以前から様々な指摘があったにもかかわらず、政府/文科省が強引に推し進め、2020年度から導入しようとしていた、大学入学共通テストで英語の民間試験を活用する制度は、10/30の投稿でも書いたように、萩生田文科大臣の「自分の身の丈に合わせて(試験を受ければよい)」という発言によって、更に注目が集まって批判が高まり、11/1に導入の延期が発表されるに至った(英語民間試験の導入延期=24年度に新制度実施-「ご迷惑掛けた」萩生田文科相謝罪:時事ドットコム)。
2020年度の大学入試共通テストでは、英語民間試験だけでなく国語と数学の試験で記述式問題が導入される予定だったが、これについても様々な指摘があった。萩生田氏は、採点ミスが生じる懸念に関しても、「採点ミスをゼロにすることは難しい」などと、導入が既に決定している制度の担当大臣として、あまりにも無責任な発言をしていた(文科大臣「ミスゼロは難しい」 記述式問題の採点 テレ朝ニュース)。
この発言は、与党からも導入を延期すべきだという指摘が挙がり始めたことを受けたもので、この発言と同じタイミングで萩生田氏は「記述式の延期は事実ではない」とも言っていたが、他にも「受験者の自己採点が難しく、願書出願の目安が分かり難くなる」などの指摘もあり、結局12/12には延期の方針が示され、12/17に正式に延期が発表されることになった。
国語・数学の記述式問題 公明党が導入延期を要請
大学入試の記述式試験 与党から「延期」の声
共通テストの記述式 萩生田大臣「延期事実でない」
記述式問題 導入延期 17日に文科省が発表へ
文科省や政府の面子の問題なのか、あくまでも白紙撤回ではなく延期である。香港では6月から反政府デモが続いている。文科省や日本政府のやっていることは、行政府に対して逃亡犯条例の完全撤回が求められていたのに、導入延期でお茶を濁そうとした香港当局/行政長官(9/1の投稿)と同種である。
大学入学共通テスト中止求め 高校生4万2000人署名
ANN世論調査 “国語記述式”問題 5割近く否定的
大学共通テスト 半分の大学が国語記述式を採用せず
12/17に国語と数学で記述式問題導入延期が正式に発表されたことを受けて、TBSの朝の情報番組・あさチャン!でもこれについて放送していた。次の動画は当該部分の抜粋である。
内容は概ね導入延期された制度について批判的なのだが、懸念を感じる部分もある。あさチャンでは、文科省幹部の示した、
森友加計問題など、相次いだ文科相の問題への対応で、充分議論ができないままここまで来てしまったという見解を紹介している。この直前には、2015年当時文科相だった下村氏が2020年実施という意向を示し、有識者会議で問題点が指摘されても、その流れが変わらなかった、ということも紹介しており、つまり2020年度導入ありきで検討が進められた結果、生煮えのまま導入が決まってしまった、という話のようなのだが、あさチャンは、この文科省幹部の見解の直後に、新たな大学入学共通テストが検討されていた当時、
野党側が大学入試担当の局長らを厳しく追求していたとし、あたかも野党が追求したことによって、充分な議論が出来なかったかのような印象を演出している。しかもそれに加えて、更に
大学入試の当事者である受験生が、政治と行政に翻弄され続けているとしており、スケジュールありきだったことだけでなく、野党が森友加計問題を追求したことも、受験生を翻弄しているかのような伝え方までしていた。
この伝え方は果たして妥当なのだろうか。前述のように、導入時期が先に決められてしまったことで議論が充分に出来なかった、というニュアンスも伝えてはいるが、文科省側、と言うか政府側が匂わせたかったであろう、森友加計問題追及の所為で充分に議論が出来ず、生煮えの制度の導入が決まった、というニュアンスを、無批判に、そしてその稚拙さも指摘せずに、そのまま伝えるのは如何なものだろうか。
