スキップしてメイン コンテンツに移動
 

オリンピックに関連して・後編「IOCはオリンピックをどうしたいの?」


 この投稿は前日の投稿「オリンピックに関連して・前編「いだてんの喫煙シーンは悪影響を及ぼすか」」に続く後編である。本来は前後編にするつもりはなかったが、前編が思いのほか長くなったので分けることにした。取り上げる題材が異なるので、前編を読まずに後編を読んでも問題が生じないように書いたつもりだが、自分が2020年の東京オリンピックだけでなく、近年のオリンピック全体や、同様に世界的なスポーツ大会となったサッカーワールドカップにも賛同出来ない理由はそちらで書いたので、その点について詳しくは前編で確認してもらいたい。
 この後編で取り上げるのは、前編で示した3つのオリンピック関連報道の内の2つ
についてだ。


 まず前者の、CNNの記事「ブレークダンスをオリンピック新種目に、パリ2024提案」について。近年のオリンピックでは開催地提案の追加種目がいくつか行われる。東京オリンピックでは野球・ソフトボール、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンがそれに当たる。この記事で紹介されたのは、東京の次の大会、2024年に開催される予定のパリ大会組織委員会が、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンに加えて、ブレイクダンス(ブレイキン)を提案したということだ。因みに日本のメディアは概ね、「日本で人気のある野球・ソフトボール、空手が、東京大会だけの種目になりそうで残念」というニュアンスで伝えていた。
 CNNの記事は、この提案に対するIOC:国際オリンピック委員会の反応を以下のように伝えている。
 IOC広報は今回の提案について、オリンピックの活性化を目指す目標に沿っているとして歓迎の意向を示した。IOCも、「オリンピックのプログラムをジェンダーバランス、若者重視、都会性に配慮したものにするというオリンピックアジェンダ2020の改革目標に沿っている」との声明を発表している
別のメディアでは「若者のスポーツ離れ・オリンピック離れを食い止めたいというIOCの思惑がある」という見解を示していた。若者重視という点に触れていることを考えれば、また、若者に人気のアクションスポーツのイベントとして90年代に開催が始まったX-ゲームが、それらのスポーツのワールドカップのように存在感を強めている事を考えれば、若者のオリンピック離れを食い止めたいというIOCの思惑があるというのは的外れな見解ではなく、その通りの部分が少なからずあるのだろう。
 X-ゲームは、世界的なエナジードリンクの2大ブランドの1つ・モンスターエナジーがスポンサードしているが、もう一方のレッドブルも様々なスポーツの世界的な大会を開催しており、一定の存在感を見せている。そのような勢力が若者の人気を集めれば、オリンピックへの注目は相対的に低下するだろうし、新興競技を取り入れなければ古臭い印象を持たれると、IOCが懸念するのも決して不自然ではない。

 次は日経新聞の記事「「五輪」を商標登録 IOC、東京大会の便乗商法防止」について。記事は、
 国際オリンピック委員会(IOC)が、オリンピックを意味する日本語の「五輪」について特許庁に商標登録を出願し、認められたことが21日までに分かった。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、公式スポンサー以外の便乗商法を防ぐのが狙い。
と伝えている。出願された商標は「五輪」だけでなく、「TOKYO2020」なども含まれているようだ。また、大会組織委員会や日本広告審査機構などが、
  • TOKYO2020○○○○
  • ○○○○リンピック
  • 2020スポーツの祭典
  • 目指せ金メダル
  • ロンドン、リオ、そして東京へ
  • 2020へカウントダウン
  • 2020年にはばたく子どもたちを応援
  • 東京で未来の夢を実現
  • オリンピック開催記念セール
  • 2020円キャンペーン
  • 祝・夢の祭典
  • 「東京」「2020年」の使用(セット・単体ともに)
などを「不正便乗商法の恐れがある例」として示したそうだ。
 大会スポンサーの権利保護のため便乗商法を厳しく規制する為の施策なのだそうだが、拡大解釈が過ぎる例が含まれているのではないか。特に一番最後の例、「東京」「2020年」の単体仕様でも不正便乗の恐れがある、なんてのは最早「東京」という地名や「2020年」という年の一方的な私物化のようにすら思える。スポンサーの資金提供が開催に欠かせないのは分かるが、開催都市の市民が支払った税金だって、そして開催国の支払った税金だって開催予算の一部に使用されている。開催地での経済効果も開催のメリットとして挙げられている筈なのに、「目指せ金メダル」もダメ、「東京2020」もダメなんて言われたら観光客と関係のない商売にはなんの経済的なメリットもない。また、大会を盛り上げよう、と思う人も減るだろうから、若者に限らず市民のオリンピック離れを加速させようとしているようにすら思える

 そもそも五輪という表現だって、日経の記事にも書かれているように、
 五輪という言葉はオリンピックの俗称で、1936年に新聞記者が記事の見出しを短縮するために考案し、各新聞が使い始めて定着したとされる
表現だし、オリンピックも五輪も東京も2020も「目指せ金メダル」「祝・夢の祭典」も使用禁止なんて言われたら、オリンピックに関係ない表現までダメだと言いそうで怖い。金メダルも夢の祭典も、オリンピック以外でも使われることのある一般的な表現だ。確かに公式スポンサーが契約金を支払っている以上、優先的にオリンピックを広告に使用出来て当然で、便乗商法を防ぐ必要はあるだろうが、あまりにも一般的な表現にまでIOCが権利を主張し、それが認められてしまえば、IOCの匙加減で便乗商法か否かが大きく左右されることになりかねない。そんな状況になるのは勘弁してもらいたいし、そんな状況になればオリンピック離れは今以上に進むだろう。
 不正コピーを懸念した日本の音楽業界が、適正利用者にまで不便を強いるコピーコントロールCDなるものを導入した結果、技術の未熟さもあってコピーを防ぐこともままならない単に不便な劣化版音楽CDでしかなかったこともあり、相応の不正コピー抑制への効果も得られずユーザーの反感を買うだけの結果になり、結局数年で廃止したのと似たような事が起きるのではないかと推測する。

 IOCは、一方で若者のオリンピック離れを懸念しているのに、他方で自ら市民のオリンピック離れを加速させるような事をしており、結局何がしたいの?と言わざるを得ない。オリンピックがX-ゲームなどと同様に商業性重視イベントならば、国や自治体の予算をふんだんに投入するのは止めてもらいたい。例えば、某資本主義大国のテレビ局がスポンサーになっている都合で、競技の開催時間が某国時間に合わせて早朝や深夜に行われるような状況の何がアスリートファーストなのだろうか。何がアマチュアスポーツの祭典なのだろうか。羊頭狗肉の看板を掲げるのは止めた方が良い。商業イベントなら商業イベントとして開催するべきだ。商業優先なら企業の都合で開催時間が左右されようが文句を言う人もそれ程多くはないだろう。
 商業イベントではないという体裁で公的資金を利用し、開催への支持を募っているのに、中身はかなりの商業主義なのだから、やはり自分は東京オリンピックも、オリンピック全体も好意的に受け止める気にはなれない。まるで某テレビ局のあたかもチャリティ番組かのように装う24時間放送番組のようだ。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。