スキップしてメイン コンテンツに移動
 

鉄腕アトムとは一体誰のもの?

 通っていた小学校の図書室には、手塚治虫全集だか名作集だかがあった。80年代後半の時点で、既に学校の図書室に漫画があったのだ。といっても、置いてあったのはそれと「はだしのゲン」、そして源氏物語を漫画化した「あさきゆめみし」だけだったが。


 記憶はあまり定かでないが、全集という程、手塚作品が網羅されていたわけではなかったと思う。でも、「火の鳥」や「ブラックジャック」「アドルフに告ぐ」などを読んだ記憶がある。どういうチョイスで選ばれていたのかはよく分からないが、単純な娯楽作品ではなく、社会問題や歴史に関連のある作品が選ばれていたのだろう。いま振り返るとそう感じる。
 図書室で手塚漫画を手に取ったきっかけは、当時大流行していたファミコンだった。1986年に「火の鳥 鳳凰編」がアニメ映画化され、それを基にゲーム化したのがファミコン版「火の鳥 鳳凰編 我王の冒険」で、友達の家にそれがあった。それで遊んだのをきっかけに、図書室で漫画を読んだ。ゲームやアニメの原作・鳳凰編だけでなく、他のシリーズ作品も、そして前述の「ブラックジャック」や「アドルフに告ぐ」も。

 幼い頃から社会問題や歴史に関連する手塚作品を読んでいたこともあって、昨日は愕然とさせられた。愕然とさせられた理由はトップ画像で示した通りだ。

 説明の必要はないかもしれないが、手塚 るみ子は手塚 治虫の娘であり、現在は手塚プロダクションの取締役でもある。手塚 るみ子の一連のツイートは、5/8の投稿で取り上げた、池江 璃花子のSNS投稿と何も変わらない。いや、物言えぬキャラクターが、あたかもそう思っている、言っているかのように転嫁していることを考えれば、池江のそれよりも更に悪い。

 G7後の開催地・イギリス コーンウォール、サッカー南米選手権後のブラジルで感染者が急増したこと、そして、現在開催中のサッカーUEFA欧州選手権を、ロシアで観戦したフィンランドサポーターのうち、約300人が帰国後の検査で陽性だったことも報じられている。フィンランドの地元メディアによれば、6/22に約3000人の観戦者が開催地サンクトペテルブルクからフィンランドへ戻ってきたが、混雑と交通渋滞のため、税関職員は、バスで帰国した約800人をテストせずに受け入れたそうだ(ユーロ:ロシアから帰国したフィンランドの観客の間で約300件のCovid-19が発覚| HuffPostフランス)。つまり、フィンランドで発覚した陽性者300人は氷山の一角の恐れがある。
 日本の水際対策がザル以下であることは、6/25の投稿で取り上げた、陽性者が出たウガンダ選手団への対応からも明らかだ。また、日本政府はウガンダ選手団以外にもオリンピックの為に入国した人の中から陽性者が出ていたことを隠してもいた。
 そのようなことが分かっているのに、「今この状況になって開催に賛否があると思いますが、ビジネスとして役割を与えられた以上アトムは応援団として働きます」なんて言うのは、とんでもなく無責任であり、6/16の投稿でも書いたように、迫害や虐殺、強制収容所の実態に薄々気付いていながら目を背け、傍観者を決め込んでいてた当時のドイツ人と何も変わらないじゃないか、という感しかない。ナチのような独裁体制・恐怖政治が確立しているわけでもないのだから、当時のドイツ人よりも更に悪い。

 手塚 るみ子の「本当の気持ちなんてこんな場で言えるわけがない」というツイートにおける本当の気持ちとは、五輪開催に深刻な感染拡大の懸念があるのは分かっているが、お金の方が優先だから、契約破棄、使用許諾取り下げは出来ない、ってことなんだろう、としか思えない。
 もし手塚 治虫が今も生きていたら、娘と同じことを果たして言うだろうか。同調圧力フルな戦前社会の結果としての悲惨な戦争を体験した世代で、医師の資格を持ちブラックジャックという作品も手掛けた手塚が、感染拡大に深刻な懸念のある東京オリンピックを目の前にして、「今この状況になって開催に賛否があると思いますが、ビジネスとして役割を与えられた以上アトムは応援団として働きます」とか、「アトムに限らずキャラクター応援団として契約されたキャラクターたちは同じ立場でしょう。自分に与えられた仕事をします。出場選手たちを応援します。開催の賛否に彼らを巻き込まないであげて下さい」なんて言う筈がない、としか考えられない。


 鉄腕アトムとは一体誰のものなんだろう。鉄腕アトムをここまでの存在に育てたのは誰か。その主体が手塚 治虫であることは明らかだが、応援した多くのファンもアトムを育ててきたことは間違いない。そんなアトムを、感染症対策に反し強行されるオリンピックの応援に駆り出し、アトムだけでなく手塚作品全般を汚すなんて許されるんだろうか。作者の娘、手塚作品やキャラクターの権利を管理する組織でも、そんなことは許しがたい

 やっぱりオリンピックはカネ、かね、金だ。


このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「 Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer 」、1896年ドイツの、 資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画 である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである( 八時間労働制 - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。