そもそも、文科省で制度を議論していたのは大学入試担当の局長1人だけじゃない。その人物が森友加計問題への対応で忙しいのなら、別に担当者を設けるべきだし、森友加計問題が文科省の職員総出で対応しなくてはならいような問題で、充分な議論が出来なかったならば、2020年度の新制度導入は諦めるべきだった。つまり、森友加計問題で忙しくて充分な議論が出来ないなんて話は、責任転嫁も甚だしい、と批判すべきだろう。あさチャンの伝え方では、そんなニュアンスは微塵も感じられなかった。
因みに、TBSでは12/17の昼のニュースでも同じ件を報じている「“スケジュールありき”で受験生翻弄 TBS NEWS」。
こちらでも、あさチャン同様に前述の文科省幹部の「森友加計問題でー」という見解を紹介してはいるものの、見出しにもあるようにスケジュールありきが強調されており、野党が激しく追求した所為で…というニュアンスは殆ど感じられない。このことから考えれば、前日の昼のニュースを見た政府関係者からTBSへ何かしらの働きかけがあり、あさチャンでは「野党が追求した所為で」というニュアンスが足されたのかもしれない、若しくはあさチャンの関係者が、首相の示した
一昨年と昨年はモリカケ問題、今年の春は統計の問題、この秋は桜を見る会。政策論争以外の話に多くの審議時間が割かれてしまっていることを国民の皆様に大変申し訳なく思っておりますという話(“モリカケ”“桜”多くの審議時間、安倍首相「大変申し訳なく」 TBS NEWS)などに自ら忖度して、そのニュアンスを加えたのかも? などと想像してしまう。
昨日は、「森友文書、不開示は「違法」 大阪高裁が一審を変更:朝日新聞デジタル」など、森友学園問題に関して、国有地売却額や地中ごみの存在などが記された特約条項などを政府が不開示としたのを違法とする裁判結果を、複数のメディアが報じていたが、あさチャンでは、大学入学共通テストの話の中で森友学園問題に触れ、野党が追求したことにも触れたにもかかわらず、その裁判結果には一切触れていなかった。
この裁判結果に触れていないのはあさチャンだけでなく、この投稿を書いている時点では、TBS Newsのサイトにも全く記事が掲載されていないので、あさチャンだけが敢えて無視しているとは言えないかもしれない。しかしTBSは、英語民間試験導入延期発表直後の世論調査でも、
文部科学省は大学入試での英語の民間試験の活用について、来年度の導入を延期すると発表しました。あなたは今回の決定を支持しますか?支持しませんか?という設問を設けており、 11/11の投稿でも指摘したように、それは、あたかも「政府/文科省/文科大臣が英断を下した」かのような印象を誘導しかねない設問で、恐らくあさチャンの関係者の中にも、その設問に関わったようなタイプのスタッフがいるんだろうな、と思わざるを得ない。
最近は、TBSの夜のニュース番組・NEWS23が積極的に政府や首相の話の不備を指摘しているようで、「TBSの報道がまともになってきた」という声をSNS上でしばしば見かけるようになったが、今朝のあさチャンを見る限り、決してそう断定できるものではない、というのが自分の受け止めだ。
大学入試制度改革については、かなり前から採点業務委託を落札したベネッセグループと、政府関係者に癒着があるのではないか?という話が挙がっているが、自分の知る限りテレビ報道でそれに触れられているのを見たことがない。そんなことからも、そして前述のいくつかの話からも、政府と癒着があるのはTBS(というか、どの局)も同じなんじゃないだろうか?と想像してしまう。
- 共通テスト記述式の採点、ベネッセグループが落札:日本経済新聞
- ベネッセ「ペーパーカンパニーではございません」 記述式採点会社めぐる「疑惑」に反論 : J-CASTニュース
- 首相動静(12月17日):時事ドットコム
午後6時43分、東京・神田小川町の居酒屋「福の花神田小川町店」着。報道各社の首相番記者と懇談。
質問が来たのでお答えすると、今日の首相動静にある「報道各社の首相番記者と懇談」は毎日新聞は欠席しています。— 宮原健太 (@bunyakenta) December 17, 2019
個人的には懇談で首相の本音を聞き探ることも大事な取材の1つとも思いますが、社として欠席すると判断したとの事です。#桜を見る会 もまだ渦中にあり、判断を尊重したいと思います。