており、このままでは将来的には中国共産党化するのではないか、という危惧について書いた。また、昨日の投稿「付和雷同:自分にしっかりした考えがなく、他人の意見にすぐ同調する様」にも似たような懸念が含まれている。
 昨日の投稿で、付和雷同しているとしたのは主に一般市民だが、投稿を紹介するツイートでは、
 日本のTVは、韓国のGSOMIA破棄の合理性の低さばかり強調し、日本側の優遇措置撤回W国除外の妥当性、他国は日本の主張する韓国の安全保障上の懸念に同調していないことは殆ど取り上げない。これでは、日本のメディア・特にテレビ報道は、確たる信念もなく、政府に忖度し、付和雷同しているだけと言われても仕方がないのではないか。
 テレビ関係者は「自分達は中立的立場を維持しているだけ」と思っているのかもしれないが、政府に都合の悪いことも報じて初めて中立と言えるのではないか。
とし、つまり現政権に流され付和雷同しているのは一般市民だけでなく、メディアも同様ではないのか、と書いた。


 数か月続く香港の抗議活動、それに対する香港の政府の対応を見て、日本人が考えた方がよいことは主に2つある。まず、どんな些細なことでもいいので、香港の自由と民主主義を守る支援策を考えて実行すること、そして、香港の現状を反面教師として受け止め、自国の現状と照らし合わせて考えることだ。自分だけがそんなことをしても…と思う日本人は割合多いだろう。香港市民だってそれは同じだが、多くの人がデモに参加することによって、取り敢えず逃亡犯条例改正案の議論を止めることだけには成功している。
 それは個人個人がそれぞれ心掛けて欲しいことでもあるし、メディアには忖度・付和雷同を止めてそのようなことをもっと後押しして欲しい。でなければ日本も将来的に香港のようなことになり、その先にあるのは中国のような社会、ということにもなってしまいかねない。
 「日本が香港のようなことになるはずない」「万が一そうなったら、その時に抗議すればいい」と思っている人もいるだろう。しかし香港の現状を見ればわかるように、そうなってから抗議して、正常な社会を取り戻すのは並大抵ではない。どう考えてもそうなる以前に予防するのが得策である。反面教師とはそういう事を指している。


 トップ画像は、Yinan ChenによるPixabayからの画像OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像etherielによるPixabayからの画像 を加工して使用した。

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