イメージと実態が異なるたとえでよく言われるのが、「優雅に見える白鳥も水中では激しく足をバタバタさせて泳いでいる」という話だ。しかし実際は、白鳥は足をバタつかせて泳いだりしない。白鳥は見た目通り泳ぎも優雅である。それは動画などで確認すれば一目瞭然だ(白鳥の泳ぐ時の脚 - YouTube)。
つまり、「優雅に見える白鳥も水中では激しく足をバタバタさせて泳いでいる」という話こそが実態とは異なるイメージである。この話は何とも逆説的で興味深い。イメージが実態に即しているのか、何ごとも出来る限り自分の目と耳などで確認することが大事である。
プロフィールで「新聞記者。社会部の調査報道班に所属しています」としている Hiroki Fujikawa というツイッターアカウントがある。プロフィールにある著書やこれまでのツイートなどから判断するに、東京新聞記者・藤川 大樹のアカウントだろう。彼が2/5にこうつぶやいていた。
今朝の社説は森氏発言の問題の本質を突いている。
— Hiroki Fujikawa (@1980daiju) February 4, 2021
<女性蔑視にとどまらず、開かれた場での議論を尊ぶ民主的なルールにも反する。会議で参加者が意見を述べるのは当然だ。森氏発言の根底にあるのは、事前の根回し通りに事を進めたいとの思考だろう。密室での打ち合わせは権力者の独善に陥りやすい> https://t.co/dy6afLDpcV
確かに、2/5の東京新聞の社説「女性蔑視発言の森喜朗氏 五輪の顔として適任か:東京新聞 TOKYO Web」は至極真っ当である。藤川記者の「今朝の社説は森氏発言の問題の本質を突いている」という評価も妥当である。そこには全く異論はない。
また、東京新聞 電子版なるツイッターアカウントは同じ2/5にこうツイートした。
今朝の東京新聞は、多くのページにわたって、「わきまえない紙面」になっています。
— 東京新聞 電子版 (@TokyoshimbunApp) February 5, 2021
森氏の発言が、時代遅れであるにとどまらず、東京五輪が一体、誰のため、何のための大会なのかも問うています。
よければご購読ください。https://t.co/j9j0YMBJIP
▼2月5日東京新聞朝刊 pic.twitter.com/X6G8xd7R8U
ツイートにある「わきまえない紙面」とは、オリンピック組織委会長の森が「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」と述べた、女性蔑視発言の中で、
私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。みんな競技団体からのご出身であり、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですから、お話もシュッとして、的を射た、そういう我々は非常に役立っておりますが。
とも述べていたこと(2/4の投稿)に由来する。森のこの発言は、組織委の女性は(立場を)わきまえているから余計なことを言わない、と解釈され、つまり組織委の女性は忖度してくれる、と言っていると捉えられている。恐らく森にそう指摘しても「そのような意図はない」と言うのだろうが、これまでの森の女性蔑視発言に鑑みれば、そのような解釈が妥当で、単に森の本音が漏れただけであり、都合が悪いので「意図はない」と言っているに過ぎない、という評価が妥当だろう。昨日の投稿で触れた、BSフジ出演時の森の発言も、そのような評価を裏付ける要素だ。
このような評価を背景に、ツイッターで #わきまえない女 というハッシュタグが出来た。忖度せずにしっかりと主張をする女性 という意味でこのタグは用いられており、東京新聞の「わきまえない紙面」とはそれに因んだ表現だ。
しかしその一方で、東京新聞編集局なるツイッターアカウントは同じく2/5に、「森喜朗会長の女性蔑視発言「日本の男女不平等を世界に発信」JOC山口香理事も批判:東京新聞 TOKYO Web」という記事を紹介する、
森喜朗氏が女性蔑視とも受け取れる発言をしたJOCの臨時評議員会は、女性理事の積極的な任用についても議論していました。各競技団体などで女性役員を増やすことが求められる中、山口香理事は「日本はまだ男女平等が進んでいないと世界に発信してしまった」と残念がります。https://t.co/KOMJo6Tdqo
— 東京新聞編集局 (@tokyonewsroom) February 4, 2021
というツイートをしている。2/4の投稿でも指摘/批判したが、この期に及んでまだ「森喜朗氏が女性蔑視とも受け取れる発言をした」なんて書いているのだ。当該記事の中にもこのツイートと同じ文章がある。それの一体どこが「わきまえない紙面」なのだろうか。
