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憲法で保障されている表現の自由とは、国家権力からの自由

 成人年齢引き下げに伴い、これまで18-19歳にも認められていた未成年者取消権が適用されなくなることで、その年令層を狙った実質的なポルノへの出演強要が再び社会問題化するのではないか、という懸念が話題になったのは、およそ2ヶ月前・2022年3月のことだった。

 それについては以前の投稿で取り上げた。

3/24の投稿では、2人の現役AV女優のツイートを取り上げたが、その後気になった別の女優のツイートも紹介しておく。まずは2016年にデビューした戸田 真琴の5/16のツイートだ。注釈しておくと、彼女の言う AV新法に反対する人たちというのは、未成年者取消権と同等の規制に反対する人たちのことでなく、検討されていた新法の法案に、性交契約の禁止が含まれていないなどの理由で、検討されていた新法は不十分なので反対する、という立場の人たちのことである。

 もう一つは、2015年デビューの深田 結梨のこのツイートだ。このツイートがなされたのは3/25で、この頃はまだ、所謂AV新法の詳細が検討され始める前の段階で、話題の焦点は未成年者取消権と同等の権利を、成人年齢引き下げ後も18-19歳にも認めるべきだ、ということで、性交契約の禁止が含まれていないなどの理由で、検討されていた新法は不十分なので反対する、という話はまだなかった時期だ。

 ツイートがどのタイミングでなされたのかの差もあって、両者のツイートのスタンスは多少違いがあるものの、共通しているのは、未成年者取消権同等の権利を成人年齢引き下げ後も18-19歳にも認めるべき、ということについては、両者とも反対していない、寧ろ妥当というスタンスなんだろう、ということだ。
 戸田はそれについて殆ど触れていないものの、自分は問題のある契約を強要されたことはないが、そうでない人もいるかもしれない、とは言っており、それは、新たな規制は全く必要ないとは言っていない、ということだろうから、恐らく、その点について反対するものではない、ということなんだろう。


 前述したように、元々は、未成年者取消権同等の権利を成人年齢引き下げ後も18-19歳にも認めるべき、という話だったのが、新法の検討が始まると、法案に性交契約の禁止が盛り込まれていないのは問題がある、という話が出てきた。記事の掲載された時期を区切って見ていくと、5月以前にはそのような話は出てこず、赤旗のこの5/11の記事が恐らく最も早い記事なので、そんな話が出てきたのはゴールデンウィークが終わってすぐ、5/10前後だろう。

性交契約を合法化/AV被害 与党法案骨子 批判/支援6団体、見直し求める

 実際は、支援団体などは最初から、性交を行う出演契約は問題のある契約なので合法とすべきでない、と言っていたのかもしれないが、そのような主張は5月以前には見当たらない。4月の段階で検討されていた与党案については、自分もその曖昧さ、骨抜き加減に懸念を示していたが(4/14の投稿)、この、性交を行う出演契約は問題のある契約なので合法とすべきでない、という主張には全く賛同できない


 昨日・5/25に神奈川新聞がこんな記事を載せている。そしてこの記事にはこんなことが書かれている。

性行為伴うAV禁止の法制定を別途検討 立憲民主党が方針 #metoo #youtoo | カナロコ by 神奈川新聞

堤氏は「テレビや映画の殺人シーンで実際に人は殺さない」とした上で、「性行為の撮影や動画の売買を認めることは個人の尊厳を傷付け性的搾取を許すことだ。党としてさらなる対策を検討し進めていきたい」と表明した。

堤氏とは、立憲民主党の議員 堤 かなめである。この記事に対して、一部の立憲民主党議員などが、堤の主張は党全般のそれではない、のような趣旨のSNS投稿などをしているが、この堤の認識には大きな問題があり、党全体としての認識ではないのだとしても、記事のニュアンスが実態と大きく乖離していないのであれば、これは個別の主張としても容認できるものではない。なぜなら、堤の認識の背景には、女優を始めとしたアダルトビデオ関係者・性産業全般への蔑視があることが強く懸念されるからだ。
 性行為の撮影や動画の売買が、個人の尊厳を傷付けたり、性的搾取になり得る、という話なら理解はできる。しかし堤の主張はそうではなく、この言い方だと、性行為の撮影や動画の売買が、個人の尊厳を傷付けたり、性的搾取にしかならない、であり、つまりアダルトビデオ/性産業は全般的に不健全で撲滅すべきもの、と言っているも同然で、それでは不当なレッテル貼り以外のなにものでもない。戸田 真琴がツイートで主張していたのは、そのような認識のおかしさ、極端さであり、今アダルトビデオ女優である戸田も、堤のような認識は職業差別だと言っていて、まさにその通りだとしか言えない

