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溢れ、飛び散り、広がる


 新型コロナウイルスに関する、不安を煽る根拠に乏しいいい加減な情報、○○が効くという怪しげな予防法などがSNSを中心に飛び交っている。2/16の投稿でも書いたように、Buzzfeed Japanなど一部のメディアが検証を行っているものの、人は不安に滅法弱く、検証結果よりも怪しい情報の方が拡散する力を持ってしまう

 しかも更に悪いことに、神戸大学感染症内科教授の岩田 健太郎さんの指摘と、横浜港に停泊中のダイヤモンドプリンセス号の対応責任者・橋本厚労副大臣の不用意なSNS投稿によって、それ以前から海外メディアを中心に懸念が示されてはいたが、同船内の杜撰な感染管理が明白になった(2/21の投稿)。
 そしてその直後に、各国が脱出させた同船の乗客から感染者が複数確認され、
更に
という報道もなされた。
 現在こんな状況が発覚する直前に、加藤厚労大臣は、岩田さんによる、船内で感染の危険があるゾーンと安全なゾーンの区分けができていないという指摘に対して、
実際はしっかり行われている
と反論し(2/22の投稿)、菅官房長官も、
隔離は有効に行われてきている
と述べていた(2/21の投稿)。
 これでは「政府や厚労省の示す見解を信じろ」と言われても、多くの人は信用することなどできないだろう。また、新型コロナウイルスに関する件だけでなく、桜を見る会の問題に関する首相や政府関係者のいい加減で強引な主張や、森友学園に関する公文書改竄や加計学園に関して二転三転した政府側の答弁、自衛隊日報隠蔽、裁量労働制に関するデータ捏造、毎月勤労統計調査結果や外国人労働者受け入れに関するデータの粉飾等、現政府の主張に信憑性を感じられない根拠はいくらでもある。

 一部のメディアがデマ検証に力を入れても、最も信頼できる機関でなくてはならない厚生労働省という国の役所の長や、政権の顔役が実態に即しているとは到底言い難い見解を示しているのだから、不安を煽る根拠に乏しいいい加減な情報、○○が効くという怪しげな予防法などがSNSなどを中心に飛び交ってしまうのも、ある意味仕方がない。
 政府が信じられなければそういうことになってしまうし、しかも昨今はテレビや一部の新聞等、大手メディアの報道も信用ならない様相で、そんなこともその状況に拍車をかけていると言えるのではないか。


 Buzzfeed Japanは今日「ダイヤモンド・プリンセス号に乗った公衆衛生の専門家 「下船後に発症者が出るのは想定されたこと」」という見出しで記事を掲載した。


厚労省の要請でダイヤモンドプリンセス号へ乗船して支援に当たった、国際医療福祉大学の国際医療協力部長で、医学部公衆衛生学教授の和田 耕治さんへのインタビュー記事である。和田さんは「ウイルスに感染する可能性のあるところと、ないところのゾーニングはきちんとなされていたか? 」という問いに対して、
船内の感染を抑えるための防護策は現場では行われていました。
としているが、 「にも関わらず、乗客もクルーも厚労省や内閣官房の職員もDMAT(災害派遣医療チーム)も感染したのはなぜ?」と問われると、
感染予防策を100%に徹底するのは訓練された医療従事者でも難しい
としている。この後に「朝電車に乗って来て会社に着いてすぐに手を洗う人は、10人中数人しかいないのではないか」という例を挙げているが、問いは厚労省や内閣官房の職員もDMATにも感染が広がったことを指摘している。つまり対象を一般化し過ぎている。厚労省や医療関係者に手洗い等を徹底させることも出来ないのに、「感染防止策はとられていたが、やることやっても感染は広がる」と開き直っているように聞こえる。
 また彼は
検査の感度(陽性者を正しく発見する割合)も100%ではありません。偽陰性の人が下船した可能性はありますが、そうだとしてもウイルス量の少ない無症候性の感染者ですから、他の人に感染させるリスクは低いものと考えます
とも言っているが、既に日本のあちらこちらから感染経路の特定できない感染者が複数報告されているのに、こんな見解に信憑性が感じられるだろうか。自分は全く感じることができない。
 率直に言って、同船で支援に当たった当事者による責任逃れ、言い訳のようなインタビュー内容だとしか思えなかった。インタビューの後半には理解出来る内容もあるが、それ以前の内容がとても無責任に感じられる為、全然賛同する気になれなかった。