前述の同日の社説は確かに評価に値する内容ではあったが、その一方で「女性蔑視とも受け取れる発言」などと書いていれば、そのような社説にも説得力はなくなる。なくなるは言い過ぎでも間違いなく低くなる。
因みに東京新聞編集局は同じく2/5に
菅義偉首相は4日の衆院予算委員会で、政府の新型コロナウイルス対応などをただす野党に対して低姿勢で応じる場面が目立ちました。不用意な答弁で失点するのを避けようと、安全運転に徹した形です。 https://t.co/KFIIla5vQo
— 東京新聞編集局 (@tokyonewsroom) February 4, 2021
ともツイートしている。紹介している記事「窮地の菅首相、低姿勢に 野党にも「意見受け止める」 協調姿勢を強調:東京新聞 TOKYO Web」の中でも当然
不用意な答弁で失点するのを避けようと、安全運転に徹した形だ。
と書いている。アルバイトや入学試験の面接なら、聞かれたことに積極的に答えようとしなければそれだけで失点となり、不採用/不合格になる(1/14の投稿)。菅のそのような姿勢を東京新聞(の木谷 孝洋)は「安全運転」と書いているわけだ。東京新聞の安全運転の認識はかなり歪んでいると言わざるを得ない。これも「一体どこがわきまえない紙面なんだ?」とツッコミたくなる一因である。
そもそも、2/4の投稿で書いたように、当初この件を報じたのは朝日新聞だけだった。朝日が報じて大きな波紋を呼ぶと他のメディアも取り上げ始めたが、「性差別か?」「女性蔑視ともとれる発言」とボカした表現が多用され、積極的に批判する姿勢は海外メディアよりも明らかに低かった。その段階で既に東京新聞も「わきまえない紙面」ではない新聞だったのだ。
しかしそれでも、東京新聞などはまだマシなのである。この投稿で指摘した東京新聞と同様に、新聞各社は社説以外で殆ど自主性のある批判を展開していない。しかし上西 充子さんのツイートによると、2/5の社説で毎日新聞、朝日新聞、日経新聞は森発言を取り上げたが、読売新聞と産経新聞は取り上げなかったそうだ。読売は2/6の社説では森発言を批判しているようだが、所謂後手後手感が否めない。
更に、プチ鹿島さんのツイートによれば、2/6の各紙のトップは
- 朝日『入院待ち、解消できるか』
- 読売『緊急事態 一部解除判断へ』
- 毎日『森会長擁護 世間とズレ』
- 産経『ワクチン 病院で個別接種も 自民PT提言案』
- 東京『首相長男の接待問題 「官僚の忖度」追及』
- 日経『半導体 「持たざる経営」転機』
だったようだ。昨日の投稿で書いたように、2/4の夜、BSフジの番組で「自分の発言に問題はないがいちいち説明するのも面倒なので撤回して詫びてやった」と言っているも同然の発言を森が行い、しかも #DontBeSilent #GenderEquality #男女平等 というハッシュタグを用いた、欧米各国大使館や国連機関などが抗議をし始めているというのにだ。
確かに新型ウイルスの問題や汚職疑惑なども決して軽視できない話だ。しかし、欧米各国の大使館や国連機関などから批判・指摘・抗議が起きていて、最早国際的な問題になっている件をあまりに軽視してはいないだろうか。
一応注釈しておくとトップ記事にならなかっただけで、全く森発言の件が扱われていないわけではないが、それでも自分には、日本メディアの女性蔑視や性差別、というか差別全般に対する意識の低さが、2/6のトップ記事が何だったか、そして未だに社説以外ではボカした表現を用いていることなどに滲み出ているように思える。
これが昨日の投稿で書ききれなかったことだ。やはり日本のメディアは総じて低レベルと言わざるを得ない。投稿序盤でツイートを紹介した東京新聞記者・藤川記者が2/4に、
「〇〇新聞は」というレッテル貼りもやめてほしい。 https://t.co/GPihIZS7Wt
— Hiroki Fujikawa (@1980daiju) February 4, 2021
とツイートしている。彼が何を「レッテル貼り」としているのか定かでないが、同じ○○新聞という看板を背負っている以上、○○新聞がレベルの低い記事を掲載すれば、「○○新聞は」と言われてしまうのは当然のことだし、メディア全般に概ねの傾向があれば、「日本のメディアは」と言われるのも当然だろう。
「○○新聞は」「日本のメディアは」と一括りにされたくないなら、まずは同じ業界に属する者が積極的に業界内のおかしなところを指摘し批判する自浄作用を発揮すべきだ。そんな様子もないのに「一括りにするな」と言われても全然説得力がない。
トップ画像は、 S. Hermann & F. RichterによるPixabayからの画像 を使用した。