通っていた小学校の図書室には、手塚治虫全集だか名作集だかがあった。80年代後半の時点で、既に学校の図書室に漫画があったのだ。といっても、置いてあったのはそれと「はだしのゲン」、そして源氏物語を漫画化した「あさきゆめみし」だけだったが。
記憶はあまり定かでないが、全集という程、手塚作品が網羅されていたわけではなかったと思う。でも、「火の鳥」や「ブラックジャック」「アドルフに告ぐ」などを読んだ記憶がある。どういうチョイスで選ばれていたのかはよく分からないが、単純な娯楽作品ではなく、社会問題や歴史に関連のある作品が選ばれていたのだろう。いま振り返るとそう感じる。
図書室で手塚漫画を手に取ったきっかけは、当時大流行していたファミコンだった。1986年に「火の鳥
鳳凰編」がアニメ映画化され、それを基にゲーム化したのがファミコン版「火の鳥
鳳凰編
我王の冒険」で、友達の家にそれがあった。それで遊んだのをきっかけに、図書室で漫画を読んだ。ゲームやアニメの原作・鳳凰編だけでなく、他のシリーズ作品も、そして前述の「ブラックジャック」や「アドルフに告ぐ」も。
幼い頃から社会問題や歴史に関連する手塚作品を読んでいたこともあって、昨日は愕然とさせられた。愕然とさせられた理由はトップ画像で示した通りだ。
手塚プロダクションはなぜこれを許したのだろう。 @musicrobita https://t.co/fuPL89eR9K
— 💫T.Katsumi #SaveLivesNotTheOlympics✊🏻 (@tkatsumi06j) June 27, 2021
キャラクター応援団は東京オリ・パラが決まった後、まだコロナの脅威など想像すらされてない頃に契約されました。当時は皆さんだって楽しみにしていたことでしょう。今この状況になって開催に賛否があると思いますが、ビジネスとして役割を与えられた以上アトムは応援団として働きます。 https://t.co/If2173uDQi
— 手塚るみ子 (@musicrobita) June 28, 2021
アトムに限らずキャラクター応援団として契約されたキャラクターたちは同じ立場でしょう。自分に与えられた仕事をします。出場選手たちを応援します。開催の賛否に彼らを巻き込まないであげて下さい。
— 手塚るみ子 (@musicrobita) June 28, 2021
本当の気持ちなんてこんな場で言えるわけがない。
— 手塚るみ子 (@musicrobita) June 28, 2021
説明の必要はないかもしれないが、手塚 るみ子は手塚 治虫の娘であり、現在は手塚プロダクションの取締役でもある。手塚 るみ子の一連のツイートは、5/8の投稿で取り上げた、池江 璃花子のSNS投稿と何も変わらない。いや、物言えぬキャラクターが、あたかもそう思っている、言っているかのように転嫁していることを考えれば、池江のそれよりも更に悪い。
#30日で中止になる東京五輪
— なすこ (@nasukoB) June 28, 2021
4日目 変異株の大祭典 pic.twitter.com/wRWioxe0Mz
G7後の開催地・イギリス コーンウォール、サッカー南米選手権後のブラジルで感染者が急増したこと、そして、現在開催中のサッカーUEFA欧州選手権を、ロシアで観戦したフィンランドサポーターのうち、約300人が帰国後の検査で陽性だったことも報じられている。フィンランドの地元メディアによれば、6/22に約3000人の観戦者が開催地サンクトペテルブルクからフィンランドへ戻ってきたが、混雑と交通渋滞のため、税関職員は、バスで帰国した約800人をテストせずに受け入れたそうだ(ユーロ:ロシアから帰国したフィンランドの観客の間で約300件のCovid-19が発覚| HuffPostフランス)。つまり、フィンランドで発覚した陽性者300人は氷山の一角の恐れがある。
日本の水際対策がザル以下であることは、6/25の投稿で取り上げた、陽性者が出たウガンダ選手団への対応からも明らかだ。また、日本政府はウガンダ選手団以外にもオリンピックの為に入国した人の中から陽性者が出ていたことを隠してもいた。
そのようなことが分かっているのに、「今この状況になって開催に賛否があると思いますが、ビジネスとして役割を与えられた以上アトムは応援団として働きます」なんて言うのは、とんでもなく無責任であり、6/16の投稿でも書いたように、迫害や虐殺、強制収容所の実態に薄々気付いていながら目を背け、傍観者を決め込んでいてた当時のドイツ人と何も変わらないじゃないか、という感しかない。ナチのような独裁体制・恐怖政治が確立しているわけでもないのだから、当時のドイツ人よりも更に悪い。
手塚 るみ子の「本当の気持ちなんてこんな場で言えるわけがない」というツイートにおける本当の気持ちとは、五輪開催に深刻な感染拡大の懸念があるのは分かっているが、お金の方が優先だから、契約破棄、使用許諾取り下げは出来ない、ってことなんだろう、としか思えない。
もし手塚 治虫が今も生きていたら、娘と同じことを果たして言うだろうか。同調圧力フルな戦前社会の結果としての悲惨な戦争を体験した世代で、医師の資格を持ちブラックジャックという作品も手掛けた手塚が、感染拡大に深刻な懸念のある東京オリンピックを目の前にして、「今この状況になって開催に賛否があると思いますが、ビジネスとして役割を与えられた以上アトムは応援団として働きます」とか、「アトムに限らずキャラクター応援団として契約されたキャラクターたちは同じ立場でしょう。自分に与えられた仕事をします。出場選手たちを応援します。開催の賛否に彼らを巻き込まないであげて下さい」なんて言う筈がない、としか考えられない。
鉄腕アトムとは一体誰のものなんだろう。鉄腕アトムをここまでの存在に育てたのは誰か。その主体が手塚 治虫であることは明らかだが、応援した多くのファンもアトムを育ててきたことは間違いない。そんなアトムを、感染症対策に反し強行されるオリンピックの応援に駆り出し、アトムだけでなく手塚作品全般を汚すなんて許されるんだろうか。作者の娘、手塚作品やキャラクターの権利を管理する組織でも、そんなことは許しがたい。
やっぱりオリンピックはカネ、かね、金だ。