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女性活躍を推進しているはずなのに、女性が働きやすくなる制度に消極的な国、という矛盾


 ソフトウェア会社サイボウズの社長・青野 慶久さんらが国に対して、「夫婦別姓を選べない今の法制度は、法の下の平等を求める憲法に反する」として損害賠償を求めた訴訟の判決が昨日示され、東京地裁・中吉 徹郎裁判長は、この訴えを棄却した(ハフポストの記事「夫婦別姓訴訟は棄却、東京地裁。原告側は戸籍法の不備を訴えていたが…」)。
 原告らの訴えは、
 日本人同士の離婚、日本人と外国人の結婚、離婚では、戸籍上の氏を選択できるのに、日本人同士の結婚だけ認められていないのは、戸籍法上の不備
だと指摘していたが、裁判長は
 民法上の氏と、戸籍法の上の氏を区別する論法に対して、独自の見解で採用することはできないと退けた。 夫婦別姓を認めない民法750条の影響で生じている不利益を解消するかどうかは、国会の立法裁量に委ねるべき
という判断を示したそうだ。 つまり実質的に東京地裁は、司法からの判断を示さずに、判断する事自体を避けたというのが実情のようだ。


 BuzzFeed Japanの記事「夫婦別姓訴訟、サイボウズ青野社長らが敗訴 「見事にスルーされた」東京地裁」によれば、東京地裁が判断を避けた理由として、
 夫婦別姓を認めれば、個人が社会で使う「法律上の氏」が二つに分かれてしまい、現行制度ではそのような事態は予定されていないため、戸籍法の規定は合理性がある
という見解も示したようだ。 しかしこの見解は明らかにおかしい。何故なら、現行制度でも外国人との婚姻に関しては別姓を選ぶことができるからだ。外国人との婚姻において別姓が選択可能なのにも関わらず「現行制度ではそのような事態は予定されていない」と言い切る裁判官は、論理的な思考が伴っていないと言わざるを得ない。そのような者にまともな司法判断など期待できるだろうか。個人的には到底そうとは思えない。


 働く女性にとって、結婚や出産は働き続ける事に関する一種のハードルである。勿論、本来はそれがハードルにならない社会の実現が望まれているのだが、これまでの社会的な慣習や認識、風潮の影響もあり、それはまだまだ実現しているとは言えず、結婚や出産が女性が働く事に対する一種のハードルになってしまっている事は、多くの人が認めざるを得ないだろう。結婚に関して、流石に寿退社・結婚による退職の斡旋のような事は、10数年前に比べれば減ってはいるだろう。ただ、日本では結婚によって多くの女性が男性の姓に名を改めるケースが多く、尚且つ女性が仕事上旧姓をそのまま使い続けるケースが多い。つまり働く女性にとって結婚で姓が変わるというのは、仕事を続ける事に対するある種のハードルであることは否定できない。
 勿論、戸籍上は男性側の姓に改め、仕事上は旧姓を使用するので構わないという人もいるだろう。しかしそうでない・それでは対応として不十分であると考える人もいるし、その考えが非合理的だとは言い切れない場合も多々ある。

 男性である青野さんが何故選択的夫婦別姓を求めた訴訟の原告になっているのか。彼は結婚する際に、
 妻から「わたし(苗字を)変えたくない」って言われたんですね。「え? あ、そうなの、じゃ僕が変えようか?」みたいな感じで、僕が変えることにしました「名前なんて絶対多様化する」──妻氏婚を選んだ社長の未来予測 | サイボウズ式より)
と妻の姓を選択しており、戸籍上は西端 慶久だが実務上旧姓の青野を名乗っている。前述の記事でも紹介されているように、戸籍上の姓の変更に伴う株式の名義変更に数100万単位のコストがかかったことなどから、男女に関わらず姓を改めるのに大きなコストがかかることを実際に体験したから、彼は選択的夫婦別姓の必要性を訴えている。
 つまり、そのような、若しくはそれ以外の、姓を改めることによるリスクとメリットを天秤にかけて、変えたい人は変えればいいし、変えたくない人は変えなくてもよいという、働く人・特に女性が働きやすくなる為の、若しくは仕事での利便性を優先するという判断を理由に、結婚に消極的にならずに済むようにする為の制度・選択的夫婦別姓を原告らは求めている。

 3/24の投稿でも触れたが、現在の日本政府・安倍政権、つまり現首相の安倍氏は、女性活躍(というスローガンを掲げる事に、少なくとも表向きは)熱心である。2014年の衆院選の公約では、「すべての女性が働き方、生き方など自分の希望を実現し、個性と能力を十分に発揮できる 「すべての女性が輝く社会」の実現を目指す」としている。
 前述のように今回東京地裁は、司法での判断を避けるという姿勢を示した。前段で指摘したように、その判断を避けるのが妥当であるとする根拠にまず矛盾を抱えており、その判断が妥当とは思えないが、百歩譲ってそれを無視したとする。この件はこの訴訟で初めて取り沙汰された話ではなく、もう数年前から公になっている社会的な問題提起なのに、なぜ女性が働きやすくなる制度である選択的夫婦別姓の実現について、「女性活躍・全ての女性が輝く社会」を推進している筈の現政権や与党・自民党が、それに対して全く積極的に動いていないのかに大きな疑問を感じる。


 今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでもこの件を取り上げており、それに関する視聴者ツイートもいくつか表示されていたが、正しい前提に基づかないツイートがしばしば見受けられた。例えば、

「他国が夫婦別姓だからそれに合わせろ」と原告らが訴えているわけではない。


夫婦別姓が基本の国はいくつかある。別姓が選択できる国はもっと沢山ある。日本でだって外国人との結婚では既に別姓選択できる。つまり基本的にはどうにもならない。深刻な問題が生じるなら夫婦別姓を認める国がそんなに多いはずがない。生じる恐れが決して高くないことへの不安を煽るのは適当とは言えない。


超高齢社会、少子化が深刻な日本では兎に角結婚して貰ったほうがいい。とツイートしたら更に、
というツイートが返ってきたが、別姓が選択出来ない事で結婚を敬遠している人達が結婚しやすい環境の整備をそれらに加えたら尚良いのではないのか。どちらかで充分という判断が出来る合理的な根拠はどこにあるのか。

 これらのツイートだけでなく、これまで自分は「選択的夫婦別姓を認めない方がよい」とする整合性のある主張に出会ったことがない。 十中八九「伝統だから」か、これらのような適切な認識に欠ける主張が殆どだ。伝統的家族観を維持する為に選択的夫婦別姓を認めるべきではないという主張は、今朝のモーニングCROSSの視聴ツイートの中には見当たらなかったが、もしその手の主張があったなら自分はこうリプライしていた。
 婚姻前の姓を維持したい人が婚姻前の姓を名乗っても誰も損しないのに、伝統だから認めない、認めたくないということであれば、それは「伝統」を理由に、治療行為であっても土俵上は女人禁制であると言い張る相撲協会と同じだし、教員が存在理由を説明できない理不尽な校則を「ルールだから」と生徒に強制するのと同じだろう。
それ以前に、原告らが求めているのは、婚姻前の姓を維持したい人は維持し、婚姻後どちらかの配偶者の姓に統一したい人は統一出来る制度「選択的」夫婦別姓であって、全ての人に婚姻前の姓の維持を強制する制度ではない、という事を理解出来ない人があまりにも多すぎる。どのメディアも、この件を報じる際にはまずその点を強調するべきだろう。でなければ正しい認識が広がらないのではないか。

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