 堤は、4/30の投稿で触れた、性産業やAV業界はすべからく女性を騙している!のような極端な認識を持つ活動家と同類なんだろうが、堤は国会議員であり、国会議員が職業差別・蔑視を厭わない、厭わないのではなくても自分のそれに気づかないのであれば、その種の活動家よりも問題は更に深刻だ。
 自民党には、外国人・同性愛・女性への差別や蔑視を厭わない議員が複数おり、それは極右と揶揄されても仕方がないのだが、堤のような議員がいれば、立憲民主党も極左と言われかねない。現野党への支持が広がらない理由は、こんなところにもあるかもしれない。


 赤旗の記事にあるように、一部の女性支援団体などが、性交などを行う出演契約を合法な契約として認めることは問題だとして、性交の禁止などを求めたり、堤のような一部の議員らが、性行為の撮影や動画の売買を認めることは個人の尊厳を傷付け性的搾取を許すことだなどとして、性行為を伴うAVを禁じる法律の実現を目指しているようだが、自分はそれには全く賛同できないし、それは表現活動への政治の介入にもなるから、寧ろそんな規制をしてはならないとすら考えている。
 一部では売春防止法との整合性を図る為に、性交を行う出演契約は禁止すべきだ、という主張が見られる。自分の記憶が正しければ、ソフトオンデマンドが出現する以前、ビデ倫がアダルトビデオの自主規制を行っていた頃は、殆どのアダルトビデオが疑似SEXで、モザイク処理をかける前の所謂流出モノの裏ビデオでは、男性器を女性器周辺にこすりつけていたものばかりだったように思う。勿論、元々裏ビデオ用に作られた作品では実際に挿入しているものもあったが。一般流通する所謂表作品に関しても、アレは疑似だとか疑似じゃないとかいう話が、噂レベルでまことしやかに囁かれていた。
 それが、ソフトオンデマンドなどインディーズと呼ばれた業者が台頭し、ビデ倫を通さないアダルトビデオが出回り始め、インディーズは疑似SEXでない、というのが密かなウリになり、今では疑似SEX作品は殆どない、のような状況なのではないだろうか。これはあくまでも記憶だけに頼った話なので、詳細には間違いもあるかもしれない。

 性交を伴う出演契約に反対する人たちも、さすがにアダルトビデオや性産業全般を撲滅せよ、とは言っていないので、つまりは、アダルトビデオは疑似SEXのみとすべきだ、のようなことを言っているのだろうが、なぜ、性行の撮影や動画の売買を認めることは個人の尊厳を傷付け性的搾取を許すことだが、疑似SEXならそうではない、と言えるのか。合理性がどこにあるのか全然分からない線の引き方だ。

 4/30の投稿や、5/16の投稿でも少し触れたが、この国の、国家権力・主に警察が、どんな出版物や映像作品がわいせつで、どこまでがわいせつでないかを一方的に判断し、性器などを描いたり撮影した作品を違法とする状況はおかしいと思っている。
 中国や中東などのポルノで女性の乳首が隠されているのを見て異様だとか過剰だと思う人は、決して日本でも少なくないはずだが、日本のポルノで性器の描写に全てモザイク処理や黒塗りが施されている状況も、同様の理由で異様だと言えるだろう。多くの日本人はこの状況に慣れてしまっていて、それが普通だとしか思わないんだろうが、個人的に、昨今、テレビで放送する映像に映り込む一般人の顔や飲料の自動販売機、自動車のエンブレムなどに過剰なまでにモザイクやボカシが施されるのは、映像として汚いとしか思えない。同様の理由でアダルトビデオや、性器が映っている洋画などのモザイクやボカシも、作品を汚しているとしか思えない。勿論、監督等が積極的にモザイクやボカシを効果として使うならその限りではないのだが。
 今の日本では国家権力による規制により、何が芸術の範疇で何が芸術とは言えない性的扇情表現かを一方的に決められ、権力のさじ加減だけで罪に問われるので、監督や作家の意図にかかわらず全てに一律にモザイクやボカシが施されるような状況なのだから、それは異様と言うよりほかない。モザイクやボカシの権力による強制は不自然である。


 性交を伴う映像表現を法で規制し非合法化するなんてのは、それよりも更に悪いかもしれない。表現の自由とは、国家権力に表現活動を規制されない、検閲されないという概念で、つまり国家権力からの表現の自由であり、それは日本国憲法でも保障されている。性交を伴う映像作品も確実に表現活動である。それを国が法律で一律禁止しようなんてのは果たして妥当か。自民党だけでなく現野党第1党までが、憲法の精神に反する法を作ろうとするなんてのは絶対に止めて欲しい。



 トップ画像には、エロス 性交 セックス - Pixabayの無料写真 を使用した。

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