法治国家とは、政治が法によって支配されている国、政治が法に基づいて行われている国のことだ。政治が法ではなく人によって支配されている国、政治が法に基づかずに個人や一部の人たちだけの判断だけで行われている国のことを、独裁国家・人治国家などと言ったりする。
ちなみに独裁と専制は異なる概念だそうで、専制は王や皇帝などによる支配で市民の政治参加がないのに対して、独裁は支配される市民の政治参加や積極的支持による体制なのだそうだ。
ただし、中国は共産党の一党独裁国家、北朝鮮は金一族による独裁国家と言われていて、共に一応形式的には民衆によって選ばれ続けているという体裁ではあるが、しかし実体は他の選択を許さないように市民を威嚇したり脅迫したりしているので、独裁の成立当初・初期は専制ではなく独裁だったとしても、独裁が長期化すれば専制化していく、と言えるだろう。
何にせよ、政治が法に支配され、権力が法によって制限され、好き勝手できないような状態が法治である、ということには違いない。アメリカは大統領に権力が集中しており、大統領は有権者によって直接的に選ばれることから、2期8年までという期限付きの独裁、なんて言われたりもするが、大統領は憲法や法律による制限を受けるし、全ての権限が大統領に集中するわけではなく、大統領ではなく議会にもいくつかの権限を分散させており、一般的なニュアンスにおける独裁とは異なる状態だ。
それと比較すると、議会制民主主義の形式をとっており、行政府のトップである内閣総理大臣が議会与党の中から選ばれ、内閣が議会与党議員で構成される日本の方が、行政府と立法府の癒着が生じやすいという意味では一党独裁になりやすい。現に日本では1955年以降から現在までの約70年間で、自民党が与党ではなかった期間はたったの数年間しかない。一応法の支配が存在する法治国家と言える状態ではあるが、政権交代が殆ど起きていないのだから、アメリカよりは確実に独裁に近い状態だったと言えるだろう。
ただそれでも2010年以前は、どの自民党政権も一応憲法を遵守していた、と言える状態であり、また少なくとも形式的には法に基づいて政治を行っていた、とも言えただろうから、中国や北朝鮮のような強権的な独裁とは異なる状態だった。
しかし2012年末に成立したアベ自民政府以降は、これまでどの政権も「日本国憲法では認められていない」としてきた集団的自衛権を、一方的に「日本国憲法でも集団的自衛権は認められる」と解釈変更、つまり憲法軽視/無視をやるようになり、公文書の改ざんや基幹統計データの捏造という法律無視、それに基づく法改正や法制定などを平気でやるようになっており、最早政治が法に支配されているとは言い難い状態になってしまっている。
つまり専制と独裁を区別する概念で言えば、今の日本は既に独裁状態にあると言えるし、政治が憲法や法律を軽視/無視しているのだから、法治国家の体をなしていないとも言える。
そんなことから、今日のトップ画像用に、2/20の投稿でも取り上げた、1980年代頻繁に放送されていた日本民間放送連盟の覚醒剤追放キャンペーンCMを模して、「自民党やめますか、それとも法治国家やめますか」というコピーに変えた画像を作った。
この画像を作ったのは、これまでにも何度も取り上げてきた、現政府や自民党が画策する、敵基地攻撃能力の保有と称する先制攻撃の正当化に関する動きがあったからだ。日本は憲法9条で、戦争の放棄だけでなく、国際紛争を解決する手段としての武力行使の放棄も明言している。先制攻撃の容認なんてのは現在の国際法上でも許されないだけでなく、政府/政治が遵守しなければならない憲法にも反する、絶対に容認できないことだ。
自民党は4/21の会合で、「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に変更し、攻撃対象に司令部など指揮統制機能等を追加した上で、政府に保有を求める提言案を決めた。
「敵基地攻撃能力」の名称を「反撃能力」に 幹部「気を使った」 自民党安保調査会が提言案:東京新聞 TOKYO Web
敵基地攻撃能力すら先制攻撃の恣意的な言い換えであるのに、それでも印象が悪いからと、今度は反撃能力と呼称を変更すると言うのだ。これを印象操作と言わずして何を印象操作と言おうか。
また、反撃能力という言葉選びも全く良くわからない。そもそも、敵基地攻撃能力というのは、相手国に攻撃を受ける前でもその国が日本を攻撃する前兆があれば、日本が先に相手国の基地を攻撃することができる、という概念だった。防衛の為に、ということを大義名分として。
日本語の反撃とは、敵の攻撃に対して防御にとどまらずに攻めかえすこと、を指す。つまり攻撃を受けてもいないのに相手を攻撃することは、反撃とは言わない。辞書によっては、劣勢にあったものが逆に、相手に対して攻撃をしかけること、と解説している場合もあるようだが、反撃とはやり返すこと、と認識している人が日本人話者の大半だろう。
しかし自民党は何かされる前に相手を攻撃することを反撃と言っているのだ。自民党には日本語ネイティブが一人もいないのだろうか。自民党は、先制攻撃の ”先制” を隠したいが為に、”先制”攻撃なのにそれを ”反撃”能力なんて言っているのだろう。
更には、これまで敵基地だけが攻撃対象だったのに、反撃能力に呼称変更すると共に、攻撃対象を敵基地に限らず拡大させるべきだ、とも言っている。
憲法の根幹、骨抜きする恐れ…自民党「敵基地攻撃能力」提言案、財政難でも「防衛費5年で倍増」:東京新聞 TOKYO Web
この図には首都などを攻撃を対象にする、のようなことは描かれていないが、政府などは基本的に首都に存在する。また4/4の投稿でも書いたように、自民党の元首相 安倍は、敵国中枢という曖昧な表現で、それも攻撃対象にしろと言っている。つまり安倍、いや自民党は、ウクライナの首都キエフへロシアが侵攻したように、日本も同じことができるようにしよう、と言っているのだ。
また、3/31の投稿で、海上自衛隊が反戦でもを敵視する資料を作成し記者らに配布していた件を取り上げたが、海自だけでなく陸上自衛隊も同様の資料を作成し使用していた、ということが明らかになっている。
専守防衛、つまり防衛に徹する組織であるはずの自衛隊が、”反戦”デモを敵視するとは一体どういうことなのか。戦争をやりたがっているのが自衛隊内にいる、海自も陸自もということなら、防衛省や政府内部に戦争やりたがって反戦を敵視する人たちがいる、とも推測できる。こんな状態で先制攻撃を正当化させたらどんなことになるか、そんな危惧が生まれるのは何もおかしくない。寧ろ、危惧しないのは平和ボケだ、とも言えるのではないか。
何にせよ、憲法が定める国際紛争を解決する手段としての武力行使の放棄を無視して、敵基地攻撃の保有を提言するだなんて、自民党は法解釈の歪曲に躊躇がない政党なので、当然憲法も法令も遵守する気はない と宣言しているようなものだ。これまでおよそ10年の自民党政権下で、隠蔽/捏造/買収/選挙違反など法の無視がどれだけ行われてきたか。それもその宣言を強く裏付ける。
これでも日本人が自民党を支持し続けるのなら、それは日本人の「法治国家やめます、独裁国始めました宣言」にほかならない。今夏の参院選はそういう選挙だ。