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新型コロナウイルスによって混迷が極まる過程を考える


 Buzzfeed Japanは昨日も「「トイレットペーパーの生産が滞る」は誤り SNS上で拡散…根拠のない噂で品薄が現実に」という記事を掲載していた。2/16の投稿でも書いたが、このコロナ騒動が始まって以来、根拠に乏しい噂の検証に余念がない。彼らは以前からWeb上に広がりを見せる怪しい話の検証、所謂ファクトチェックに力を入れてきたが、最初の新型コロナウイルス関連ファクトチェック記事「新型肺炎でデマ拡散「中国人が関空から病院に搬送、検査前に逃走した」は事実無根「USJと京都に向かった」と広がる」を掲載して以降は、検証記事のほぼ全てがコロナウイルス関連だ。

 2/16の投稿で列記したように、その時点で既に無数のいい加減な言説が広まっていたことも勘案し、2/15にBuzzfeed Japanが掲載したコロナウイルス関連ファクトチェック記事「「武漢で死体を焼やすと発生するガスが大量検出」は誤り。新型コロナめぐり世界で拡散」を読んで、
中国で流行しただけでこれだけ流言飛語が飛び交うなら、いよいよ国内での感染が複数確認され始めたのだから、飛び交う流言は今以上に量が増えそうだ。
ツイートした。それまでは日本国内で確認されていた感染例は、横浜港に停泊中のクルーズ船と、武漢からの帰国者ぐらいだったが、その頃から徐々に国内の感染例が報告され始めた。

 それから約2週間が過ぎたが、その間にクルーズ船から下船した人の中に未検査の人がいたことが発覚したり、陰性として下船した人からの感染が報告されたり、そもそもクルーズ船の杜撰な管理体制だったことが発覚したり、クルーズ船に関わった厚労省職員や医療関係者からも感染者が出たり、国内各所で感染経路の特定できない感染者が複数報告され始めたり、明らかに状況は悪くなっている。


 このブログでも、この数日ずっと新型コロナウイルスに関する投稿を書いている。何故ならそれぐらい状況が混沌としているからだ。この混迷を極める状況の最も大きな原因は何か?、それは各種プロセスの不透明さと、「過剰な心配は必要ない」という種の啓蒙が、ことごとく短期間に覆ることへの不安だろう。

 今の政府はこれまでも数々の改竄捏造隠蔽事案を起こしてきたし、今もまだ桜を見る会の問題や検事定年延長問題で、全くプロセスの不明瞭な、小学生でも分かるくらい強引な説明、というか最早言い逃れと断定しても言い過ぎではないような主張を繰り返している。そんないい加減なことをしてきた政府が、更に深刻で大きな問題である新型コロナウイルス対策だけは誠実に対応する、と一体どれだけの人が認識するだろうか。多くの人は「あいつらはいつも都合の悪いことを隠しているんだから、今回だってそうするに違いない」と考えるだろうし、そう考えることは決して不自然とは言えない。

 2/27の投稿の中で、Buzzfeed Japanの記事が「日本で検査が少ないのは政府が感染者数を少なく見せたいからだ」という陰謀論が広まっている、と書いていることに触れたが、その後、

【新型コロナウイルス】厚労省が政権に忖度か 感染者急増の北海道で“検査妨害”|日刊ゲンダイDIGITAL

岡田晴恵教授 PCR検査に持論「論文がどうだとか、業績がどうだとかということよりも人命を…」― スポニチ Sponichi Annex 芸能


などの話も出てきている。検査妨害が本当にあったのだとしても、政府が感染者数を少なく見せたいから、という理由による妨害なのかは定かではないが、現時点でこれを「陰謀論」と切り捨てることもまた早計ではないか?と自分には思える。

 また、2/24の投稿で書いたように、Buzzfeed Japanは「ダイヤモンド・プリンセス号に乗った公衆衛生の専門家 「下船後に発症者が出るのは想定されたこと」」という記事も掲載している。「下船後に発症者が出るのが想定されていたなら、そもそもクルーズ船を数週間も隔離していた意味は何だったのか?」と言いたくなって当然ではないだろうか。2週間の検疫期間で経過を観察し、感染がないと確認してから下船させる為の措置だったのではないのか。
 Buzzfeed Japanがファクトチェックに力を入れており、その大部分は頷ける内容であることは認めるが、一方でこのような記事を掲載していると、それらの記事の信憑性を疑われることにもなるのではないだろうか。比較的良心的な記事を掲載すると感じられるメディアにも「混迷」した状況がある、と感じさせられる。


