現自民政権の閣僚や与党政治家、その支配下にある官僚らの、都合の悪いことから逃れようとする際の常套句に「仮定の質問には答えない」がある、ということについて1/27の投稿で書いた。しかしそもそも政治とは、将来を予測して予算を組み政策を実施する、つまり仮定に基づいて行われるものであり、仮定の質問に答えないなら、そもそも議論など成り立たない、ということについても書いた。
一部のメディアが鉄壁だの安全運転だのと形容していた、前首相 安倍や当時の官房長官であり現首相 菅のそのような姿勢だが、菅が首相になって以来あまりにもそのセリフを口にし、しかし一方でGotoキャンペーン再開を念頭に置いた予算案が組まれたことに対して、都合が悪い時は仮定の質問に答えないと言いつつ、自分達に都合がよければ仮定のことを論じるじゃないか、という批判がやっと、ようやく高まった。その所為か、この頃は菅や周辺も「仮定のこと…」というセリフを殆ど口にしなくなっている。
しかしその代わりに「承知していない」というセリフが用いられている。例えばオリンピック組織委会長 森の女性蔑視発言について、瞬く間に国内外で話題になったにも関わらず、官房長官の加藤は会見で「森会長の発言内容の詳細について承知していない」と述べたし(2/4の投稿)、首相の菅も、当初は「発言内容の詳細については承知していない」と言っていた。
森会長発言「詳細を承知していない」と菅総理|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト
2/4の投稿でも書いたが、「森発言の詳細は承知していない」とは、国内のみならず国外でもすでにかなり大きな波紋を呼んでいたのに、日本政府は森の当該発言を調べようともしていなかったということであり、つまり森の発言を問題視しないと言っていたも同然である。その時点で発言の詳細が殆ど明かされていなかった、というわけでもなかったのだから、必然的にそうなる。
このように、都合の悪いことについて「承知していない」と言って逃げるのは、端的に言って悪手でしかない。論理的思考ができる者なら簡単にそれに気付くことが出来るはずだ。しかし何故か日本のメディアでは、そのような批判が殆ど起きない。菅ら政権関係者のみならず、メディア関係者、特に政治部も同レベルであると思わざるを得ない。
このところ、総務省幹部4人が菅首相の長男が勤める東北新社から接待を受けていた問題が、メディアや国会で取り沙汰されている(菅義偉首相の長男と総務省幹部の会食 接待禁止対象の「利害関係者」に当たる疑い:東京新聞 TOKYO Web)。菅はこれまでも、息子は別人格である、と言い張り知らぬ存ぜぬという態度を示してきたが、昨日の衆院予算委員会の審議の中で、長男の勤務する東北新社の事業内容についてや、総務省側から見て利害関係者にあたるかなどを、立憲 近藤議員から問われ、菅は「利害関係者かどうかは承知していない」と述べた。
14:20 立憲の近藤和也氏は、総務省幹部が菅義偉首相の長男ら放送関連会社側から接待を受けていた問題を追及。この会社の業務内容を知っていたか、利害関係者かどうかについて菅首相にただした。これに対し、首相は「利害関係者かどうかは承知していない」と答弁。https://t.co/kZ1KnvXovr
— 南 彰 / MINAMI Akira (@MINAMIAKIRA55) February 15, 2021
成人している息子と自分は別人格である、という菅の認識は、それだけを考えれば決しておかしいとは言い難い。しかしそれでも、菅はこの件と全くの無関係とは言えない。何故なら、菅の長男が東北新社に勤務しておらず、別の者が総務省幹部を接待していたとしても問題性を孕んでおり、菅は首相として、そのような中央官庁が絡む不正に対して積極的に対応をする必要のある立場である。
つまり菅は、接待に息子が絡んでいたか否かに関わらず、接待した側と総務省が利害関係者だったかどうかを、積極的に把握する必要のある立場なのだ。にもかかわらず、菅は「利害関係者かどうかは承知していない」と言っている。ということは菅は、当該事案をそれ程問題視していない、と言ったも同然であり、菅の息子が絡んでいたか否かは別としても、それだけで首相として、というか政治家として資質に欠けていると言っても過言ではない。
そのようなことに鑑みれば、菅や政府は、この件でも「都合が悪いから承知したくない」と言っている、と受け止められて当然だ。
現政権が都合の悪いことから目を背けがちであるのは、Gotoキャンペーンが感染を拡大させたエビデンスはない、のようなことを、積極的に調べもせずに言っていたことからも明らかだ。感染を拡大させたという証拠がないのに、なぜ政府はGotoキャンペーンを停止したのか。全く矛盾している。
2/13の23時過ぎに、宮城県沖で発生した最大で震度6強を観測した地震が発生したが、その地震の発生後、またしても外国人が悪事を働くなどの差別的なSNS投稿が一部でなされた。
地震でまたも飛び交ったデマや差別発言 桁違いの拡散、どう対処? - 毎日新聞
しかし今回も、首相や政府からのそのような行為への積極的な牽制は示されなかった。昨年・2020年1/28の投稿、6/13の投稿でも書いたように、川崎市にある多文化交流施に「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」と書かれた手紙が届いたことが問題になっても、当時首相だった安倍も、官房長官だった現首相の菅も、一切差別や蔑視に対する苦言を示していない。
大きな地震が起きる度に、外国人が悪事を働くなどの差別的なSNS投稿が一部でなされているのに、今回もまた首相や政府から積極敵な意思表示はない。恐らく菅や現政権関係者は、なぜ差別や蔑視を否定しないのかと問われたら、恐らく「そのようなことは承知していない」と述べるだろう。
相応の立場にある者が、問題を指摘されていることから目を背けるのは、実質的には黙認しているのと同じである。例えば、そのような差別的な投稿がなされるのが今回初めてであれば「承知していない」という話も分からないでもないが、実際はそうではないのだから、「承知していない」は問題視していないと同義であり、差別に対する感度の低さの証拠でもある。
差別や蔑視への積極的な対応というのは、首相や政府が行って然るべきことであり、実際に話題になっているにもかかわらず、積極的な調査、積極的な否定をしないという時点でアウトだ。
トップ画像には、かわいいフリー素材集 いらすとや の素材を使用した。