 このインタビュー記事を書いた岩永 直子さんは、この記事をツイッターで


と紹介している。このツイートで言及されている高山医師とは、沖縄県立中部病院の高山義浩(感染症内科)さんのことだ。彼も和田さんと同様にダイヤモンドプリンセス号にて対応に当たっていた人物である。ツイートにあるように、高山さんはBuzzfeed Japanの取材依頼に対して「本部の人間だから難しい」とし、代わりに和田さんがインタビューに応じたようだが、2/23の日経の記事「下船の日本人が陽性 専門家「帰路の感染リスク低い」 (写真=共同):日本経済新聞」では、

  • 船内での検査が陰性で無症状だったので、帰路で他人に感染するリスクは極めて低い
  • ほとんどの方は感染していないでしょう。しかし発症する方が出る可能性はある
  • 検査の感度が100%ではなく、船内の感染対策にも限界があった
  • 日本の法体系では帰宅後に2週間の外出自粛をお願いすることが法的な限界であり、今回のウイルスに対しては感染対策としても十分
など、Buzzfeed Japanの記事で和田さんが示したのとほぼ同じ見解を示している。同じ様な立場にある医師2人なので、同種の見解が示されることには何も不思議はない。個人的には高山さんの示した主張も、和田さん同様同船で支援に当たった当事者による責任逃れ、言い訳のような話にしか聞こえない。
 彼らの示す見解に更に不信感を覚えるのは、高山さんが「本部の人間だから」という理由でBuzzfeed Japanの取材を断っているのに、日経の取材には応じている点だ。例えば、高山さんが「多忙なので、全ての取材には対応出来ない」として、和田さんをBuzzfeed Japanへ紹介したのなら理解も出来るが、「本部の人間だから」という理由であるメディアの取材は断るのに、他のメディアの取材には応じているのだから、彼の主張はそういう恣意的な面があるんだろう、と思わざるを得ないし、彼と同種の見解を示している和田さんにも不信感を抱いてしまう。


 もしかしたら彼らは「過剰反応を抑制したい」という思いからこのような見解を示しているのかもしれないが、感染拡大に繋がらないとされ同船から下船させた乗客の中から複数の感染者が報告され、また、感染経路の特定できない感染者が多数日本中で報告されており、そんな状況で、しかも何週間も同船を隔離した後に「やることやっても感染は広がる」と開き直っているようにも見える主張をされたら、逆に不安を煽ることになるのではないか。
 個人的には、新型コロナウイルスが確認された当初、
人から人への感染は確認されていない
 とし、厚労省も「過剰な心配は必要ない」としていたが(中国で謎の肺炎 厚労省「過剰な心配は不要」 帰国者に症状申告呼びかけ - 毎日新聞)、


数週間も経たぬ間に人から人への感染が確認され、当時「過剰な心配」とされていたような心配をすることが必要だったことが明らかになったことも、人々の不安増大の原因になっていると考える。
 「人から人への感染は確認されていない」 ではなく、「人から人への感染する恐れもあるが、現時点では確認されていない」と伝えていれば、市民の間に「不正確な情報が流布された」という受け止めが広がるのを、いくらか抑制できていたのではないだろうか。

 つまり、過剰反応を抑えようとして過小評価していたことが発覚すると、もしそれが結果的にだったとしても、結局余計に不安を煽ることになってしまう


 トップ画像は、 不安を煽る根拠に乏しいいい加減な情報、○○が効くという怪しげな予防法などがSNSなどが、不安が溢れることによって飛び散り広がる様子を示唆しているが、それと同時に、過小評価や拡大防止の不徹底によって、感染が拡大している、という状況の示唆でもある。

  トップ画像は、Photo by Nathan Dumlao on Unsplash を加工して使用した。

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