 「過剰な心配は必要ない」という種の話が短期間に覆ると、それを聞いた人見た人は余計に不安を掻き立てられる、ということについては、1月初旬の時点で厚労省が「今のところ人から人への感染は確認されていないことから、過剰な心配は必要ない」としていたが、数週間も経たぬ内にヒトヒト感染が確認され、当時過剰な心配とされていた心配が実際は必要だった、ということによって、厚労省や政府発表の信憑性が失われる結果に繋がっているという例で、2/24の投稿でも書いた。
 勿論他のメディアでも同様の報道がされていたが、Buzzfeed Japanも「中国で発生している原因不明のウイルス性肺炎 冷静に正しい情報を」という記事を1/9に掲載していた。記事には
人から人への感染は確認されておらず、今のところ感染力はそれほど高くないと見られています。
とある。確かにその時点では全く嘘ではないし、勿論記事の意図は、不確定な情報に振り回されず、冷静に正しい情報を確認していくことが大切だ、ということを伝えたい、だったことは分かるが、結局人から人への感染し、クルーズ船の状況を考えれば、相応の感染力があることが後に明白になり、この種の記事を読んだ人は、「話が違うじゃないか」「過小評価するな」という気持ちにさせられただろう。

 どうもこの、過剰反応を抑制しようという意図で発表された話が短期間に覆ると、人は余計に不安になり、更なる過剰反応を引き起こしかねない、ということを、政府や報道機関だけでなく、WHOもよく分かっていないようだ。WHOは、2/5の時点では

WHO、新型肺炎「パンデミックではない」 (写真=ロイター):日本経済新聞


という見解を示し、2/25には

新型コロナ「パンデミックの状況にない」 WHO事務局長 中国の新たな感染者減根拠に - 毎日新聞

現時点で、新型ウイルスは世界中でまん延しているわけではなく、大規模な重症疾患や死亡例は確認していない。新型ウイルスが、パンデミックとなる可能性はあるのか?間違いなく、ある。だがわれわれの評価に基づくとその状態には至っていない
今、パンデミックという言葉を使うのは事実にそぐわないどころか、 恐怖を引き起こすだろう。
とした。2/25の見解では、「パンデミックとなる可能性はあるのか?間違いなく、ある」としているものの、各種メディアで強調されたのは、記事の見出しのように「パンデミックという言葉を使うのは事実にそぐわない」ということだった。

 しかし、昨日は「WHO事務局長「新型ウイルス、パンデミックの可能性」 各国に一段の警戒要求 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト」という報道がなされた。


東京新聞:<新型コロナ>WHO「危険性最高」 評価引き上げ 感染55カ国・地域に:国際(TOKYO Web)」が報じているように、55か国で感染が確認され、100人前後以上の感染者が出ている国が既に7か国、死者が出ている国も7か国に及んでいる


WHOはパンデミックの恐れには2/25の時点で既に触れていたのだが、報道ではそれが強調されてはいなかった。しかし状況の悪化を受けて、報道がそれを強調し始めた、というのが今の状況だ。但し毎日新聞のように、「新型肺炎 WHO危険性引き上げ パンデミックは否定」というような見出しで報じているメディアもある。
 このまま状況が推移すると、パンデミックという表現も使うべきでない、というWHOの示した見解の説得力が、結果的に疑われることにもなってしまう。もしそうなったらやはり、これまでの報道を目の当たりにしてきた人の中には、「話が違う」「騙された」と感じる人も少なくはないだろう。



 この投稿で槍玉にあげた専門家や、Buzzfeed Japanの記事、そして政府やWHOなど、日本の首相や大臣らを除けば、明らかな嘘を言っているとは言えないし、その時点では概ね間違いではないことを伝えていたと言えるだろう。しかし、短期間でそれが覆るようなことになれば、騙されたと感じる人は少なからず出てくるだろう。これは、専門家や政府・WHOだけでなく、メディア報道の伝え方の問題でもある。どんな人でも見出しにはやはり引っ張られてしまう。見出ししか読まない人も決して少なくない。内容だけでなく、正確な見出しを心がけることはとても重要だ。
 そのようなことによって不安と不信が醸成されることも、デマが広まるなど混迷が極まる大きな理由だと自分は考えている。一応付け加えておくが、日本においては、行き当たりばったりで量的にも質的にも不充分な対応しか政府や首相がしていないことも、混迷が極まる最たる理由だろう。


 トップ画像は、Photo by Hans-Peter Gauster on Unsplash を加工して使用した。

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